裏垢
その日一日、クラスの人は日向以外、よそよそしかった。
「あの子、発狂してたらしいよ」
「うわぁ、キチガイじゃん?」
「こわぁ・・・」
クラスの女子がヒソヒソ話しているのも聞こえた。
ほらね、私はあくまで夜のオマケだったんだ。
私に人間的な魅力なんてない。
最後の授業のチャイムが鳴ると同時に、私はサッと教室を出た。
今日はやらなきゃいけないことがある。
「ねぇ!朝乃!!どこ行くの?」
昇降口で靴を履き替えたあたりで日向が走ってきた。
もう、夜はいないんだから、クラスで浮いている私なんかに話しかけなければいいのに。
「ちょっと、用事。日向、部活でしょ?遅れるよ?」
「あの…、さ」
そう切り出した日向は、俯いたまま続きを言おうとしない。
「私、急いでいるから」
サッと踵を返して学校を出た。
早くしないと、間に合わなくなっちゃうかも。
ユウちゃんが、夕子ちゃんが下校する前に捕まえなきゃ。
電車で自分の学校の最寄り駅から2駅離れたところに、松商の最寄り駅があった。
「松原商業高校前」なんていう、親切な駅だ。
駅を出てすぐ、正面に高校が見えた。
校門のところにある、高校名を確認して校門の前に立つ。
松商生と思われる生徒が、こちらをちらちら見ながら下校していく。
夕子ちゃんは帰宅部なのか、それとも何かしら入部しているのか…、だめだ、圧倒的に情報が少ない。
私は臆病なくせに考えなしで行動するところがある。
今更ながら、自分の性格を恨んだ。
そもそも、昨日の今日で学校どころではなかったかもしれない…。
家に行ったほうが会う確立は高いはずだ。
時間にして、30~40分が経った。
やっぱり、日を改めるか、ちゃんと調べて確実に会えるところで待ち伏せよう。
そう思って、歩き出したところだった。
「なんであんた、ここにいるわけ?」
嫌悪感を全開にした声が聞こえた。
「あ、夕子ちゃん」
「気安く呼ばないでよ」
低い声で呻るように言われた。
私を睨み付ける目は、やはり腫れていて、痛々しかった。
「あの、私、夜のこと、全然知らなくて、だから、夕子ちゃんがなんで夜が死んだか知ってたら教えて欲しくて…」
「いいよ、じゃあ教えてあげる。夜がツイッターしてたの、知ってる?」
「え?うん、私もフォローしてるよ?」
「それが本アカってやつ。夜のアカウント、1個だけじゃないんだよ」
「え?」
「裏アカ。これは私とか中学のときの友達しか知らない」
「ひ、日向は?」
「日向も知らない」
「そ、その裏アカがどうしたの?」
「あんたのこと、たーくさん書いてたよ。見せてあげる」
夕子ちゃんは携帯の小さな画面を私に差し出した。