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ロール16。現れた竜の姿に「え?」 2転がり目。

「ところで、富士山とみさむやまにあった関所みたいなの見えないんだけど、

ここにはないのか?」

 歩き始めて少し。エルの足取りが軽さを取り戻し始めたところで、

 俺は気になったことを誰にともなく聞いてみた。

 

 結葉ゆいはがいなくなって歩き出したわけなんだけど、

 案内役のエルの足取りがまあ重いこと。

 マジでどんだけ大好きになっちゃったんだよ、一日足らずで。

 

「そんなのあるの?」

 地元民のエルには、関所の存在そのものが不思議なようだ。

 

「さきほど通り過ぎた右に行く道。あの先にありますわ。

入山手続きはわたくしたちでやっておきました」

「わりいな、俺が寝てる間にいろいろと」

 

「気にしないでくださいな。仲間じゃないですか」

「そう……か。そうだよな」

 仲間。この言葉を、あたりまえのように言われると、どうにもくすぐったい。

 

 前世界じゃ、仲間ってフレーズは台詞じゃよく聞くけど、

 実際言うのは恥ずかしいたぐいの いわゆるクサイ台詞だったからな。

 

 この五日ほど、そう多く言われたわけじゃないから、

 まだ慣れるところまで仲間ワード耐性が備わってないのである。

 

 

「そのかわり、ぼくが竜馬の番してたんだよね。

ほんと暇で暇でしょーがなかったよ」

 聞くからに不服ですと言う、むくれた声色で補足をしてくれやがった百鬼姫なきりめに、

 

「ああ、うん。ありがとうございました」

 どんな調子で言えばいいのかわからず、ローテンションで返す俺だ。

 

 

「ぼく?」

 鬼娘の一人称を不思議に思ったようで、

 エルは足を止めてこっちに顔を向けた。

 

「角生えてる人、見た感じ女の子だよね?

……ああ、でもそうだよね。いてもおかしくないか」

 

 なにか思い当たる節があるようでそう納得し、

 続けて「あのファーストキス泥棒も自分のことぼくって言ってたし」と

 エピソードの欠片を続けて呟いた。

 

「って、え? 角?」

 俺が謎ワードを聞こうとしたら、エルは自分で言ったことに疑問符を浮かべ、

 言葉の真偽を確かめようとしたか、こっちに体ごと向いた。

 

 ーーそして。

 

「ええっ!? 角っ! よく見たら角生えてるうう?!」

 今更な超びっくりリアクションのエル、しかもセルフノリ突っ込みだ。

 イメージ的に頭上に巨大なビックリマークが降って来たような、そんな感じだな。

 

「うわわわっ」

 びっくりした勢いでのけぞったエル、どうやらのけぞりすぎたようで

 両腕を上下にブンブン振ってバランスを取ろうとしている。

 

 

「ふぅ。あっぶなー、ひっくりかえるところだったー」

 左手で額の汗を拭った騒がしい少女に、

「初見の時に気付かなかったのかよ……」

 呆れ半分に突っ込む俺と、

 

「ずいぶんド派手な驚き方だね、エル」

 苦笑いしてるのが顔を見なくてもわかる声色の百鬼姫なきりめ

 それに同意して頷く俺。「うん」と他三人からも声がしたので、

 おそらくは頷いてると思われる。

 

「だ、だだだだってっ! 角だよ? 角生えてる上に、

自分のことぼくって言うんだよ? 女の子なのに?」

 

 

「世の中にはな、自分のことを『ぼく』とか『俺』って言う

女子もいるんだぜ。広いもんだよ、世の中って奴は」

 すいません、これただのキャラ属性の話です。

 が、現に鬼娘がぼくっこなので、あながちこの発言が空想方面の話とも言えないのである。

 

 広いもんだよ、世の中って奴は、うん。

 

 

「へえ、そうなんだ。俺って言う女の子もいるんだ」

 目を真ん丸くして感心した様子のエル。

 そう数は多くないけどな、と補足を入れておく。

 

