16夜目 本当を信じる覚悟はありますか?
どうも猫又ですっ!投稿遅れちゃってすみませんっ
現在10時24分
「ねぇ、渚……?」
着替えていると、隣でブラジャーを付けている栞菜に名前を呼ばれた。
「どうしたの?」
まぁ、何となくは分かるんだけども、知らないふりをしていつも通り優しく微笑む。
「わ、私いまいち状況を把握出来てないんだけど、私は渚の実家に行くの……かな?」
……そう言えば本人に確認とってなかった。
あぁぁぁぁぁぁぁもう!一人で先々話進めて!もぅ!
本当に何してんだ私!
「ごめん…!栞菜に確認とってなかったわ!用事ある!?ごめんなさい!」
深く頭を下げる。
何も言わないから怒っているのかと頭を上げ、申し訳なさそうに栞菜の顔を見ると、
「ふっ…ふふふっあっははっ可笑しいのっ渚のこんな焦った所初めて見た!」
そう言ってクスクスと笑った。
「ご…ごめんなさい…無理だったり嫌だったりしたらここに残ってくれても……。」
「んーん!行くもん。なんか話の内容からして渚のお父さんはすっごくお金持ちなんだろうね…ちょっと怖いけど渚が守ってくれるよね?」
そう言って、ニッコリと小悪魔系の眩しい笑顔を私に向けた。
「…え、えぇ。」
なんか、栞菜私の扱いに慣れてきてる…?こんなこと言われたらもう謝れないんだけど…。
モヤモヤしながら、五月の元へ向かった。
「お待たせ。」
「……!渚様、凄く綺麗です。」
そう言って五月は目をキラキラさせ、私の頭から足の先まで舐めるように見る。
「……五月、視線がいやらしい。」
正直そこまで関心されるほどそんなに変わった格好はしていない。ワイシャツに黒いパンツ、その上に黒い薄手のコートを羽織っているだけだ。
…ただ身体のラインが目立つってだけで。
「そそそそそそそんなことはな、ない…でしゅよ!」
五月はそう言いながら目をグルグルしながら焦る。
「…ぷっ、焦りすぎでしょ。」
そう言って玄関に向かおうとすると、栞菜が私のシャツの袖をクイッと掴んだ。
「……?」
栞菜はムゥっとした顔で俯いている。
「……渚のバカ。」
そう言って、私より頭一つ分小さい背を背伸びで伸ばし、私の唇に栞菜の唇がふにゃりと当たった。
「……!?」
困惑する私を横目に、栞菜は五月について行き、玄関まで軽快な足取りで向かった。
「ほんまになんやの……?」
熱くなった頬と緩んだ顔を引き締めようと、バチンと両手のひらで頬を叩いた。
その音でビックリしたのか、五月と栞菜はこちらを見たが、栞菜は私の顔を見てにィっと悪戯っぽく笑った。
「……キャラ崩壊してるやん、もう…。」
今まで天然で鈍感で可愛い後輩だと思っていたが、実は天然小悪魔系の後輩だった事を今知った。
「…渚様、どうぞ。」
そう言って、黒塗りのベンツの後部座席のドアを慣れた手つきで開け、右手で車内に入るように施した。
「ありがとう。栞菜、おいで。」
一度、五月を制してから栞菜の手を持ち、車内へと一緒に入った。
「…え、あ、うん…。」
なんか栞菜挙動不審だな……。
「どうしたの?」
「…べ、ベンツとか初めて乗るから緊張しちゃって。」
……かーわーいーいー♡
顔を赤くして、それでいて楽しそうで、誕生日ケーキを目の前にした子供みたいで可愛いすぎる…。
「…そろそろ出発しますよ。」
「えぇ。」
エンジン音がなり、静かな音で走り始める。
「会議は明日です。休む時間は短くなるでしょうから今のうちに眠っていてください。後ろにも座席があります。」
「…い、いいんですか?」
「良いのよ。東京から大阪なんだから時間がすごくかかるわよ。今のうちに寝ときなさい。」
そう言って、栞菜の頭をポンポンとなでる。
「…はい。」
そう言うと栞菜は私の肩にもたれ掛かり、5分程で寝息をたて始めた。
「…ほんとに寝付きいいわね。」
栞菜を見ていると眠たくなり、いつの間にか私も寝ていた。
現在0時47分
