策士男
「それじゃあ始めに自己紹介をしましょう」
宮路原と一緒に逃げた女が言った。ここではリーダー格らしい。
「順に名前を言っていくわ」
女たちは各自でコホンとわざとらしい咳払いをして、名を言った。
「犬森静海」
「雉貝荒地」
「猿島空」
「鬼退治行くの?」
何とも言えない空気が辺りを漂う。宮路原はそんな三人を順番に見ながら名を名乗った。三人の表情は一ミリも動かない。それどころか、こいつ誰、という視線が唯一の男の顔に突き刺さる。
「本日より斗森塚防衛隊に入会した宮路原茂雄よ。みんな仲良くしてあげてね」
リーダー格である犬森は宮路原を指さした。途端に犬森の両隣の二人が引きつった顔になる。
「あなた男よね」
宮路原は頷く。
「リーダー、男子禁制の法は」
「分かっているわ。けれど事態は一刻の猶予もない。頼れる力は多い方がいい」
「本当に頼れるんですか。こんなエノキみたいな男を」
(エノキをなめるな)
宮路原は胸の内で唱えた。
「心配しなくても大丈夫。走りは中々だったわ」
犬森の着目点に違和感を覚えながら、宮路原はポケットから携帯電話を取り出した。斗森塚にもう一度電話を掛けてみる。
しばらくコール音が流れたが、留守番電話に切り替わり、機械音声がメッセージの要求をしてくる。
「つながらないな」
「いま、さとしんは拘束されてるの。網島一派の連中に常に見張られている。携帯電話も没収されてるだろうし、かけるだけ無駄よ。逆に怪しまれるだけだわ」
「それ、掛ける前に言ってくれる?」
「ともかく、ともりんを救うためにはあのマンションに侵入して、直接連れ出すしかない」
「方法は?」
犬森は押し黙った。それは策がないという返答であった。
マンション周辺には巡回、中にも何人も網島の配下がいるのは明白。
それ故に我々の戦力では突破は不可能に近かった。
「こうなったらもう色仕掛け作戦しかないわ」
今まで黙っていた雉貝が突然そう言った。
「私たちの魅力で網島一派の連中を悩殺して……」
「やめとけ、相手を絶望させるだけだ」
「まだ話の途中でしょうが!」
「お前、まさかあの連中に一生消えないトラウマを植え付ける気か。あいつらだって人なんだ、もう少し人権を尊重しろ」
「なっ、それどういう意味!」
「ともかくだ。何にせよ斗森塚と連絡を取らないと始まらない」
「だからそれができたら苦労は……」
犬森はため息をつく。宮路原はそんな犬森を横目に話を続ける。
「というわけで、そんなときの秘密道具……、タッタラー、マンションの合鍵ぃい」
効果音の発声と共に、宮路原はポケットから一本のキーを取り出した。
「どうしてそんなものを」
「斗森塚が置いてった」
斗森塚が連絡先を書いた紙切れと一緒に合鍵を残していたのだった。一度はゴミ箱に捨てることも考えた宮路原だったが、その鍵の存在が宮路原茂雄という男をここまで動かす原動力となったのは言うまでもない。それほどの危機的状況。鍵を手にしたとき、宮路原は直感した。
(これ絶対変なことに巻き込まれてるな、オレ)
とにもかくにも突破口となるスーパーアイテムを前に、女三人のテンションは爆発した。
「でかしたわ、みやじーーー!!!」
「私の目に間違いはなかったようね」
「やればできるじゃない!!」
女三人は喜びのあまりその場で飛び跳ねていた。
(こうなると思ってたから出したくなかったんだけど)
ただ一人、宮路原だけがひどい倦怠感に苛まれていた。これから始まる戦いを憂鬱としか思えない。しかし、これほど大事なモノを渡されて、知らんぷりしていられるほどの度胸もないのだった。
「となると、問題はうろついてる男どもをどうするかよね」
改めて、犬森が場を仕切った。
「おとり作戦とかどう?」
そう提案したのは雉貝だ。
女三人は示し会わせたように一斉に宮路原の方を見る。
「初めからおとり役にするつもりだったのか」
「いいえ、でも私たちみたいな女性が捕まったら、あいつらに何されるかわからないじゃない」
言い返したい事は山ほどあったが、宮路原は優しくこう言った。
「鏡って知ってる?」
「鏡くらい知ってるわよ」
「そうか、ならいい。だが、そんな面倒なことするよりもっといい方法があるぜ」
宮路原は得意気にそう言い、ポケットから携帯電話を取り出した。




