ラストロール。旅は路連れ世は情け。
「んもう、ジャラジャラうるさい。寝らんないでしょ」
夜。聞くからに眠そうな声で、俺に不満を投げて来たベルク。
前世界時間だと、おそらくは夜の八時ぐらいだろうか?
この世界は夜中にやることがないので、
こうして安全が確保されてる時は特に、みんな
小学生みたいな時間に寝てしまう。
「わりい。けど、初の依頼達成の報酬だろ。なんか、嬉しくってさ」
この世界の通貨は貨幣のみであり、紙幣は存在しないらしい。
単位はウロボで、レートは世界共通なんだそうだ。ありがたい話である。
で、俺が今回もらった報酬金は護札二つの売却値込みで、
ジャスト1200ウロボ。売却金と報酬金は別会計で受け取ったので、
報酬の800ウロボと御守の売却価格200ウロボ掛け2を、
全部百円玉に相当する硬貨でいただいた。
全部で十二枚あるので、ジャラジャラできると言うわけである。
日本人感覚だとずいぶんしょぼく見えるし聞こえたけど、
一般人に比べればなかなかの金額だと言う。
そういや狩りゲーでも、ゲーム上大したことなくても
一般人からするとものすごい金額だって設定あったな。
「なんかさ」
「なんだ百鬼姫?」
「うん。そうやって、小銭弄りながらニヤニヤしてるのってさ」
ちょっとだけ言い難そうにしている。
「うん」
ので言葉を促す。気持ち悪いよね、までなら言われても
そこまでへこまない自信がある。今の俺がキモいのは自覚あるからな。
ドンと来いだ。
「こそ泥だよね」
「こ……こそ泥は想定外」
これは、なかなかに、効いた。
「……しまおう」
今回得られた軍資金は、一つの布袋に入れてもらっていた。
今は袋からお金を外に出しているので、しまうことにしたのである。
そして報酬金袋のしまい場所は、あたりまえのように
リビックがいつも背負ってる大袋、リビックは了承済みだ。
俺、まだ背負える袋持ってないからさ。
「さて。俺も寝るか。特にやることもねえしな」
とは言うものの布団に入る気持ちになれず、布団の上に転がってるだけの状態。
もう暫くはゴロゴロしてようと思う。
……リュック。買うか、明日。思いつかなかったわ、買うこと。
*****
「いいのか?」
翌日。宿屋の宿泊代を支払って宿屋を出てすぐ後。リュックを買いたいと言う話をしたところ、
パーティ共有財産から代金を支払っていい と言ってもらえたことに対しての、俺の驚きの声だ。
「かまわないわよ。荷物持ちはパーティの財産だしね」
「お前なぁ」
理由に苦笑。
「だってそうじゃない。持てる荷物の量が増えるし、
なにより楽でしょ。リビックが」
「ベルクローザアアア!」
ギャグシーンよろしくの瞬間涙腺崩壊機となってしまったリビックである。
むりもないか、これまで散々な扱いしか受けてないと思ってた人から、
いきなり身体を労わってもらえたんだからな。
「こんな程度のことで泣くんじゃないわようっとおしいわねぇ」
本当にうっとおしそうに言うベルク、追っ払うような手の動きまでやっている。
「ベルクローザさん、そう邪険にばっかりは流石にかわいそうですわよ」
小さな声で、レイナが宥めるように言っている。
「まったく。あんたが魔法使って倒れた後、
あたしたちがいつも守ってやってるって言うのに、それに気付かないなんて 鈍いんだから」
ベルク先生聞いちゃあいねえでやがる。
「むちゃくちゃ言うなよ……」
「……そう、だったのか」
なにこの、リビックだけお涙長大的な雰囲気。
「そうじゃなかったら、あんた何回死んでるかわかったもんじゃないでしょうが。
その程度察せない頭じゃないでしょもう」
完全にイライラしてるぞ、この人。察しろってのは、
なかなかに難しいと思うぞ。
昔っからひどい扱いされて来てたらしいリビックだし、
そのフォローを仲間として守っているって思考には
至らないと思うんだ、俺は。
「ああ、そうか。そうだ。言われてみればそうだ。そうだったんだ」
涙を流しながら強く拳を握りしめているリビック。
おそらくだけど、喜びに打ち震えてるんだろうな。
しかし、このテンションの差。話の流れからしても、
どうしてこうなった だ。
「ってことだからリョウマ。ありがたく自分の資金は取っときなさい」
一変して、俺には軽い調子だ。語尾が上がるほどに軽い。
「ああ、わかった。ありがたくそうさせてもらうぜ」
まったく「ってことだから」で話は繋がってないけど、なにはともあれ。
パーティ資金使用でリュックが買えるのはありがたい。
「あれ? わたしたちより前に宿を出たのに、まだここにいたんですか?」
そう声をかけて来たのは結葉だ。
「そっちも今日ここを離れるのか?」
「はい、昨日のうちにウェポナイトは納品してますし」
そう言った後で、ちらっとフォニクディオス火山の方を見た。
「また来ればいいだろ、プライベートでも オーダーでもいいからさ」
「そう、ですね」
俺の言葉に、結葉はそう微笑を浮かべた。
「ところで。どうしてリビックさんは泣いてるんですか?」
「ん? ああ。あたしがちょっと、荷物持ちが増えたら楽になるじゃないって言ったら」
未だに涙を抑えきれてないリビックを指差して、
「こうなっちゃったのよ」と呆れかえって言った。
