表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ただ今10時ぴったり可愛い後輩にキスをされました。  作者: 猫又二丁目
上山 凛子の最初の一歩
17/38

番外編 17夜目 甘い缶コーヒー

今回は凛子のお話になります。渚と栞菜の話を待っていた方は申し訳ありません。今回は長い話になっておりますので、気長にお読み下さい。

(それと、長い話なので、誤字が多いかも知れませんので、良ければお教え下さると有難いです。)

上山 凛子(25)もう彼氏のひとりやふたり...いや、ふたりはだめだな。彼氏がいてもいい歳、結婚を考えてもいい歳、それが25歳だ。


「はぁ...。」


まぁ、男ではなく、女が好きになって、その人と付き合ってるのかって言われると、清々しいほど綺麗に振られましたって、どんだけ窮地に追い詰められてんだよ。


危機を感じながら、麻木先輩のパワハラ(大量の書類の作成、整理など)を、キーボードをカタカタうち消化していく。


麻木先輩、もとい麻木 萌(あさぎもえ)先輩は私の高校の時のクラブの先輩で、名前と見た目の可愛らしさからは検討もつかないほどの、怖い人だ。

...まぁ、そんなに悪い人ではないけど。


「はぁぁぁ、このパワハラめんどくさいぃ...。」

社内にはちらほら2,3人いるだけだ。はぁ、めんどくさいぃぃ...!

...でもまぁ、今は仕事に追い詰められているせいで、変にネガティブにならず、余計なことは考えていないと言えば嘘になるが、あまり、考えないで済んでいる。


にしても、麻木先輩はなんで私が失恋したって知ってたんだろう。ていうか私、渚を好きだなんて誰にも言ったことなかったのに...。


いや、渚が原因の失恋ってことは分かってないのか...?

