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ロール18。家に帰るまでが運動会って言うけども。 2転がり目。

「リョウマさん。もし、数が予定より多すぎたらでいいんですけど」

「ん?」

「その中の一つ、リョウマさん用で、わたしの魔力を足したいんですが。

いいでしょうか?」

 

「……え?」

「駄目ですか?」

「え、あ、いや。そうじゃねえんだけど……予想外すぎて、さ。

理由、聞いてもいいか?」

 

「はい、いいですよ」

 俺の呆けた顔がよっぽど不思議だったらしく、声色に疑問符が乗っている。

 

 

「さっき、火要ひかなめに変身する魔法が唯一使える魔法だ、

って言ってたじゃないですか」

「ああ」

 今回火要に敬称を付けてないな。百鬼姫なきりめと同じで、これは種族のことを言ってるんだろうな。

 

「それを聞いて、初めからしてた火要のにおいもあって、

なんだかべつ種族じゃない感じがしててですね」

「そうなのか?」

 

「はい。それで、同じ火のかなめとして力添えをしたくなったんです」

「ド……ドラゴン扱いか」

 申し出はありがたいものの苦笑いである。

 

「なるほど、同族の好ってことか」

 いまいち腑に落ちないけど、同郷の好みたいなもんだろうと

 むりに腑に落として言葉を返した。

 

「それに、ユイハさんと同じヤマモトなリョウマさんですから、

虹色の魔力を持っていてもらいたいとも思いまして」

 そしたらこれだ。最初からそう言ってくれりゃあ

 すっきり頷けたものをなぁ……。

 

「ああ、そっちの方がしっくり来るわ」

 山本違いってことは、本人言う通りいまいちわかってないらしいけど、

 たしかに虹色の魔力が証明できる山本はいるに越したことはないだろう、結葉ゆいはとしては。

 

「んじゃ、早速、力を添えてもらいますか」

 俺は御守刺しの岩から抜き取った護札まもりふだの中の一つを、

 てきとうに選んでゆるさんの足元、前足と顔の間に置く。

 

「え?」

 今度はゆるさんが呆ける番になった。

 

 

「実はな。最初っから俺達自身の分込みで、

依頼の要求数より多くもらって行くつもりだったんだ」

 

「あら、そうだったんですか」

 意外そうにきょとんと返してきたゆるさん。

 うん、と声に出しつつ一つ頷いて答える俺だ。

 

「だから、今そこに置いたのは俺のってことにした」

「わかりました。じゃあこれに、わたしの魔力を流しますね」

 

「頼むぜ竜王様。さて、そのなんの変哲もなさそうな、

首にかけられそうなぐらい紐の長い文字通りの御守が、

はたしてどう化けるか」

 

 我ながらなんつう説明台詞だ。実況アナウンサーやらたたき売りの人やらを目指した覚えはないぞ。

 

 

「じゃ、いきますよ」

 誰に宣言してるのか、ゆるさんはそういうと静かに目を閉じた。

 

「なんだっ?」

 スーッとゆるさんの右手に光が生まれた。それもただの光じゃない。

 目まぐるしく色を変えている。

 

「これは……虹色の光。これが、全属性魔力の同時発言って奴か」

 昨日は一瞬だったけど、今はしっかり見ることができる。

 まさかこんなに早く、もう一回目にできるとは思わなかった。

 

 俺の言葉が聞こえてないようで、スっと静かに目を開けると

 虹色に光る右手をゆっくりと上げ御守の真上にポジショニング。

 ゆっくりと下ろして、また目を閉じた。

 

 なんだかクレーンゲームを見てるようだな。

 

 そのまま見てると、手にあった虹色の光は地面に溶け込むように、

 出て来た時と同じようにスーッと消えてしまった。

 

 

「ふぅ、終わりました~」

 またゆっくりと目を開けると、少し疲労感の乗った息交じりに

 ゆるさんはそう言った。

 

 全属性魔力を扱えるとはいえ、昼寝から覚めて

 それほど時間が経ってない現状だ。起き抜けでやるのは大変なんだろう。

 