「で、ぼくになんで角が生えてるのか、だけどね」

「あ、うん」

「ぼくが鬼だからだよ」

 

「……鬼?」

 不思議そうな顔だ。心が真っ直ぐ顔に出るんだな。

 これぐらいの年齢なら、むしろそうじゃないと心配になる。

 

 見た目と態度から推測したところ、行っても十歳ぐらいだからな。

 

「うん。ぼく、こう見えて人間じゃないんだ」

「……え?」

「人間に角は生えてないでしょ?」

「え。あ。うん……」

 

「この四人が気に入ってね、ついて来ちゃったんだ」

「そう……なんだ」

 一応は納得したらしい。直後なにを思ったのか、

 エルは女子どころかリビックの方にも、ぐるーっと視線を向けている。

 

 いったい何事だ?

 

 

「……みんな、名前 長そう」

 ああ、体付きを見たのか。しかし、突然すぎだろ?

 

「なんで突然そこに話が飛ぶ?」

 

 俺の問いに、

「ちょっと見えたお姉さんたち、みんなおっきかったから、

それで気になったんだ」

 そう苦笑した。

 

「で、見回したらお兄さんも丸みを帯びてた、とこういうわけだな」

 リビックに視線をやったことを納得して相槌を打ったら、うんと頷いた。

 

 

 これは最初の船移動の時に、基本知識として教わったことなんだけど。

 女性のみならず男性も持つ魔力の強大差に比例して体格が丸みを帯びるんだそうだ。

 リビックはなかなかになよっとした体格で、一目で強い魔力を持ってることがわかる。

 

 そんななよなよボディーでも、平気な顔して双剣扱うわテントと寝具一式、

 更にはレイナのあの防具一式まで持ち運んでるわ。世の中わからんもんである。

 

 一方、クロスタイドレベリオンの男連中はちょっとだけ丸みを帯びてるように思えた。

 あの三人は仕切り、つまりは名前のイコールを持つ、ミドルネームありだった。

 

 名字以外に本人ともう一つ別の名前を持っている、

 リビックやレイナ 結葉に比べれば短い物ではあるけど。

 

 結葉曰く、奴等は自らの体格が女性的になることを嫌がって、

 本来持つ強い魔力の成長 鍛錬をせず、近接戦闘の技術に全振りしてるらしい。

 

 魔力による体格の変化を、あの三人は呪いだと称してるんだとか。

 

 存在がイレギュラーな俺は、中肉中背の男性の肉体だが、

 恐ろしく強い魔力を持っていると言う状態だ。その強さはただ総量がでかいって話だけじゃないんだろうな、と形を二重に生成する必要があるらしい鱗怪変化りんかいへんげが使えるところから、なんとなくは飲み込めた。

 

 

「ぼくは百鬼姫なきりめ、これだけだよ。

人間じゃないから、人間の法則は当てはまらないからね」

 

 こいつ、人間に警鐘をつける場合とそうじゃない場合がある。

 さっきから敬称略なのは、解説として種族を表してるからだろう。

 けど、そうじゃない場合の敬称のあるなしはなにか基準があるんだろうか?

 

「へぇ」

「あたしは仕切りなしよ。ニドルモント家で初めて、このレベルの体付きになったんだって」

 仕切りなしってのは、俺とかベルクみたいな

 ミドルネームを持たない人間を刺す、ようは別称らしい。

 

「へぇ、すごい。最初の人って、すごいよねっ!」

 なんか、急にテンションが上がったぞ?

「あ、うん。ありがとう」

 テンションの急上昇に、流石のベルクも対応に困ったようで、

 感情が抜けたような声になっている。

 

 吹き出しそうになるのを、どうにかかみつぶした俺。

 つっても苦虫をかみつぶしたような顔にはなってないけどな。

 

 

「やっぱりユイハさんのゆうとおり、希望を捨てずに魔法の練習していけば、

お姉さんみたいに 仕切りなしでもそんな風におっきくなれるんだっ!

