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ロール14。新たな出会いと山本家。 2転がり目。

「ごめんなさい、変なこと聞いてしまって。同じ苗字なので、ちょっと 気になっちゃって」

 恥ずかしそうに笑いながら、恥ずかしさごまかしだろう、ちょっぴり下を向く結葉ゆいは

 

「たしかに、俺らみたいな名前、珍しいぶるいだし、更に名字が同じなら気になるよな」

 って同意しはしたけど……どうする? どうするよこれ?

 しかもこの同意が合ってるのかわからねえしっ、特に前半っ。

 

 どうする? どうするよこれっ?

 

 また思わず助けを求めて鬼娘をチラ見してしまった。

 が、今回もさっきと同じく、一瞬目を合わせただけで「ぼくの領分じゃないしー」とばかりにすぐ目をそらされた。

 

 

 マジでどうしよう。俺に山本情報まったくないぞ。

 

 これまでのでっちあげデータは、あくまでアズマングについて知識の少ない

 外国人相手だったから通用したんじゃないのか?

 

 同じ国の人間であろう結葉相手で、はたして通用するのか?

 大陸の古い呼び方をあえてさせる家、なんて珍しいだろうし、話題にどこかしらで上がってて不思議じゃない。

 

 となればだ、その山本さんちが実在してなかった場合がめんどうなことになる。

 だからこれまでのでっちあげデータを公開するのか考えてしまうのだ。転生者であることと、

 それだからこの世界の知識がほぼないって話を、ここで暴露してしまうのは悪手。

 

 たしかに結葉の性格はおとなしいし、秘密をうっかり喋ってしまうような雰囲気にも見えない。

 けどレイナの言う、特異体質ゆえの俺への危険へのリスクが上がる可能性は、少しでも減らしておきたい。

 

 

 ーー獅子身中の虫ならぬ、パーティ中の鬼が不安だけど、こいつは大事なところではしっかりしてる。

 それは、俺がこの世界から外れた存在であることを告げて来た時の言動で、既に理解している。

 でも、ハラハラさせられるのはおそらく、百鬼姫なきりめの奔放ないたずらっこ気質のせいだろうな。

 

 脱線戻し。さて、どうしたものか、である。

 ……思い切るか。思い切ってしまうか。

 

 ーーよし。思い切ってしまおうっ! 空気が固まったらそんときゃそん時だ!

 

 勢いだ! 開き直りだ! やけくそだ! ごおしちごおに、なんかなってる?!

 しちしちまでプラスされて気分は歌人だコノヤロウ!

 

 自分でなに言ってんのかわかんねえよもうっ!

 

 

「なあ、結葉。知ってるか? アズマングのことを日本って呼ぶ山本家」

 思い切った。思い切ったものの出た声に力がなかった。

 思い切ったが所詮はただの妄想トークだ。そりゃ自信もないわって話だ。

 

 知識人に知ったかぶりでドヤ顔してる気分だからな。

 むしろ恐ろしい。思い切ったが、深層はガクブルマインドフルオープン、

 全力全開全砲門第開放中なのである。

 

 

「アズマングを日本って呼ぶ山本家……」

 考え込む結葉。なかったかー。駄目かー、アウトかー。

「そういえば……聞いたこと、ありますね。そういうかわったおうちがあるのは」

「……そっか」

 

 あったよ。存在してたよ。マジかよ? マジなのかよ!

 

「ですけど、それが山本って名字だったのは知りませんでした」

「そうなんだな」

 高揚を押し殺して、かろうじて平静を装って言葉を返せた。ナイス俺っ。

 

「はい」

 こくり、と頷きそう言った結葉に思わず、安堵のこもった力強い頷きを返してしまった。

 

 ……はぁー、よかった。でっちあげが嘘から出た真でー。

 これでレイナたちに不信感持たれなくて済んだぞーよっしゃー……っ!

 

「あの、竜馬さん。大丈夫ですか? 汗かいてません?」

 心配してくれている。俺が今かいてるこの汗、汗は汗でも冷や汗である。

 

「あ、ああ。大丈夫。大丈夫だ」

 「あ、ああ」が震え声になってしまった。また不思議そうに首をかしげた結葉である。

 

 ーーおいこら鬼っ! クックックックじゃねー! 噛み殺したふりして、実は爆笑してるだけだろお前!