「荷物持ちが、増える?」
「ええ。リョウマが背中に背負う形の荷物袋がほしいって言ったから、その流れでね」
背中に背負うタイプってわざわざ言ってるってことはなるほど。
カバン類全般を荷物袋って言うんだな。
「そうなんですか」
結葉がこっちに視線を向けたので、
「おお。ありがたくパーティ資金で買うことになった。
これから選びに行くつもりだぜ」
と頷いて答えた。
「そうなんですね」
「港に行く道中か、港で売ってれば、ってぐらいのゆるい買い物だけどね」
結葉が俺へ返した相槌に、そうベルクはにこやかに笑って答えた。
「そうなんですね。なら、いっしょに行きませんか?」
「ユイハたちもノンハッタンを出るんだものね。
いいわよ、旅は路ずれって言うし」
「ベルクって、仕切ること、多いよな」
「言ったでしょ。誰が仕切るかなんて勢いでいいって」
微笑で言ったのに続けて、「さ、いきましょ」って言ったベルク。
一人、歩き始めてしまった。
「まったく。勢い任せの突撃娘め」
そう言った俺は、含み笑いになっちまった。それを受けて、
クロスタイドレベリオン男連中以外から、和やかな笑いが起こる。
どうやら、リビックの涙はひっこんでたらしい。
「おっかけるぞ」
言うほど距離は開いてないけど、景気付けに言って俺は歩き出した。
俺の言葉に了解した声の後に、多くの足音がついて来る。
この陣形。有名RPGの移動中を思い出すな。
戦闘に立って先導する者……か。
ーーなるほど。これが、主人公の気分か。なんか……くすぐったいぜ。
**********
「ふぅ」
日課である竜馬さんたちの様子を見ること、その朝の回を止めて一つ、
わたし ダイスの女神コロン・コロンは息を吐きました。
「一日一日、いい日になっててなによりですね」
自然と笑みがこぼれてしまいます。わたし初めての転生を受けた人、
山本竜馬さん。彼の日常が、あの世界なりの穏やかさで紡がれてることには、
やっぱりにっこりしちゃいますね。
「さて」
いつも使ってる白と黒のダイスを手に取って、わたしは一つ
転がしてみようと思います。
彼の一年間を、彼の元いた世界 暮らしていた国の風習のように、
いい年になるかどうかを。
「竜馬さん、ひいては竜馬さんたちの一年間……だと限が悪いですね。
年が明けるまでの時間が、穏やかに紡がれていくのか、
それともそうじゃないのか」
言葉と共に力をダイスへ。すると、二つのダイスそれぞれの赤い目のうち、
3 4 5 6の四つ、合計すると9になる数の目が白い光を放ちました。
「達成値は9。これはなかなかの強敵ですね」
言って意識を集中。ダイスロールへと気合を入れます。
「ふっっ!」
勢いを付けてテーブルへ、持っていたダイスを投げつけるように振ります。
コロコロと転がって、その目を徐々に確定へと近づけて行く二つの四角形を、
わたしはじっと 睨むように見つめます。
「……止まった。出目は……っよし! ぴったり9!」
思わず両手をパン、ガッツポーズめいて喜んじゃいましたっ!
「はぁー。よかったぁ~!」
安堵の一息。
「やりましたよ、竜馬さんっ そのままの調子で、
穏やかに年が越せます」
思わず聞こえない状態にもかかわらず、笑顔で呟いちゃったわたしです。
『コロン、聞こえる?』
この声は、転生を預かる女神 神様仲間のリカネさんです。
お部屋の中に声が響いてます。
「お疲れさまですリカネさん。どうしたんですか?」
わたしはこうやって、普通に声を出せばリカネさんに聞こえるようになってます。
お部屋が丸ごと電話機になったみたいな感じですね。
『どうした、じゃないわよ呑気なんだから』
「どういうことですか?」
『コロン。あんた、転生させること、できるじゃない?』
やぶからぼうですけど、リカネさん前置きをあんまりお話に置かないので、
こんなことはよくあります。
「え? ええ、まあ。この間初めて、なんとかかんとかでしたけど」
この人は、いったいどこから見てるのか。正確にわたしの能力や、状況を把握しています。
逐一全部じゃ、ないみたいですけど。
『でしょ? なら、手伝ってよ。暇でしょ、コロンさぁ』
愚痴るような、ちょっと甘えるような そんな言い方。
かわいいな、って 思うんですよね、リカネさんのこういうところ。
「え? え、ええ……それは、まあ。そう、ですけど」
暇だ、と正面から言われてしまって、否定しようかなー
と思ったんですけど、駄目でした。
わたし、世界に干渉すべき状況が限定的なので、
他の神様に比べれば、たしかに暇神でした。
『なら手伝って。知ってるでしょ、あたしの転生作業の量っ』
だだっこみたいな言い方で言われて、思わずクスっと笑いがこぼれちゃって、
『なに笑ってんのよ?』ってむっとされちゃいました。
「ごめんなさい。かわいかったので、つい」
『そ、そう? って、そんなことはどうでもいいから早く来なさい』
ぶっきらぼうに言って、リカネさん通信? 電話? 切っちゃいました。
てれてますね、今の感じは。
「かわいいなぁ」
また微笑したわたし。
「よし。異世界転生作業のお手伝い、がんばろうっと」
のびをしながらそう言って、わたしは自分のお部屋を出るのでした。
物語進行へのファンブル