「ん……んん…。」
「渚様、もう起きたんですか。」
信号待ちしていた五月が、運転席からひょこっと顔を出し、私の顔を見た。
「んーっ!何時間ぐらい寝てたっけ。」
「ざっと2時間ほどですね。」
「結構寝てるじゃないの。」
こんな車内なんかでぐっすり寝られる方がどうかと思うわ。
どうかと……
チラリと私の肩に重みがあり、そこに目をやるとなんとも綺麗な顔ですやすやと寝息をたてて寝ている栞菜がいた。
「はぁ……このこ…緊張してたんじゃなかったっけ……?」
再度、栞菜の寝顔を見て右手で額を抑える。
まったく、この子は……。
「渚様。」
「ん?」
「…渚様はその方とどうなりたいのですか?」
急だな……。
「どうってどういう意味?最終的にはって事?」
「いえ、それも含みますが、栞菜さんが結婚したら、と言う意味も含めてですね。」
「は?」
何言ってんのこいつ。結婚したら?栞菜が私の元から消えるってこと?私からほかの男の元に行くってこと?何それ。
「どうせその方も綾乃さんと同じで…」
「黙れ。」
ヒュッと五月のいきが止まった音がした。
「……。」
「何それ。ふざけんな。なんで今頃あの人の名前が出てくんの?」
「…あなたがあの人以来、付き合うことに本気になったことがないからです。…ですが、その方には本気になっているでしょう。その方にまで…もう、傷ついて欲しくはないんです。」
「……は?本気?」
少しでも私の元から消える栞菜を想像してしまい、底の見えない恐怖がゾクリとからだぜんしんを震わせ、声が震えた。
「……本気じゃ、ないんですか?」
五月の声はもう分かっている、という様子で、それが無性にイライラを促進させる。
「……私も、分からへん。」
最低だ。勝手に想像して、怖くなって、自分から逃げて、もう自分でもわかっているのにわからないふりをして、栞菜を本気で愛しているという事実から逃げてるだけだ。
心の中ではこんなにもすんなりと言えるのに、声には出せない。出しちゃいけないと思ってしまっている。
「……そうですか。」
いつもの彼女の淡々とした声が私のことを『意気地無し』『嘘つき』と、罵っているように聞こえ、頭がカッとなったが、事実だ、と我に返った。
◇栞菜目線
現在0時49分
「……私も、分からへん。」
冷たく言い放った渚の声に全身の熱がサッと引いた。
……分からない?なにそれ。本気じゃないって事?
「……ふ。」
誰にも聞こえない程度に嘲笑した。
馬鹿馬鹿しい。私の事を本気で好きじゃないのにあんな演技をしていた渚も、そんなひどい人を好きなあの人達も、それに、なによりそんな演技の一つ一つに胸を踊らせ心の底から喜んでいた私も大馬鹿だ。
わからないって何。もうはっきり本気じゃないって言ってくれれば私だって別れようって決意できたのに。なんでそんな私を実家に連れていくの?
まだ渚に期待している自分が恥ずかしくて、可哀想で、まぶたがジンと熱くなる。
「……でも。」
渚は強い声で、でも弱々しく震えている声で五月さんに言った。
「……今までの遊びの付き合いとは…違う。…これだけは……分かってる…。」
ぎゅっと、裾を強く握ったのか、大きな布擦れの音が聞こえる。
……渚は今までの自分に向き合おうとしてくれてるのかな。私のことを、本気で思ってくれてるのかな。
「……それなら…私も信じないと。」
ポソリと消え入りそうな声で言う。その声が聞こえたのか渚はバッとこっちを振り向く。
「栞菜……。」
その顔はいつものような凛々しい佐藤先輩じゃなく、実は弱くて、誰よりも繊細な本当の佐藤 渚のような気がした。
「…信じて、待ってます。…でも、早めに決心、お願いしますね。」
そう言って、強く握る渚の拳に静かに手を重ねた。
信じないと。昔何があったのかは分からないけど、渚は今戦ってるんだ。
「……っうん。」
目が潤み、目尻が下がり微笑んだ時にポロリと綺麗な涙が渚の頬を伝った。