全く、あの人の考えてることがイマイチ分からない。


「渚と一条ちゃん...一緒に帰ってたな...。今からどちらかの家に行くのかな。」

家に行く、それを口に出した途端、二人がベッドの上で生々しく絡んでいるところを想像してしまい、思わず、顔を顰めた。


ったく、何考えてんだ私は...。


「...早く終わって帰ったらビール飲みてぇ。」


ビールと炙りカワハギの事を考えて、その味を想像すると、唾液がじわりと口内を満たした。

静かな部屋にゴクリという音が嫌に大きく響いた。



現在11:00


「これで最後〜!!超疲れたぁぁぁぁぁぁぁ。」


ちらほらいた人達も全員帰ったのか、紙をめくる音も聞こえてこなかった。

ぐぐっと伸びをしてから、デスクに向かうと、先程のパワハラの山があった位置に小さな付箋が貼ってあった。


『お疲れ様、凛。終わったら屋上おいで、コーヒー奢ったるわ。萌より。』

.....まだいんの!?まじかー、ま、行ってみるだけ行ってみっかな。コーヒー奢って貰えるし。

すたすたとオフィス内を歩く。階段を何段が上がり、大きなドアを開ける。


ふわりと夏の匂いを連れた風が、髪の毛を揺さぶった。

真っ直ぐの方を見つめると、麻木先輩がサラサラの黒髪をたなびかせ、缶コーヒーを飲みながら、私を見たあと静かに目を細めた。


「よぉ。凛。」


艶かしい唇がにぃ...と悪戯げに歪んだ。


「はぁ...まだ残ってたんですか。コーヒー、奢ってくださいよ。」

「あー、失恋した子をコーヒーで慰めるのってええわぁ〜!」

「なんですかその嫌なフレーズ...。」

「ハッシュタグ、失恋した子にコーヒー。」

「うわ、最悪。」

「はははっ!ほんまに...あほやなぁ...。」

そう言って麻木先輩は、自販機のボタンをピッと押し、ガコンと音を鳴らした缶コーヒーを持って私に手渡した。

「ありがとうございます。」

プシュッと音を立てて缶を開け、屋上からキラキラと夜でも眩しい程に光る東京の街並みを見下げる。


...この無数の建物の中で、あの二人も、何気ない会話でもしてんだろうなぁ...。


そう考えると口内が苦味でいっぱいになり、それを流すために、麻木先輩が買ってくれたコーヒーを口いっぱいに含みゴクンと飲み込む。


...あぁ、これ無糖のやつだ。


物理的な苦味が口に広がり、それを無理矢理喉に流し込んだ。そのせいか、瞳には涙が滲み、歯を食いしばると、涙は数十倍にもなって、ぽたぽたと零れ落ちた。


「...苦かったな。ごめんごめん。」


わざとらしくそう言うと、麻木先輩は小さな体で私をいっぱいに包み込んだ。

ぽん、ぽん、と背中を優しく叩かれ、今更、麻木先輩が私に無糖のコーヒーを渡した意味を知った。

「せんぱっ...ずるい...っ...こんなのって.....苦い...泣いちゃう...ぐすっ...だろぉ...。」


「おん、ごめんな。間違って無糖のやつ渡してもうたわ。」


そう言ってクスクスと笑いながら、強く強く私を抱きしめた。


麻木先輩はなんで私が失恋したの知ってたの。なんで私が泣いちゃうって知ってたの。なんで泣く理由をつけるために無糖のコーヒーを買ってくれたの。なんでいつも私が辛い時いち早く気づいてくれるの。

全部聞きたいのに頭が渚のことでぐちゃぐちゃになって分からなくなる。

「も...意味わかんねぇ...よぉ...。」


ボロボロと零れてくる涙は麻木先輩の服を濡らした。

「ごめんな...凛...遅くて...ごめんな...。」


遅くなんかない。早すぎるくらいだ。そう言いたいのに、声が出ない。くらい闇に私の嗚咽が儚く響く。

いつも、先輩は私に何かあった時は誰よりも早く、気付いてくれる。私が泣く時はいつも、決まって、事前に泣く理由を付けるためのものを用意してくれる。それで、私をゆっくりと泣かしていく。私が泣く時はいつも強く抱き締めて、背中を優しくぽんぽん叩いてくれる。いつも私が泣いている時、いつもいつも.....


「ぐすっ...ごめん...ごめん...遅うてごめん。」


私と一緒に泣いてくれるんだ。

この先輩がいたから、いつも私は平気な顔をして歩いてこれた。この先輩がいたから、他の人に涙を流すところは見せないですんだ。


この人は絶対に私を受け入れてくれる、そして、優しく慰めてくれる確信があるから。


「麻木先輩...どうして...ここまでしてくれるんですか...?」

そう言うと、麻木先輩は一度動きを止めてからぎゅっと私を力ずよく抱きしめた。そうしてから、背伸びをして、耳元に顔を近づけた。

「好きやから...凛の事が...ずっと前から...好きやから...。」

そう言って、背伸びをやめ、潤んだ瞳で真っ直ぐに私を見つめた。


私は、先輩の夜景でキラキラとした瞳を見つめ返すことは出来なかった。

今のままじゃきっと、この人の恋心を利用してしまうから。


「麻木先輩...いつから...?」

「ずっと前から、高校の時から。お前がなぎのこと好きなんは知ってる。今でもお前が私の事を利用してまいそうやって思ってんのも知ってる。でも、いつまでも止まってる訳にはいかんやろ。」


いつもいつも、横にいたのにどうして気づかなかったんだろう。この人はどれだけ私の事を見てきたんだろう。どれだけ知ってるんだろう。私が渚を見ていた時、この人は横でどんな顔をしていたんだろう。

「...止まってない...です。」

「止まってるやろ。私も、凛と同じで止まってたからこうやって凛に好きやって言うてる。私のことはなぎを忘れるために利用してもええねん。それでも私はお前が欲しい。そんな馬鹿でも私の持ってる全身全霊で愛せるぐらい好きや。なぁ、凛。いい加減先進もうや。」

「まだ...振られて1週間もたってないです...。」

「あほか。お前がなぎに絶対ふられるって気づいた時からもう7年ぐらいたってる。」

なに、気づいた時って...。そんなの告白してみないとわからないじゃん。...そう言いたいのに声が出ない。なんで出ないのかなんてもう気付いてる。麻木先輩の言う通りだから。ずっと前に気付いてた。好きになった時から、告白すれば、一時私のモノになっても、直ぐに壊れて、友達でさえ居れなくなる。それが怖くて、今まで告白出来なかったのは私なのに。

「そんなの...知らないっ...!」

「凛。お前のあかん所は要らんもんが捨てられへんところと無駄に勘のいいところや。いいところは、空気が読めるところと、切り替えが早いところや。」

「...。」

「凛のなぎを好きな気持ちは要らんもんとは言わへん。けどな、ズルズル引きずんのは違うやろ。振られること分かってて告白してんやろ。腹くくりぃな。凛、切り替えろ。気付いてることを気づかんフリすんのも違うやろ。空気読むところ間違ってるで凛。そこは空気読もうや。ええ所だけ残せとか言わへん。悪いところも踏まえて凛の全部が好きや。」