「もう、終わったのか?」

 思わず聞いていた。あまりにあっさりと済んで、

 肩透かしを食らった感じになっている。

 

「はい、終わりましたよ。見てみればわかります」

 言うとゆるさんは、右手を通常の位置に戻した。

「どれどれ?」

 護札まもりふだを手に取ってみる。

 

 

「真ん中に、虹色の宝玉? それに、なんかちょっとあったかいぞ?」

「火要に変身できるってことなので、火属性を多めに入れておきました。

少し、火の色が強いと思います」

「そうなのか?」

 

 御守の中心辺りにある宝玉に、しっかりと目をやる。

 

 

「たしかに。赤が濃いな」

 へぇ。魔力の光としてゆるさんの手にあった時は、

 目まぐるしく色がかわってたけど、今は宝玉みたいなのの中で

 七色がゆっくり流れてるな。

 

 よく見なかったけど、結葉ゆいはの方もこんな風なんだろうか?

 

「はい。あったかいのは火属性の影響だと思います。

ユイハさんが今持ってる虹色入りのも、あったかかったみたいです。

 

火属性が元々入ってたんだと思いますよ」

 

 本人手にしてないし見てもないからだろう、解説が推測の域を出てない。

 そんなふわっとした解説を聞きながら、「なるほどねー」っとほぼ生返事で

 宝玉を引き続き見る。

 

 

 ん? あ、これ 赤なのか。殆ど黒いから、よく見ないとわかんなかった。

 

「ゆるさん。火属性こめすぎたんじゃないか?」

「あれ? 色、おかしいですか?」

「殆ど黒の赤がある。ってことは、この赤は……

普通の虹ならオレンジの部分か」

 

「あらら、どうしましょう。色、調節しましょうか?」

 装飾品としての美的価値を気にするドラゴンとか、

 初めて見たし聞いたぞ。

 

「いや、これでいい。これ以上魔力注ぎ込んだら

どうなるかわからないしな、この御守」

 おそらく、弱体させる形での色味調節はできないだろうと踏んで、

 俺はこう言った。

 

「そうですか、わかりました」

 本気でがっかりしてんな。マジで装飾品としての美的価値を、

 虹色の宝玉で高めるつもりがあったのかよ。

 

 ほんと、このドラゴンにはちょくちょく驚かされるぜ。

 

 

「それで、合流の方法どうしましょうかリョウマさん」

 気を取り直したようで、下を向いてた顔を持ち上げるとゆるさんは、

「合流の方法?」

 と聞き返さざるをえない聞き方をして来た。

 

 はいと頷くと、ゆるさんは 自分の中にある合流の方法を教えてくれた。

 

「二つあります。一つはわたしが皆さんをここにつれて来る方法です」

「俺はここで待ってればいいってことだな」

 

「そうです。それで、もう一つはわたしが皆さんのところに行って、

どこに集まるのかを聞いて来る方法です」

「で、そっちの場合、俺は最終的に動くことになるわけだ」

「そうですね。どっちにしますか?」

 

「そうだなぁ」

 少し考えた。その結果、俺が出した答えは。

 

「二個目だな、集合場所に行く方。ここでぼんやり待ってるのも暇だろうし、

エルのこと考えたら、集合場所はここより低い場所になるだろうから

下山時間の短縮にもなると思うからな」

 

「ふむ、なるほど。わかりました。じゃあ、

皆さんを探して、集合場所を聞いてきますので、

少し待っててくださいね」

 

「わかった」

 言葉と同時に頷いた俺に頷き返すと、

 ゆるさんは地面を蹴ってどこかへと飛んで行った。

 

 

「さて。結局は暇な時間がこうしてできたわけだけど……

なにしてよ、俺」

 手持ちできる暇つぶしアイテムが、前世界と違って存在してないのは、

 この世界ならではの困り処だ。

 

「……二度寝するか?」

 御守刺しの正面、プレート状の側に回った俺は、

 しゃがみこむと足を投げ出した。

 

