飲むぞ!
「おー。待っていたぞ。コウキ。」
「お、お邪魔します。」
おずおずと靴を脱いで大樹のあとについていく。ついでに説明しておくが、靴のお手入れサービス付きである。帰る頃にはこの立派なエントランスに新品同様にお手入れされた靴が並べられている。
いつもながらこの家に来ると、エントランスで圧倒されてしまう。俺は骨董品だの高級家具だのブランドはまったく知らないが、家の壁やカーテンにいたるまで高級品のオーラが漂っているんだ。何せ、この家は家庭であるのに自転車置き場というのがあって、きちんと屋根までついている。そしてこちらもお手入れサービス付きである。帰るときにはお手伝いさんの手によって、タイヤの空気を入れておいてくれるばかりではなく、ボディをピカピカに磨き上げてくれる。友達の中にはパンクしかけていたところをお手伝いさんが発見して修理をしてもらった奴までいる。車を出してもらうのも畏れ多いが、俺らの自転車の手入れをしていただくのもなんとも畏れ多い。つまり、お邪魔すること自体が畏れ多い家なのだ。
「待ってたぞ~!コウキ。」
パーティルームに入ると、すでにワイワイと部活のメンバーが集まっていて、もう赤い顔をしている奴までいる。おいおい。もう飲んでんのか?まだ3時過ぎだぞ。世間一般では受験生にあるまじき姿だろ。金持ちのすることは理解できない。だから理解すべきではない。
「よっしゃあ!揃ったところで乾杯すっぞー!」
「何回目の乾杯だよ~?」
大樹の声にツッコミが入るとみんながどっと笑った。そこへワゴンを押した執事がやってきて、好きなドリンクを取るように促す。きれいな色のグラスがたくさん並んでいる。どうせ全部これ、酒なんだろうな。
適当にグラスを手にすると、大樹がまた声を張り上げた。
「コウキの到着にかんぱーい!」
イエーイ!とみんながグラスを高く上げる。俺も少しだけ口をつける。未成年(しかも高校生)だから当たり前だけど、酒は強くない。とはいってもみんなは飲みなれている。こういう補導の心配もなく飲める環境が整っている奴らが多いからな。
大きなテーブルにはお手伝いさんが次々と料理を運び始めている。ビュッフェ形式で料理が並ぶのがいつものお約束。いつも思うが、この家は一体どうなっているんだか。