「先輩...もう...やめてよ...。」

頭がおかしくなるくらいに痛い所を突かれて、俯く。

「なぁ...凛、自分から辛いって言ってくれていいねん。.....もうちょっと私を頼ってくれてもええんちゃうかなぁ。」

先輩の悲しそうな声を聞いて、バッと先輩の顔を見た。

「麻木先ぱ...んん...!?」

精一杯背伸びをして、私の唇に先輩の熱い唇を押し当てて、必死に口で呼吸をする。嗚咽を出して泣く私を慰めるように目を細め、背中に回している手で、私のシャツを強く握り締めた。


「...はぁ...はぁ...凛...私と付き合って...。」

慣れてなさそうな乱暴なキスの余韻が唇に残る。

それが凄く熱かったことを思い出し、私は恥ずかしくなると同時に先輩のことが怖くなった。

「...無理です...。私...もう恋愛は...したくない...。」

私は怖くて、先輩の顔を見れなかった。罪悪感と、虚無感が混ざりあって、よく分からない気持ちになっていた。

「はぁ...分かった、もういいわ。」

冷え切った先輩の声にぞくりとした。

「...麻木先輩...。」

ごめんなさい、そう謝ろうと顔を上げると先輩は小さな体を抱き締めるように左腕を右手で掴み歯をくいしばってぽたぽたと体に似合わない大粒の涙を零した。

私は自分を守ろうと選んだ言葉が相手に対してどれだけ失礼で、侮辱的な言葉だったのか、先輩の顔を見て痛感した。恋をしたくないなんて、勝手な気持ちで、曖昧に先輩の気持ちを捻り潰したことに言葉を発する前に気づいていれば良かったのに。


先輩はオフィスに戻るドアに歩き出していた。

手を伸ばそうとするが、何様のつもりだ、と思い、ただただ足を竦め、その場に立ち止まっていた。



翌日


「おはようございます...。」


全然眠れなかった。今日、どんな顔をして先輩に会えばいいんだ。


「おっはよー凛ちゃん!」

課長が香水の香りを漂わせながら、いつも通り完璧な化粧をまとい、私に楽しそうに挨拶をした。

ほんとにこの人42なのかってぐらい若く見える。


「おはようございます。」

今日も課長はテンション高いなぁ。

「おはよぉございます〜、めっちゃ眠いわぁ...。」

「おっはよー、萌ちゃん!」

昨日あったことは嘘のように課長に挨拶と気兼ねない会話を交わした。

「お...おはよう...ございます...。」

もう頭がパンクしそうなくらいに意味がわからない情報が脳を支配して、挨拶だけでどもってまともに言えなかった。

「おはよ、凛〜。そっちも眠そうやなぁ。」

そう言って、先輩は大きな欠伸をしてニヘ、と笑った。


「麻木先輩はいつも通り眠そうですねぇ。」

普通にしようと...してくれてるのかな。

それなら私も普通にしないと、麻木先輩に迷惑がかかるな。

「うんー、もう眠過ぎてスライムになりそう...。」

「まぁ、元からスライムぐらいのサイズですけどね。」

「あ゛ん?なんか言うたかぁ?」

「ななななんでもないでしゅ。」

良かった、普通に会話できてる。大丈夫...大丈.....


「ふ...。」


不意に先輩が冷たい目で苦しそうな笑みを零した。

その笑みはあまりにも寂しそうで、これでいいんだろう、と、言われているようで胸が抉るように痛かった。

「麻木せ...」


「麻木、ちょっといいかな?」

声をかけようとすると、社内で有名なイケメンの飯田(いいだ)先輩が麻木先輩の肩に大きくて、ゴツゴツとした手を置いた。


ピタリと止まり、二人を見ると、恋人と言われても違和感がないほどにお似合いだった。どちらも美形で、仕事が出来る、そんなことを何故かふと思ってしまった。もう一度麻木先輩の肩に置かれた手に目をやる。


モヤ...


黒い霧のようなものが私の腹の底をうねり、吐きそうになる。

「.....。」

ふい、と体ごと背け、自分のデスクに向かう。

...なんだよモヤって...なんなんだよ。


ほんとに...


「意味わかんねぇ。」


イライラと何かに気付きそうな脳に気付くなと言い聞かせ、熱い顔を手の甲でわざとらしく拭った。



「どうかしたんですか?」

声がするほうを見ると、八神ちゃんがふわふわの猫っ毛をゆらしながら、あざとく私を上目遣いで見る。


「えーっ、あーっ...と、なんでもない!」

今の私の行動怪しすぎだろ。なんだよあーっ...と、なんでもないって、馬鹿だろ。

「そう言えば、今日は佐藤先輩と一条先輩はどちらも家の用事で休みだそうですよ。珍しいですよね、あの二人が休むなんて。しかも、どちらも同じ日に、なんて。」

...八神ちゃん、まさか気づいてんのか?天然だと思ってたけど、どうなんだ?

