表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/62

ロール11。望んで転がす他人の運命。 1転がり目。

「卑怯な手だとは思う。説得の仕方がわからないからって、都合のいいように運命を捻じ曲げたがってるんだからな、俺は。

俺がやろうとしてることってそういうことだろう?」

 自虐を含んで、自嘲気味に言う。

 

「いくら女神がバックアップしてるとはいえ、世界の外から強引に、なんて。アンフェアだよな」

 更に苦笑いの自虐追い打ち。

 

「まじめなんですね、竜馬さん」

 柔らかな微笑。女神と言うよりはお姉さんと言った雰囲気だが、それもまたこいつの人格……いや、神格かみかく? なんだろうと思う。

 オーラがないからこそ、俺はこいつとサイコロ仲間になろうと思ったわけだしな。

 

「いいと思いますよ、わたしは」

「いいのか?」

 シリアスに問い返す。

「だって。竜馬さんがやろうとしてることは、あくまでもお手伝いじゃないですか」

 

「手伝い?」

 思わず聞き返した。

 

「そうですよ。わたしの力は運命を動かす力。未来を動かす力です。ですが」

 一度言葉を切るとコロコロちゃんは、

「わたしの力は結局、運に結果が左右される不確定で不安定な力ですよ」

 そうついさっきの俺同様に、自嘲気味に言ってから、更に言葉を続けた。

 

 

「確実に彼女の行動を良い方向に変えさせられる物じゃありません。あくまでも、彼女の行動を、最良へ向けるお手伝いです。

それぐらい、誰しも経験することじゃないですか。そんな、後ろめたい気持ちを抱く必要なんてないんですよ竜馬さん」

 たしなめるように優しく言ってから、もう一言言った。

 

「それに、誰かのために力を尽くすことは素敵なことだと思います」

 

「そう……かな?」

 真正面から素敵だなどと言われて、てれない高校生男子が存在していようか。

 少なくとも俺の知る限りは存在せん。

 

「……最終的には運。そういや。そうだったよなぁ」

 てれ隠しに、今しがた言ったコロコロちゃんの自虐を利用させてもらうことにしよう。

 

「な……なんですか。そのなにか含みを持ったような言い方は?」

 えーっと。表情を険しくして、っと。

 

「俺が死んだのも、返信能力を得られたのも ベルクたちと良好な関係になったのも。

全部その『運』が引き起こしたことだったよなぁ」

 

 たたみかける。俺が照れ隠しとして、このいやみを言ってるんだと気付かれてしまってはいけないからだ。

 照れ隠しだってバレたら恥ずかしいからな。

 

「うぅぅ、まだゆうんですか? 根回し不能ファンブル死のこと」

 勘弁してください、と言う言葉がドッカと乗った声色と言い方だ。

 

「あたりまえだ、今こうして復活したとはいえ、一度死んでるんだからな。お前のヒトリアソビのせいで俺は」

 こちらも同じく勘弁してくださいを乗せる、本音で。が、意味合いは怒りとへこみでまったく逆。

 転生初日で睨まずにこのことを言えたら、そいつはまともな人格してないと思う。

 

「ううう。もうゆるしてくれたとおもってたのにぃ」

 

「思い出したら腹立ってきたんだよ。『尻尾の生えた最強田舎少年が球探して冒険すっぞ』ほど命は軽くないんだぞこっちは」

 まゆげをハの字にされたところで、俺はまだちょいとばっかし睨み足りねえ。この言葉もまた本音なのである。

 

「だ、だってサイコロがわるいんですよサイコロが……!」

 いじけとだだこねが混ざったような言い方で放たれた、衝撃のその言葉。

 

 これすなわち。

「お前は己の存在を否定するつもりか……」

 ダイスの女神がダイスに文句を言う、というまさかすぎるブーイングだったのだ。

 

 俺は女神のこの言動に、体から力が抜けてしまった。

 

 

「とにかく、だ」

 声の勢いを借りて力を入れ直す。話を戻すためだ。

 このままじゃ、いつまで経っても話が進まない。

 

「あいつ、百鬼姫なきりめがこの後。連絡手段とやらを渡すつもりで一晩過ごすのか。それとも、俺達と同行するように考えを変えるのか。

一発、勝負させてくれ」

 俺は真剣に頼んだ。可能性へ、少しでも寂しさに寄せない可能性へ未来を向けるために。

 

「わかりました。ダイスロールはしてもいいです」

「なんか、歯切れが悪いな」

 だから、素直に喜べないのだ。

 

 

「竜馬さん。一つだけ、ダイスロールに際して約束してほしいことがあります」

「なんだ」

 真剣に言われて、同じく真剣に返した。

 