よーしっ! みんなついてきてっ!」

 

「ちょ まてよ!」

 ベルクが仕切りなしだとわかったとたん、テンションがぶちあがったエル。

 

 それまではいい。そこまではいいが……ギュルンっと反転したと思うと、

 そのまま全力で、一本道を駆けだしてしまったのだ。

 そりゃ、思わず止めようと声もかけよう。止まらなかったけど。

 

「自分の体付きに、よっぽど劣等感を感じているんですのね、エルさん」

 気の毒そうに呟いたレイナ。劣等感って言うと、ひどく重たく聞こえるけど、

 たぶんコンプレックスを抱いてるって言ってるんだろうな。

 

「絶対本人に言うなよ。レイナが言うとただのいやみだからな」

 

「心配いりません、言うつもりはありませんから。

もしこのことを彼女に言うつもりなら、名前の長さを呟いた時に、

きっと口にしています。さ、追いかけましょう」

 

 歩き始めたレイナ、その速度は早歩きだ。

 なるほどな、とひとりごち、俺はそれに続く。他三人も歩き出す。

 

 徐々に速度を上げていく面々。それに一足遅らせて、俺も歩調を速めた。

 

 

「ぜぇ……はぁ……やっどぎだ! おぞいよ゛ー!」

「息も絶え絶えだな」

 追いついた時に声をかけて来たエルは、俺の言葉の通りである。

 ほんとに全力疾走だったんだろうな。

 

 一分二分程度間はあったはずだが、まだ肩で息をしている。

 

「勢いで全力疾走するからだよ」

 リビックが苦笑いしている。

 

「しかたありませんわね」

 聞くからに柔らかな微笑な声でそう言うとレイナ、

 おもむろにエルの前に立つ。そのおかげで、俺からエルの姿が見えなくなった。

 

 ーーああ、やるんだな。

 

「なにすほぷっ?!」

 どうやら、顔がなにかに包まれたらしい。言うまでもないが、

 レイナがハグしたことによってエルは、

 レイナの豊満な双子の山に顔を挟まれたのだ。

 

 挟まれたのだっ!

 

 ぐぐぐ、羨ましい。身長とは、かくも幸福を遠ざけるものかっっ!

 

「いて」

「これまで何度もハグ回復魔法してもらえてんだから、

そんな心の底から悔しそうな顔すんじゃないわよ」

 

「だからって拳骨はねえだろ拳骨は……」

「軽いんだからいいでしょ」

「重みの問題じゃねえよ」

 

「利き手じゃない左でやってんだから、おふざけだっての理解しなさい」

「むちゃ言うな」

 なんぞとやってる間に、既に「癒しを」は終わっている。

 

 

「お? お。おお、すっごーいっ! 疲れがふっとんだっ!

お姉さんすごいっ! ありがとうっ!」

「ウフフ、どういたしまして」

 目をキラッキラさせてお礼を言ったエルに、穏やかな微笑で返したレイナ。

 

「流石レイナの回復魔法だな」

「瀕死の重傷から疲労回復まで、なんでもござれだもんね。

流石はエンブレイスの巫女」

 なんとも楽しそうなベルクだ。

 

「お前、ただエンブレイスの巫女って言いたかっただけだろ」

 俺の冷ややかと書いてクールな突っ込みに、「あ、バレた?」とニヤリ顔。

 テヘペロでもすんのかと思ったが、そんなことはなかった。

 

 

「えっと、じゃ、改めて。ついてきて、みんな」

 そう言うとまたも反転。今度は早歩きぐらいの歩調で進むエル。

 

 

 

 それに俺達は、和やかな気持ちで続いた。

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関連作品。

ゆるさんの押し事 ~ 最強竜凰さんののんびり火山生活 ~
同じ世界の作品、2D6の後半にクロスオーバーする。


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