22夜目 可愛い後輩は気に入られたようです。
「...は?」
な、え?次期会長決めるために読んだんじゃないの...?え?
「俺らは咲夜が入院してる間に抗争が起こった時の対処方法と、咲夜の婚約の話をしたくて集まってもらったんや。お前...渚は俺の子供の中で一番頭が回るし作戦を立てるのが上手い。香織は多少強引やけど相手の組を徹底的の根元から潰していく非情な作戦を立てられる。やからわざわざここまで来てもろたんや。」
「...という事は、兄さんが入院してる間に抗争が怒ったら戦力が足りないからお前らも戦えってこと?」
「だぁぁ!違う!!お前らの案を聞きたかったんや!お前らを抗争に巻き込む気もさらさらないしただ思ったより咲夜がおらんくなったんはキツかった。やからお前ら2人の作戦を聞きたかったんや。」
父さんはイライラした様子で早口で話す。
え...いや、完璧次期会長決めやろーって思ってきてたから。...え?私の勘違い...?
「...っ...!」
あっっっつ。顔あっっっつ。
「ぉ?顔面真っ赤やけどなんや?」
「恥ずかしい...めっちゃ...気合い入れてきたのに...土下座までしたのに...。」
「早とちりがお前の弱点やなぁ?」
ニヤニヤして言うくそじ...お父さん。
「取り敢えず、香織引き戻してきてくれ。ついつい頭に血が上ってなぁ。」
申し訳なさそうに眉を下げ、がしがしと無造作に頭をかく。
周りにいた部下達が一礼してから香織姉さんを探しに会場の外へ行く。
「...っふふ...。」
「...?」
「?」
不意に栞菜が口を押えてうずくまりだした。
「栞菜?!どうした...」
「ごめ...ふっ...あはっ...。」
「...嬢ちゃん?どないしたんや?あ?」
「...うそでしょ」
まさか...栞菜笑ってる?え?なんで?
「ごめん...なさっ...笑っちゃダメなのに...ふふ...。」
本当にやばいと思ってるみたいで汗をダラダラかきはじめた。だが無情にも何かが栞菜のツボをきっちり抑えてしまったようでただただ笑うしかない。
「な、何がそんなに面白かったの...?」
「だって...ふふ...凄い緊張してたのに...勘違い...ふふふっ...。」
「〜〜〜っ!!栞菜のあほ!!もうなんっ...もぉ!」
「ごめっ...っっ助けっ...あはははっ...!」
それで笑ってるの!?信じられない...!!あーーーもう!!恥ずかしすぎて頭ぐるぐるしてきた!!
「っぶっ!!だっはっはっはっ!!ははははははは!!!」
お父さんがつられて顔を真っ赤にしながら笑い始めたことで会場の人達がくつくつと笑いだした。
「やだっ...もぉ...止まんな...ふふふ...!!」
「なんでぇぇぇー???」
2分後
「...くくく...悪かったって渚。にしても嬢ちゃんおもろいなぁ。東京の萎えっ子にもこんなおもろい子おると思わんかったわ!」
「...最悪...。」
「...ごめんなさい。」
私は羞恥心の限界で、栞菜は大切な場で笑ったことで死ぬほど萎えている。
「なんで謝んねん!俺は気に入った!!」
「...っありがとうございます...。」
顔を両手で隠しながらモゴモゴと話す。
誰がこんなことになると予想しただろうか...。
「...はぁ。」
「たーだいまーー。勘違いやったんかーーごめちょごめちょ。」
ガラッと襖を開いて香織姉さんと彼女さんがスタスタと戻ってきた。
そこから本題に対しての作戦を言い合い、終わった頃にお父さんが珍しく頭を下げて実家まで出向いてくれた感謝と呼び込んだ非礼を詫びた。
「...めっずらしーこともあるもんやなぁ。」
なんて、香織さんは言っていたけどお母さんが生きてた頃の父さんはこんな感じだった...気がする。
「...で、二番目のことなんやけど、咲夜の婚約者...の話や。」
「...マキさんでしょ?」
兄の婚約者浅間 真紀さん。容姿こそそこまで優れたものじゃないが、敵対している組との和親を含め、政略結婚という形で婚約する事になった。真紀さん自体、戦いを好まず戦闘狂の兄とは気が合わないと思ったが、凸凹コンビとでも言うべきか、思ったより仲良く楽しんでいた。
「咲夜が婚約破棄した。」
「...え?よくやってたじゃないですか。」
「そう思って俺も何故か問いただしてみた。好きな人が出来たそうで、俺からしたら浅間組との仲も考えてどうにかして結婚してくれないかと言ったが両者納得で、2人で頭をさげにきよった。」
苦虫を噛み潰したような顔をして話した。
真紀さんも...好きな人が出来たってこと?
