寄り道。
「今日だけは羽のばすぞ~!」
「受験勉強なんて今日だけ休んでやる~!」
今日は12月20日。二学期の終業式が終わった教室はザワザワとあちこちからそんな声が飛び交う。明日から冬休み。とはいっても受験生の俺たちは明後日から冬期講習。受験突破講習だ。昼間は学校の講習を受けて、夜は予備校に通う日々。でも終業式の今日だけはどちらも休講なので、みんな二日早いクリスマスと忘年会を泊りがけで楽しもうとワイワイしている。
そんな声の中、あの街路樹の下を思い浮かべていると後ろから肩を叩かれた。
「おい。来るだろ?」
「あ。ああ。」
そうだった。俺も誘われているんだ。俺の学校は私立の進学校で、家が裕福な奴も多く、別荘があったり、広い自宅にパーティルームがある奴、さらには住み込みのお手伝いさんのいる奴なんてのもけっこう多く、今回はパーティルームで一夜を明かす計画だ。俺はサラリーマン家庭だから、そういう奴らみたいな広い家や別荘、お手伝いさんとは無縁で肩身が狭いが、気前の良い奴らばかりなので、こういう時はありがたく参加させてもらっている。
「何時からだった?」
「着替えたら適当に来いよ。車、出そうか?」
「自転車で行くからいいよ。」
こいつ、今回の主催者でパーティルームの主は江川大樹。こいつの言う車というのは、親に車をださせるわけじゃない。専属の運転手がいるんだ。大樹の家には住み込みのお手伝いさんだけじゃなく運転手までいる。そして誘拐の心配があるからと、この“車”で登下校というお坊ちゃま。それに対して俺は自転車通学である。親は両親とも車を持っているが、登下校を毎日なんて頼むことはあり得ない。
「さて、と。」
家までの道のりを少し急ぐ。今日はコンビニで道草するのもやめて自転車の変速ギアを最速にして突っ走る。街路樹のことを思い浮かべながら。
「ちょっと寄ってみようかな。」
思い直して駅前の街路樹に行ってみる。クリスマスのイルミネーションはまだ明るい時間帯とはいえ、なかなかにぎやかで、あの街路樹の周辺も忙しく人が行き来している。けど、立ち止まっている人はいない。
「やっぱり、いないか…。」
いないよな。それに今日は約束の日じゃないし。
会えるといいな。本当は今すぐ会いたい。