二面性
「鳥海さん、大丈夫?」
「あ、先生…。大丈夫です」
私が起き上がったことに気がついたのか、保健医がカーテンから顔を覗かせた。
「今、1時間目の途中だけどどうする?帰る?」
「とりあえず、1時間目終わるまで、ここにいても良いですか?」
「もちろんよ」
保健医はベッドのカーテンを全開にし、椅子を勧めた。
勧められた通りに座ると、温かいコーヒーが差し出された。
「あっ、コーヒー大丈夫だった?砂糖もミルクもあるけど」
「いえ、このままで大丈夫です」
「そう?高校生とはとても思えないわ」
「可愛げがないですよね」
「かっこいいじゃない。ブラックコーヒー飲んじゃう女子高生」
夜はコーヒーが飲めなかった。
どんなにミルクや砂糖を入れても駄目。
スタバのフラペチーノもコーヒーの味がするものは飲めなかった。
温かいコーヒーを飲む。
「これ…、インスタントじゃないんですか?」
「お、味が分かるかい?そうなの。職務乱用で保健室ではコーヒーメーカーを設置しております」
ニヤッと保健医が笑う。
「私も保健の先生になろうかな…」
「お、いいね。でもまぁ、こんなに自由な学校、なかなか無いけどね」
先生は椅子をくるくると回している。
本当に自由に過ごしているんだな、先生は。
「先生は、身の回りの人が自殺したことはありますか?」
「身の回りの人…、今回の柏倉さんの話?」
私はうなずく。
「この学校で夜と一番仲が良かったのは私だと自負しているのですが、なんで夜が死んだか全然分からないんです」
「柏倉さんねぇ…、確かに絵に描いたような根明だったよね」
「先生も夜のこと知っているんですか?」
「だって目立つでしょ?あの子。生徒会の委員やってるし、全校集会の時もよく進行してるじゃない」
夜は活発な子だった。
先生までもが、目を引かれるほど。
「なんで死んだんだろう」
「さぁ…、でもああいう人前で明るく振舞っている子のほうが案外、暗い部分があるのかもしれない」
「暗い部分?」
「誰だって、二面性を持っていると私は思うわ。99%の明るい柏倉さんの裏に1%の暗い、負のほうの柏倉さんがいたのかもしれないわ」
私にすら見せなかった、夜の暗い部分。
それをユウちゃんは見ていたのかもしれない。
怖いけど、ユウちゃんに会わないと解決しないと思う。
その時、保健室のドアがノックされた。
「はーい」
保健医が返事をしながらドアを開けた。
「あら、小山くん」
「こんにちは、先生。朝乃を迎えにきました」
「ちょうど落ち着いたところよ。鳥海さん、小山くん来たけど…、授業戻る?帰る?」
「あ、えっと…」
帰りたいけど、わざわざ迎えに来てくれた数少ない友達の一人を無下には出来ない。
「戻ろう、朝乃」
ニコニコしている日向を見ると、断り切れなかった。
「あ、えっと、授業出ます。コーヒーご馳走様でした」
保健医に頭を下げて、日向に続いた。