プロローグ 街道
プロローグ 街道
逆立ったボサボサの茶髪頭に、腰の左側には、真新しい剣を携えた軽装の身形の誰が見ても、一目で、旅の初心者だと判る人間の若者と焦げ茶いろの毛並みに、黒くて硬い革の装丁が施された分厚い書物を左脇に抱えた武器を持たないウルフ族の若者が、ふらふらと当ても無く、街道を歩いていた。
人間の若者の名は、パレサ・フレリック。向こう見ずで、思い立ったら、じっとして居られない短気な性分である。
ウルフ族の若者は、ソドマ・ドッツェ。パレサの幼馴染であり、パレサとは対称的に、考えてから行動する慎重な性格だ。しかし、常に、パレサに押し切られるという気の弱さが、欠点であった。
二人の旅も、パレサの英雄への強い憧れによって、始めたものであり、足の向くまま、気の向くままの結果、現在に至っているのだ。
「パレサ、今日は、何処で寝ようか?」と、ソドマが、問い掛けて来た。
「そうだな。手頃な繁みにでも入って、寝るとしようぜ。道のど真ん中で、寝転ぶ訳にもいかないからな」と、パレサは、何も考えずに、即答した。宿の在る宿場に辿り着かないのであれば、野宿をするだけだからだ。
「パレサ、レーア国へ入った途端に、盗賊に襲われるなんて、何かおかしいよ」と、ソドマが、口にした。
「そうか? まあ、盗賊の類は、何処にでも現れるものだから、俺は、あんまり気にしていないけどな」と、パレサは、さらりと返答した。いちいち盗賊を気にしていては、旅なんて、到底、続けられるものじゃないからだ。
「パレサ、今日は、多少、暗くなっても、宿場へ行き着こうよ。三日三晩、食事と睡眠が、満足に出来ていないんだし…」と、ソドマが、懇願するように、提言した。
「分かったよ。今日は、お前の心配性に、付き合ってやるよ」と、パレサは、些か、面倒臭そうに、応えた。
その直後、「そうと決まれば、急ごう!」と、ソドマが、嬉々として、歩調を速めた。
「やれやれ」と、パレサは、溜め息を吐いた。偶には、ソドマの言う事を聞き入れてやらなければならないと思ったからだ。少し後れて、追った。
間も無く、二人は、昼下がりの街道を突き進むのだった。