四、いざ、王都へ
四、いざ、王都へ
翌朝、パレサとエシェナは、身支度を整えて、階段を下りた。すると、ソドマとラメーカが、筋骨隆々の中年の店主と談笑している所に出くわした。
間も無く、ソドマが、気付くなり、「やっと来たよ」と、口にした。
「二人共、遅いじゃないの。夜更かししていたんじゃないの?」と、ラメーカが、半笑いで、冷やかした。
「お姉ちゃん達が、早いのよ!」と、エシェナが、すかさず、反論した。
「あら? 言ってくれるじゃないの。でも、それくらいの強気になってくれたのは、嬉しいわね」と、ラメーカが、目を細めた。
「言う時は、言わないとね」と、エシェナも、微笑んだ。
「ソドマ、今日は、やけに落ち着いているんじゃないのか?」と、パレサは、きょとんとした。いつもならば、苛々して、不機嫌なのだが、今日に限っては、妙に、穏やかな感じだからだ。
「ラメーカさんの前で、醜態なんて見せられないだろ?」と、ソドマが、にこやかに、返答した。
「なるほど」と、パレサは、理解を示した。ラメーカの手前なので、男としての見栄を張っているのだと察したからだ。
「パレサは、いつもの通り、自分の感覚で、動いているね」と、ソドマが、溜め息を吐いた。
「それって、どう言う意味だ?」と、パレサは、眉間に皺を寄せた。何か、引っ掛かる物言いだからだ。
「成長していないって意味よ」と、ラメーカが、指摘した。
次の瞬間、「お姉ちゃん、それは、パレサさんに失礼よ!」と、エシェナが、抗議した。
「私は、パレサが自覚していないから、親切に言ってあげただけよ」と、ラメーカも、悪びれずに、しれっと言い返した。
「おいおい、喧嘩は止しなよ」と、パレサは、口を挟んだ。自分の事で腹を立てられても、迷惑だからだ。
「いいえ。お姉ちゃんは、少々、言い過ぎです。パレサさんの事を知らないから、無神経な事が言えるのです」と、エシェナが、頑なに、拒んだ。
「エシェナ、君の気持ちだけで、十分だよ。俺は、こういう事を言われるのには、慣れているからさ」と、パレサは、宥めた。腹が立つ事よりも、自分の事を、我が事のように怒ってくれるという喜ばしい気持ちが、上回っているからだ。
「そうね。あなたが、そこまで怒るのだから、私に、非が有るという事ね」と、ラメーカが、折れるように、認めた。
「エシェナって、言う時は、言うんだなあ~」と、パレサは、感心した。まるで、別人に見えたからだ。
その直後、エシェナが、顔を赤らめるなり、俯いた。そして、「そ、そんな事、ありませんわ…」と、か細い声で、否定した。
「そこが、エシェナの欠点なのよね…」と、ラメーカが、溜め息を吐いた。
「確かに…」と、パレサも、同調した。特に、恥じるような事は、言っていないからだ。
「自分に自信が無いから、下を向いちゃうんだよ」と、ソドマが、代弁するように、補足した。
「そうかも知れないわね。皆が、気が強いわけじゃないからね」と、ラメーカが、聞き入れた。
「だな。ラメーカみたいに、そういう性格でもないようだからな」と、パレサは、見解を述べた。負けん気を前面に出す印象が、薄いからだ。
「何か、引っ掛かる物言いね」と、ラメーカが、不快感を露にした。
「ラメーカさん、パレサは、悪意が有って言っているんじゃないんですから…」と、ソドマが、すかさず、宥めた。
「分かったわ。また、エシェナに怒られちゃうからね」と、ラメーカが、素直に聞き入れた。
そこへ、「お嬢ちゃん達、どうやら、打ち解けたみたいだな」と、筋骨隆々の中年の店主が、口を挟んだ。
ラメーカが、振り返り、「ええ」と、応じた。
「無理だと思ったら、ここへ、戻って来れば良い。ここは、いつでも営業いているからな」と、筋骨隆々の中年の店主が、にこやかに、言った。
「そうね。すぐに、戻って来るようになるかも知れないけどね」と、ラメーカが、しれっと答えた。
「ははは! かもな!」と、筋骨隆々の中年の店主も、相槌を打った。
「ちぇ!」と、パレサは、舌打ちをした。笑えない冗談だからだ。
「パレサ、遠回しに、言ってくれているって事だよ」と、ソドマが、宥めた。
「それならそうと、言えば良いのに…」と、パレサは、ぼやいた。回りくどい言い方は、あまり好ましくないからだ。
「まあまあ」と、ソドマが、取りなした。
「お嬢ちゃん達、今からだと、夜には、森の真っ只中だぜ。明日にしたら、どうだい? 何かと物騒だからな」と、筋骨隆々の中年の店主が、忠告した。
「あたしと妹だけなら、そうするけど、今は、男手が有るから、行ける所まで行くつもりよ」と、ラメーカが、気丈に答えた。
「そうだな。要らん心配だったな」と、筋骨隆々の中年の店主が、折れるように、理解を示した。そして、「兄ちゃん達、二人の事を、宜しく頼むぜ」と、力強く託された。
その直後、「はい!」と、パレサとソドマは、胸を張って、返事をした。
「では、ソドマさん、参りましょうか!」と、ラメーカが、ソドマの左腕へ組み付いた。
その刹那、「ええ」と、ソドマも、頷いた。
少し後れて、エシェナが、右手を握って来た。そして、「出発しましょう」と、告げた。
その瞬間、四人は、出立するのだった。