 

「また睨むー、もうやだなー、」

「こんの、ニヤニヤすんな!」

 一人だけ事情を知ってるから、俺の冷や汗の理由に気付いてるんだろうこいつは。

 

 

「なんか、百鬼姫なきりめさんと竜馬さん、二人の間の空気 ちょっと違いませんか?」

「そうなのよ。なんかねー、出会った日の夜に、あたしたちに話せないような面白い話をしたらしくってねー。

ナキリメだけ、なんか訳知りなのよ」

 

 愚痴るように言うベルクに、「同じアズマングの人ですし、通じるところがあるんでしょうか?」と

 同郷ならではの推測を返している結葉。

 

 

「それにしてもユイハ。あたしたちと喋ってる時、活き活きしてるわね」

 結葉のパーティこと、クロスタイドレベリオンの男連中には、たしかに俺が百鬼姫なきりめに抱くのと似たようなハラハラ感を抱いた。

 気楽そうなのも当然だろう。

 

 この無駄にかっこいい結葉たちのパーティネーム。ネーミングに結葉は一切かかわってないそうだ。

 活動当初から参加してたら異を唱えたかった、って言ってた。仰々しくて恥ずかしいらしい。

 

 結葉は俺と同じく途中参加で、あの周囲を睨み回してるような雰囲気の、あの男連中の危うさを見かねて手を差し伸べたらしい。

 途中参加って点では俺といっしょで、二人で笑っちまった。

 

 つまりあの男連中、結葉が入るまであいつらだけで活動してたってことになる。……よく悪い噂が流れなかったな。

 

 

「自分で彼等のストッパーになるって決めて、今のパーティにいますけど。

それでも彼等といっしょに居続けるのは、どうにも息苦しいんですよ。

同業者で雰囲気のいいクロス・アエジスの皆さんがここにいてくれて助かってます」

 

「たしかに。あんな態度悪い奴等といっしょに居続けたら胃が痛いでしょうねぇ」

 ベルクの同調に、俺達は全員で首を二度縦に振った。

 

「ありがとうございます。あの、ありがとうついでに、なんですけど」

「なに?」

 ベルクの返しに一つ頷くと、結葉は要件を告げた。

 

「もし、でよかったらなんですけど。先にわたしたちに火山に行かせてくれませんか?」

「別にかまわないけど、どうして?」

 

「はい、どんなところなのか依頼のついでに皆さんに伝えようかな、って思いまして」

「たしかに事前情報があるのは助かりますわね。わたくしは本で得た知識だけですから、

直接現地に行った方の情報を、じかに聞けるのはありがたいです」

 

「いっしょに行く、って選択肢はないのか?」

「はい、ポーンの依頼にも出るような場所ですからそれでもいいんですけど。

でも、もし冒険者が多数で行ったことでモンスターたちを刺激してしまって、

山総出で戦闘態勢を取られてしまった時には、対処できません」

 

 十人程度で多数。十人の登山程度で気を荒立てるとも思えないけど、冒険者ってところがみそなのかもな。

 

 

「なるほどな。それは、場数がゆえに出た考え方なのか?」

「そうですね。依頼は、なにが起きるかわかりません。

想定するなら可能性は最悪を。そう考えるようになりました」

 

 続けて結葉は、「特にうちの場合、メンバーがあんな感じなので、余計にそう考えないと危険度が依頼の記載よりも増しますから」と苦笑いした。

 だろうなぁって言うニュアンスの言葉で、納得に頷く俺達クロス・アエジスである。

 

「そっか。依頼をこなす際の心構えとして覚えとく」

「はい。参考になったならなによりです」

 にっこりと微笑む黒髪黒目の美少女に、俺も口角をゆるめて答えた。

 

 

「さて、と」

 言って結葉は正座を解いて立ち上がった。

「あれ、もういいの?」

 

「あ、はい。地元の人にフォニクディオス火山に関することを聞こうと思ってるので。

それであわよくば、案内してくれる人がみつかればいいなって思ってるんですよ。

情報収集は早いうちに、です」

 

 ベルクの質問に、そうやって依頼に対する姿勢を答えた結葉。

「パーティ、一人で動かしてるような状態なのね、ユイハ。ごくろうさま」

 男連中のふるまいからこう考えたんだろう、俺もベルクに同じくだけど。

 

「ありがとうございますベルクローザさん。そう言ってもらえるだけでも、かなり肩の荷が軽くなった気持ちになれます」

 それでは、とお辞儀一つして、山本結葉は俺達に背を向けた。

 

 

 

 ーー俺も、肩の荷が大分降ろせたぜ。思い切って言ってみてよかったなー。

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関連作品。

ゆるさんの押し事 ~ 最強竜凰さんののんびり火山生活 ~
同じ世界の作品、2D6の後半にクロスオーバーする。


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