私が夜を殺した?
夜が死んだ
そう騒いでいた男子生徒は、確か、夜と同じ地区に住んでいたはずだ。
とすると、夜は昨日の夜から今朝の間に亡くなり、発見されたのだろうか。
どうして、夜が?
病気…、はしていなかったはずだし、他殺だったら「死んだ」ではなく「殺された」になるし、突発的な何か…、心筋梗塞や脳梗塞などという歳でもない。
まさか、自殺?
一番ありえない。
あの夜が、死はおろか、自殺なんて絶対にありえない。
まるで太陽をそのまま擬人化したような子なのだ。
その日、一日、夜のことで頭がいっぱいで何も覚えていない。
気がつけば、全授業が終了していた。
担任が夜について何か言っていた気がする。
死んだことは事実のようだが、学校側もそのほかの連絡は待っている状態だとか、何だとか。
ふらふらと覚束ない足取りで、気づけば、夜の家の前まで来ていた。
何度か、お邪魔させていただいた家。
いつもと違うのは、既に話を聞きつけた野次馬が囲んでいることだった。
やめて。夜はそんな風に世間に晒されるような悪い子じゃない。
私は、野次馬を掻き分けて、叫んでいた。
「夜!!夜!!!」
それが聞こえたのか、夜のお母さんが玄関を開けた。
一斉にフラッシュがたかれる。
「朝乃ちゃん、入って」
夜のお母さんが入れてくれた。
夜が死んだのは、早くても昨日の夜だというのに、お母さんはげっそりとしているようだった。
「夜は…」
「亡くなったわ。今朝ね、起きてこないから、変だなぁって思って、部屋を除いてみたら居なかったの。お風呂場で腕をきっていたわ」
震える声で途切れ途切れに、お母さんは話してくれた。
死んだときの夜の姿を思い出したのか、お母さんは顔を覆って、その場に泣き崩れてしまった。
「お母さん…、ねぇ、リビングにいきましょう?」
私は、夜のお母さんを支え、背中を擦りながら、リビングに入るように促した。
私にはそうすることしかできなかった。
リビングには夜のお父さんが頭を抱えて座っていた。
仕事に行く途中か、仕事中に帰ってきたのかは分からないが、ワイシャツにスラックスの姿だった。
「ああ、夜のお友達の…、朝乃ちゃんだっけ?」
疲れた表情で私を見て言った。
「こんにちは…」
夜の居ない、夜の家はこんなにも寒々としているのか。
本当に、夜は太陽が人間になったような子なのだ。
教室だって、まるで太陽を失ったようだった。
ガチャっと扉が開く音がして、振り返る。
そこには、私と同じくらいの歳の女の子が居た。
夜に姉妹はいなかったはずだ。
誰だろう?初めて見る顔だ。
その女の子は、私を見ていた。泣き腫らした目で私を睨みあげた。
「あんたが、朝乃?」
「え?は、はい。はじめま…」
刹那、頬に衝撃が走り、予期していなかった体は、地面に倒れこんだ。
思いっきり、顔をビンタされた。
「朝乃ちゃん!?」
夜のお母さんが私に駆け寄る。
私は驚いて、上体を起こし、その子を凝視した。
「あんたが!あんたが、夜を、夜の居場所を奪ったんだ。このっ…、人殺し!」
敵を見るような形相で、今度は私を見下ろしている。
「ユ、ユウちゃん!朝乃ちゃんを、夜のお友達を人殺しだなんて…」
お母さんがオロオロと私の顔と”ユウちゃん”の顔を交互に見ている。
「本当だよ。こいつが夜を殺したんだ」