「へぇ.....ん?今家の用事って言った??」

私はガタッと机を揺らし八神ちゃんに食い気味で話を聞く。

「せ、せせ先輩、近いですよっ、家の用事でって聞きましたけど...。」

「...それマジだったらやばくね?」

渚と一条ちゃんが、一緒に休むだけの理由で、そんな方便を吐いたのなら、そっちのが大いにマシだろ。

まさか、本当に実家に帰って、親父さんに会いに行った?まさか、それは有り得ねぇだろ。あいつは、もう家には関わりたくないって言ってたよな。てか実家にも関わらねぇって言ってた。うん。

...まさか、実家に問題でもあったのか?渚の実家には親父さんと長男の...名前なんだっけな、咲夜さんだっけ、な。まぁ、その人達とヤクザの下っ端っぽい人達が100人くらい暮らしてたよな。

...てことは、その中の誰かに問題があったとか?ヤクザだってこと踏まえてかんがえてみたら、下っ端の誰かが乱争とかで死んだから葬式こいとか?家族のどっちかが怪我したとか?死んだんなら私に連絡が来るはずだ。それは絶対に。

...もし問題があったとしたら、渚だけじゃなくて、香織さんや、優ちゃんも実家に呼ばれてるってことだよな。優ちゃんはまだしも、香織さんは絶対来ねえだろ。有り得ねぇ。

...待て、もし渚があっちに行ってたとしたら()()()に会ってしまう可能性もあるよな。もし、よりを戻すような事があれば、一条ちゃんは...。いや、その心配はいらないか、渚は本気で栞菜ちゃんのことが好きだ。

...いや待てよ。もし()()()が.....



「...ぱい...せんぱい!.....上山先輩!!聞いてますか!?」

「え...!あ、あぁ!悪い。」

あぁ、びっくりした。考え込んでたら八神ちゃんの声全く聞こえなかったわ。

「もう...どうしたんですか?」

心配そうに眉を八の字にして、私を見る八神ちゃん。

「いやぁ...なんでもないよ?」

あーーもう、ほんとに今日は脳内が爆発しそうだ。




お昼休憩( ・・)っ旦(イカガ

「はぁぁぁぁ、疲れた。八神ちゃん、一緒に食堂でも行かねー?」

グイッと腕を伸ばし、肩の疲れをとる。

「え、と、ごめんなさい。今日は仕事が多いので、お弁当で軽く済ませようと思ってたんです...。」

そう言って、八神ちゃんは灰色で布製のリュックサックから、可愛らしい袋に入ったお弁当を私に見せ、もう一度ごめんなさい、と言った。

「あぁ、全然大丈夫だよ。仕事きつかったらいつでも手伝うからな。私はあと、書類整理と、作成2枚だけだし。」

「早っ!?ま、まぁ、倒れそうになったら少しだけ手伝って貰いますね。」

「...出来ればその前に頼んでくれ。」

全く、この子は.....。



さてと、うどんでも食べようかな。なんて考えながらオフィスの廊下を歩く。


「〜だし、〜なんだよ!...だから俺と付き合ってくれ!」


飯田先輩...の声だよな。

今付き合ってって言った?マジか、相手誰だ...?

好奇心旺盛に、忍び足でそばに向かう。

「...ごめんな。いつも言うてるけどもう諦めてくれ...。」

...この声...この喋り方...なんで.....。

チラッと物陰から顔を覗かすと、飯田先輩が麻木先輩の手を掴み、必死に口説いている場面だった。

「それでも俺は好きなんだよ。諦めらんねぇ。

お前がずっと前から好きな奴がいるって言ってるけど、そいつとは付き合えねぇかもしんねぇって言ってたじゃねぇか。」

...ずっと、前から好きな奴...か。

「...忘れられへんねん...。そんな簡単に忘れられるほど軽い気持ちやない...!...もう振られたけど...それでも私は.....!」


「振られたのか!?なら俺がお前を絶対幸せにしてやる!」


イラッ...


「俺の全部をお前にやる!」


イライラッ...


「もう頼むからやめてや...もう、疲れた...。気持ちだけ、受け取るから。」


...ほんとに面倒なんだろうな。


「俺はお前が好きだ。お前を幸せに出来るのは俺しかいねぇし。まず、お前が女が好きだって言うのは女が好きな特別な自分に惚れてるだけだろ!」


ブツン...ッ!