 そうして手持無沙汰に、手に持ってた竜王パワー入りの御守を

 首から下げる。

 

「しっかし、暇つぶしが寝ることしか思い浮かばないって。

むしろ前世界はどんだけ暇つぶしに溢れてたんだよ」

 

 我ながら自分の発想力のなさに、「ど」と同時に

 失笑じみた苦笑が漏れた。

 

 

 ゲーム、漫画、アニメ、ラノベETC。娯楽に事欠かなかった前世界、

 こと我が国はずいぶんと余裕のあるところだったんだな、なんて思う。

 

 ラノベ、か。そっか。他の地域はわからないけど、

 アズマングには前世界のお約束が通用する方向の

 娯楽があるっぽいんだよな。

 

 うん、そうだな、よし。資金に余裕がある時にでも、

 その手の本を探してみよう。

 

 

***

 

 

「リョウマさん、起きてください」

 起こされてるらしい。肩をペシペシ叩かれながら耳元で呼ばれ、

 俺はぼんやりと声の方に目を向けた。

 

「ん、ああ」

 赤黒い物体があって一瞬息を飲みかけたけど、

 それがゆるさんだってことに思い至って、びっくりは引っ込んだ。

 

 もうちょっと思考回路が重かったら、たぶん絶叫してたな、あぶねえ。

 

「えーっとたしか」

 続けて、寝る前の状況を思い出すべく思考開始。

 

 

「ああ、集合場所聞きにいってたんだよな。そんで、

どこで合流することになったんだ?」

「あの中腹の木だそうです」

 

「了解、そこまでバカ遠いわけでもないな」

 言ってガサリと立ち上がる。いったいどこにいたのか、

 ゆるさんも俺に合わせて飛び上がり、俺の顔面の正面で滞空している。

 

 もしかして、御守刺しの岩に乗ってたんだろうか?

 

 

「どうしたんだ?」

 答えるかわりに、ゆるさんは思いっきり息を吸う。

 それと同時にぷーっとほっぺたが膨らんだ。

 

「ぶー!」

「ばぶらっ!」

 小動物感マシマシでかわいいなぁとか呑気してたらなんだっ!?

 

 膨らんだほっぺたがいっきに潰れたと思ったらまったくの予想外。

 

 どうやら、勢いよくゆるさんの口から水が噴き出したらしい。

 

 この威力、まるでおもいっきりひねった水道の如しっ!

 

 当然真正面にいた俺はそれをもろに喰らってしまい、

 水を含まされたおかしな声を上げることになった。

 

 今のはそのいわばダメージボイスであって、

 決してぶるああしたわけではない。

 

 

「ケホッケホッ、な なにすんだ!」

 若干気管に入って、軽くむせてしまったではないか!

 

「さっきのおかえしですよーだ。目、覚めたでしょ? いきますよ」

 くるりっと俺に尻尾を向けると、返事も待たずに

 ふよふよと飛行し始めた竜王様。

 

「……根に持ってやがったのか」

 思わぬ攻撃に、力のない笑い顔になってしまった。

 

「拭く物持ってなかったっけなぁ……あねえわ」

 思い返した結果、ハンカチとかそう言った物は持ってなかった。

 

 しかたがないので、顔は腕で拭いつつ自然乾燥することにした。

 

「ま、たしかにすっきりしたけどな」

 見失わないうちに、ふよふよ飛ぶ ゆらゆらしている尻尾を

 追いかけて歩き出した。

 

 

「火竜のくせに平気で水ブレス吐きやがって。

全属性使用可能の特殊能力、日常生活に生かしすぎだろ」

 愚痴りながら、俺はいろんな意味で面白すぎる竜王様

 ゆるさんことブルカーニュをナビに、クロス・アエジスと合流すべく

 

 フォニクディオス火山中腹を目指すのだった。

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関連作品。

ゆるさんの押し事 ~ 最強竜凰さんののんびり火山生活 ~
同じ世界の作品、2D6の後半にクロスオーバーする。


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