ロール11。望んで転がす他人の運命。 4転がり目。
「ナキリメさん、リョウマさん。おかえりなさい」
レイナにまず声を賭けられて、俺は「よう」と右手を上げ、百鬼姫は「ただいま」と気楽に返した。
「すごい剣幕でリョウマのこと引っ張ってったわりに、
ずいぶん穏やかに戻って来たわね。リョウマに特に怪我があるわけでもなさそうだし」
ベルクはこの、あまり強くない夜の光でも俺達の様子がしっかり見えてるみたいだ。
この世界ではあたりまえの光量だからなんだろう、きっと。
「まあ。ちょっと話をしただけだからな」
「絶対来るな、なんてもったいぶったわりに話しただけ?」
疑いの眼差しを向けられた。ベルクのみならず、レイナもリビックも驚いた表情だ。
「それで? わざわざおおっげさに距離とってまでした話って、いったいなによ?」
不振を隠しもせず、呆れた調子でベルクは肩をすくめた。
どう言ったものかと、思わず百鬼姫と顔を見合わせる俺。
でっちあげスキルも弾切れだ。
一つ頷くと、百鬼姫は話した。その理由を。
「魔力がないはずの竜馬が、なんで鱗怪変化の術が使えたのかってことを教えてたんだ。
ちょっと、君たちには聞かせらんないこともあったから、釘を刺しておいたんだよ」
舌を巻くぜ。間違ってない。
たしかにその話をしたし、その理由はとても冒険者三人には言えない内容だ。
余計な情報は入れない方が余計な心労をかけないで済むし、俺もややこしい説明をしなくていい。
だから俺は、あくまでもこの世界の住民としてプロフィールをでっちあげたんだ。
「聞かせられない理由?」
「うん」
なおも不可解そうに尋ねたベルクに、力強く頷いて応じた鬼娘。
その少し真剣みを強めた声は、追及を拒むためかもしれない。
それで引き下がるかはわからないけど。
「ち ちょっと、なんで睨むのよっ……わかった、わかったわよ」
降参と言うかわりだろう、ベルクは顔の前で両手を音が鳴るほどの勢いで組んで軽く頭を下げた。
鬼と言う存在についてレイナが話した情報が、
ここで俺と百鬼姫にいい方向に働いてくれたらしかった。
「で、一つお礼と謝罪とで、提案があるんだけど」
満足げに頷いてから、そう切り出した鬼娘。
おそらく、見張り役を引き受けたいって言う話をしたいんだろう。
「お礼はわかりますが、謝罪と言うのは?」
なにか言おうとしたベルクを手で制してから、レイナが尋ねた。
「君たちに竜馬のことで心配させちゃったかなーって。そのごめんなさいだよ」
「たしかに、やきもきしていました。そこまで気を回してくださるなんて、意外ですわ」
「どうやら君たちの中では、鬼ってのはあんまり頭がよくない認識っぽいからね。
ま、それについてはぼくとあったことで改めてもらえればいいや。で、聞いてくれるかな?」
さらっと認識改め要求してんのな。
「え? あ、え、ええ。どんなことですの?」
「そう警戒しないでよ。君たちに損は一つもない簡単なことだから」
心配するなのかわりだろう、右手を顔の前でひらひらと左右に動かしながら言った。
ああこのジェスチャー、こっちでも違うの意味があるのか。
「あ、はあ。そう……ですか。それで?」
促すレイナの表情も声色もまだ硬い。
鬼本人が損のない話だって言ってても、内容がわからないんじゃ身構えもするだろう。
困ったようにやれやれと言いながら、
軽く左手で後頭部を掻いて、しかたない と言った調子で切り出した百鬼姫である。
「ぼくが今日一晩、君たちの眠りを守ろうって提案」
「え?」
「ほんと……なの?」
驚く女子二人。リビックは声には出してないけどまばたき連打中、
かなりのびっくり具合だ。
「ど? 損はないでしょ?」
後ろから見てるからわからないけど、その勝ち誇ったような声色から推察するに。
ーーきっとドヤ顔だ、この鬼少女は。
「え、ええ。それは、とてもありがたいのですけれど……よろしいのですか?」
レイナもまばたきを何度もしながらそう確認している。
「よろしいよろしい、あのでっかい蛇倒してくれたお礼の分、これで足りるかなーってぐらいだし」
そのまばたきに全部応じるように、こっちもこっちでこくこくと頷きまくっている。
「よっぽど困ってたのね。思わぬ波及だわ」
あっけにとられたベルクの顔と声に、ほんとだよなと俺も同意に頷いた。
「あの、それじゃあ……よろしく、おねがいします」
なんと、ヘタレだヘタレだとすごい勢いでディスられまくっているリビックが、
頭を下げて了承したことを口にした。
「うん、任されたっ」
リビックの言葉に百鬼姫は、実はベルクぐらいに立派な自分のふくらみを、バシっと右拳で叩いて答えた。
実に楽しそうに。
この様子を見ると、、俺のサイコロ賭博は間違ってなかったんだって思えて来る。
「さて、そうなると。俺はどうしようか。
寝るとこないんだよな……って、あ」
冒険者三人の背後を見て、俺は驚いたのだ。
「どうしたんですの?」
「テント、だったのか。寝る用意って」
「うん。寝袋は冒険者には向いてないんだ。すぐに動けないからね」
リビックに言われて、なるほどと俺は頷く。
たしかに、冒険者は危険と隣り合わせだ。寝てるとしてもすぐに動けないのは致命的か。
「じゃあ、ぼくの横にでも転がってればいいよ。立ちっぱなしで寝るわけにもいかないでしょ?
ぼくの横なら安全だからさ」
「流石はこの山の覇者。大した自信だ」
小さく笑んだ俺に、ふふんと胸を張る鬼娘。
後ろからだから、いまいちわかんないけど。
「じゃあ、その自信に乗っからせてもらうとするか」
俺の言葉に、よっしとまた楽しげに微笑む百鬼姫に、自然と笑みがこぼれた。って言っても相変わらず背中しか見えないから、声で判断したんだけどな。
ベルクたちも同じだったようで、和やかな笑いが夜のトミサムヤマ山頂に広がるのだった。
自然の中で友達数人と、こうして談笑しながら星を眺める。
小学校の学年行事で行ったキャンプを思い出す状況に、
「どうしたの竜馬?」
知らず俺の瞳には涙がにじんでいた。
「いや。なんでもない」
心配そうに聞いて来た百鬼姫に俺は、何度かきつくまばたきをして涙をおいやってから、そうごまかした。
自分でもわからない涙に、正直 戸惑ってる。
「まったく。なんて濃い日だったんだよ」
なんとか戸惑いを追いやって、くっきりとした
天然イルミネーションみたいな星空を見上げて、俺はそう 微笑交じりに呟いた。