「悪いけど、私この後用事あるから抜けさせてもらいます。」
会議が始まって以来初めて言葉を発した優華。
「分かった。」
それを横目に優華は早足で会場を出ていった。
「...それで、会長はどうするつもりなんですか?兄さんの好きな人と結婚させるおつもりで?」
1人の部下が低い声で言う。
確かに、そうなれば浅間組との仲は保証できない。
真紀さんは言わば私達の組の人質。兄さんは浅間組の人質ということになる。それが両者無くなるとなればどちらも失うものはない。攻めることも出来る。
「...俺と妻はな、恋愛結婚やった。経験談を含めて、次期会長になる咲夜には幸せになって欲しい。俺は咲夜の意中の相手との結婚を認める。文句あるもんは言え。俺は浅間組には手出しするつもりは無い!やけどな、あっちから手ぇ出して来よったら俺は真正面から受けるつもりや。その覚悟は出来とる!今、その覚悟をしてくれ!俺についてくるやつはてぇ上げろ!無理なやつは組から出ていってくれて構わん!!」
ガンッと目の前の机を拳で叩く。
静かに、会場の全員が手を挙げた。覚悟を決めた顔をして。
これだからヤクザはいやなんだ。命を上の者に託す。そんな重いやり取りはしたくない。
「決まったみたいやし、私は帰らせてもらうな。栞菜。」
「あっ...うん!」
「抗争の案ありがとうな。やっぱりお前をこの組から抜くのはなかなか悔しいなぁ?」
ニヤリと私の目を見据える。
この目が怖かった。私の全部を見透かすこの目が。
だけどもう決めたのよ。この組よりもどの人よりも、私は栞菜が1番大切。
「...失礼します。」
取引先と話す時のようにニッコリと笑って栞菜と会場をあとにした。
「...はぁ、ごめんなさい。一緒にいてくれてありがとう。」
「...んーん。渚のお父さん、いい人だね。渚のことも香織さん?とかのこともちゃんと大好きだーって顔してたよー?」
幸せそうに私に抱きついた。
「...愛されてたのかしら。」
「私が言うから間違いないよ...。渚が私を見る時と同じ目をしてた。」
「...ふふ。信じるわ。さ、帰ろうか栞菜。」
「うん!」
今回実家に帰ってきたことで足の重りが取れたような気がした。また、帰ってきてもいいかもしれない。
...いや、やっぱ遠慮しとこうかな。
「もう帰んの?」
「...あ、香織姉さん。うん。やっぱここは息が詰まるし。」
「なぎちゃん...おひさ〜。」
香織姉さんの隣にいる律音さんがピラピラと手を振りながら声をかけた。
「律音さん、お久しぶりです。」
ほんと美人だなこの人。
「...彼女?」
香織姉さんが栞菜を見て聞いた。
「うん。彼女。」
「...ふふ、あー!いややいやや。渚も大人なってー。」
そう言ってから香織姉さんは言葉とは裏腹にとても嬉しそうに笑った。
「じゃーな。」
くしゃっと私の頭を撫でて律音さんと部屋に戻った。
少し、ほんと少しだけ香織姉さんのあの笑顔にキュンとした。
「...んー、今日はここで休む?それか東京帰る?」
隣にいる栞菜に聞いてみると困ったような笑みを浮かべて言った。
「帰ろう。」
五月にまた私の家まで長い時間をかけて送ってもらった。帰る途中、五月は私にもう一度だけ私に会長になって欲しかったと呟いた。
その言葉には何も返答しなかった。それが正解だと思ったから。