擦り寄る、夜の死
「ちょっと!!朝乃!!こんなとこで寝てたの!?」
母の金切り声を聞き、意識が覚醒する。
どうやら、私は居間で寝てしまっていたらしい。
「昨日の意識無いや…、おはよう」
「もう。ここ、寝痕ついてる」
母が頬を指差している。
自分の頬を触ってみると、確かにぼこぼこしていた。
寝痕を擦りながら、ふと時計を見る。
昨日、遅くなるとは言っていたけど、5時となると早いのか遅いのか、怪しいところだ。
「おかえり。本当に遅かったんだね」
「ちょっと、お店のママが調子悪いみたいで、ママ代理よ」
イテテテと腰に手を当てながら母は浴室に向かっていく。
私も、準備しよう。
母が遅かった日は、朝ごはんや弁当の準備は私がすると決めている。
自分の弁当箱を取り出す。
水色の小さめの2段弁当。
夜のは、同じ形でピンク色だった。
「あんたら、夫婦かよ~」と、周りの子には冷やかされていた。
片割れが使われることはもう、ない。
そう考えると、涙が浮かんできた。
1晩経って、夜の死がジワジワと私に擦り寄ってきている。
急に、フライパンが、弁当箱が、菜箸が…、ずっしりと重く感じられた。
足も腕も、体が重い。
「朝ごはん、ありがとう。やだ、まだ着替えてなかったの?」
「…、ママ、学校いきたくない」
「…。珍しいわね。いつもは飛んで学校に行くのに。まさか、昨日の…」
「あの子が…、夜がいない学校なんて行かないほうがマシ」
「あなたが辛いのは重々承知よ。だけど、せっかくパパと離れてまで通うって言った学校でしょ?今が頑張り時じゃないかしら」
「うん、そうだね」
「一回行ってみて、駄目だったら帰ってきなさい」
「…、わかった」
しぶしぶではあったけれど、頷く。
重い腰を上げ、ゆっくりと制服に腕を通した。
校門の所には、ここもまた、カメラを持った人がたくさんいた。
通る生徒に飽きもせず、声をかけている。
私にも、例外なく、話しかけてこられた。
「柏倉夜さん、ご存知ですよね?」
叫んでしまいそうになるのをグッと堪える。
「一昨日の未明、自殺されたようですが、どういった子だったのでしょう?」
「…、て」
「すみません、お声が遠いようで」
小さく呻くように答えた私に、リポーターはぐいとマイクを近づけてきた。
「やめてください!!夜のことは夜しか分からない!勝手に夜の像を作るのはやめて!!」
そこからは記憶が曖昧だった。
覚えているのは、沢山のフラッシュ。
自分の甲高い叫び声と、止めようとする大人たちの大きな声。
気づいた時には、保健室のベットの中だった。