「なんやねんそr...!」

「はぁぁぁぁぁ!?ふざけんなクソッタレ!!」

「へ!?凛!?!?」


「な、なんでここに上山が!?」


「さっきから聞いてりゃ好き勝手いいやがって。俺がお前を()()()幸せにするぅ?は!馬鹿馬鹿しい。幸せに絶対なんてあるわけねぇだろこのタコ!少し間違えれば歯車が狂ったように絶望へと早変わりだ。俺の全部をお前にやるぅ?なんで上から目線なんだよ。麻木先輩はてめぇの全部なんてゴミ箱にぶち込みてぇくらいにいらねぇんだよ。頭に虫でも湧いてんじゃねぇか?自分を過剰に評価し過ぎなんだよこのナルシスト野郎。第一恋人に自分の全部をやるなんて当たり前だろ。ましてや結婚まで考えてんなら自分の人生丸ごとやるぐらいの気持ちでいろよ。麻木先輩を幸せに出来るのは俺しかいねぇ?ぷっ...はははは!!馬鹿だろお前。麻木先輩を幸せに出来んのはお前じゃねぇ。この私だ。そんでなんだぁ?女が好きな特別な自分に惚れてるだけぇ?ふざけたことをそのくっせぇ口で喋ってんじゃねぇぞ。私の為に泣いてくれる先輩がそんなお前みたいに腐った考え持ってるわけねぇだろ!てかまずお前彼女いんだろ!何サラッと二股しようとしてんだよ。お前こそ彼女が複数人いるチャラついてる俺に惚れてるだけじゃねぇか。彼女に恨まれて刺されろ。あぁ、それと今後一切()()麻木先輩に触んじゃねぇぞ。」


マシンガンのごとく、早口で言葉を発したせいか、息が絶え絶えで、頭もふわふわする。

なんかイラついて物凄いこと言ってた気がするけど今はもうなんでもいい。外の空気をすいたい。


「は...え...?」

飯田先輩は間抜けな声と顔をして、半開きの口をして、私をボーっと見る。

「あ゛?」

「ひっ!!」


「行きますよ、先輩。」


グイッと先輩の手首を掴み、引っ張る。

オフィスの廊下を歩いている途中会話はなかった。

怒ってるんだろうな。先輩のこといっぱい傷つけて振ったのに...また、あんなこと言って。それより、自分より目上の人にあんなこと言ったからか?



ギィーー


ゆったりと屋上のドアが開き、待っていたかのように、屋内に夏の匂いを連れた風が、吹き込んだ。


私達は、屋上へ足を踏み入れた。ドアは風で、勝手に閉まった。


「...凛。」

「はい...。」

先輩は怒るのか、と思うと、トン、と額を私の背中にくっ付けた。

「好き...。うぅ...ぐすっ...やっぱり.....諦められへん...。ぐすっ...ずっ...諦めたく...ない...!」

こんなに私のことを好きな人に私はなんて失礼で、曖昧な言葉を投げつけたんだろう。

この人には()()()私が必要だし、私にも()()()この人が必要だ。


「諦めないでください...。私は、まだ渚が好きです。...けど、麻木先輩が...その...私を...夢中?に...させて下さい...。」

あー、今すっごい恥ずかしいこと言ってる...。顔から首にかけて、すごく熱をもってる。でも、その熱も、今は何故か心地よかった。


「付き合って下さい...。」


麻木先輩の声が夏の香りがする屋上にふわりと溶ける。

いつもの優しい声が耳に届き、温かい気持ちになる。


まだ、渚のことは好きだけど、私はいつか、今はいつになるのかは分からないけど、いつか、絶対に、この人を心の底から愛すことが出来ると確信した。

今付き合いたいと思うのは私の背中で泣く、この人しか思い浮かばない。この人の声を聞くと優しい気持ちになる。

...それが好きって気持ちなのかは知らない。

私の好きを探す為に、この人の事をもっともっと知らないといけない。というか、この人と一緒に探したいと思う。


それまでは、もう少しここでゆっくりと甘い缶コーヒーでも飲みながら立ち止まっていてもいいかな、と思う。


そう心の中でポツポツと言葉を零しながら、私は麻木先輩の手を引いて、甘い缶コーヒーのある、自販機へと足を動かした。


余談

麻木先輩「ていうか、凛子いつ飯田に別の彼女がいるって気付いたの?」

凛子「え?なんか街で腕組ながら女と歩いてたから。」

麻木先輩「え!?飯田の彼女って課長でしょ?」

凛子「え?」

麻木先輩・凛子「「え?」」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