「出た目に文句を言わないこと。むりに運命を変え直そうとしないこと」

「元々一発勝負のつもりだ、安心してくれ」

 一度言葉を切ってから、「なるほど、運命を変え直す、なんてこともできるのか」と今聞いた新たな情報に感心する。

 

 コロコロちゃん、それじゃあ約束が二つになるぞ、って言う言葉は空気を読んで飲み込んだ。

 

 

「はい。ただ、運命を動かすサイコロの振り直しには、人の身では凄まじい生命力が必要になります。死ぬ可能性すらあるほどに」

「そいつは、えらいデメリットだな」

 

 「そうです」と一つ頷くと、コロコロちゃん 補足を続けた。

 

「しかも、振り直す場合にわたしはなにもしてあげられないんです」

「どうしてだ?」

 

「わたしの力によって得られた結果を覆す。つまり、神に抗うこと。

神に抗う手伝いを、その神自ら行うことは自殺に等しい行為です」

 

「そう……なのか?」

 よくわからない。

「いいですか?」

 なんか、小言の出だしっぽい言い方だな……。

 

「自らへの反逆を、率先して自ら後押しするってことなんですよ。

自らに弓を引く相手に対して、わたしはここです と、自ら身を晒して狙わせる。

 

どうですか? 自殺志願者に思いません?」

 

「なるほど。よくわかった」

 こいつが腕を広げて、血走った目の人間相手にどうぞ討ってくださいと言わんばかりにしてる光景が、まざまざとイメージできてしまい……、

 コロコロちゃんが自殺行為って言った理由がくっきりと納得できた。

 

「だから、そんなことに力を貸すわけにはいきません。たとえあなたの頼みでも」

「そっか。肝に銘じておく」

 

 一つ頷いて言った俺に、

「おねがいしますね、くれぐれも」

 コロコロちゃんは、いつのまにか拳を作っていた自分の両手を見つめて言った。

 

 その直後、握っているその手の中からカニャリとでも表現しようか くぐもった、硬いサイコロがこすれたような独特の音が鳴った。

 

 いつのまにか、テーブルに置いてあった奴を持っていたらしい。

 

 

「どうぞ」

 握っていた拳の向きを反転させて、開いた時掌が上を向くようにしてから、こっちにそっと出してそう言い、両手を開いた。

 

 その開かれた左手には黒い、右手には白い立方体に 赤い目が定位置に配置されたダイスが一つずつ、思った通りあった。

 

 よしと頷き、俺はその両手に自分の両手をかぶせてダイスを回収すると、そのまま右手に黒い方を乗せて右手を握る。

 またカニャリと独特の音が、今度は俺の手の中で鳴った。

 

 

 自分で願い、他人のために賽を振る。初めてのことだ。

 そんな形でサイコロ振る奴が、どんだけいるのか って話ではあるけどな。

 

「それにしても。なんだ……この緊張感は……」

 じんわりと汗が全身ににじんで来た。凄まじい緊張感。

 

 他人の運命を握る。興りうる未来の方向性を勝手になでつける。

 俺は、そんなわがままのために。手元の二つの四角形を握り、そして、投げようとしてるんだ。

 

「くっ……」

 重い。吹けば飛ぶようなサイコロだって言うのに。まるで……!

 ーーまるで、何十キロもあるみたいだ。手どころか、体さえ動かせねえっ……!

 

 

「竜馬さん? どうしたんですか? すごい汗ですよ?」

 こいつは。このどっちかって言えばおっとりしてるこの、少女にしか見えない女神は。

 ーーこんなことを、遊び感覚でホイホイやってるって言うのかっ!

 

 だてにダイスの神様やってねえってことか。こいつと出会って、初めて 意識して

 こいつをすげーと思った。

 

 

「……っ!」

 歯噛み一つ。全身に力をこめる。

 そして。

 

「いっけえっ!」

 まさに、全力投球ならぬ全力投射。

 机を叩き割る勢いで、手にしていたサイコロを投げつけた。

 

「きゃっ」

 机に当たった衝撃で飛び跳ねた二つのダイスは、どうやらコロコロちゃんに当たったらしく、

 短い彼女の悲鳴の後でテーブルに、コロッコロコロッコロッ、っと転がり落ちた。

 

 

「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」

 肩で息をする俺に、サイコロの行方はまだ見えていない。勿論その出た目も。

 

「あの、竜馬さん。どうしてそんなに疲れてるんですか?」

 サイコロを投げる直前と同じようなことを、また質問して来ている。

 

 投げる直前は答える心の余裕がなかった。今回は、まだ少し 答えられる肉体の余裕がない。

 

「すこし……まってくれ……」

 かろうじてそれだけを答えて、俺は深い呼吸を続け、息を整えた。

 

 

「大丈夫ですか?」

 なんとか呼吸を整えることはできた。なおも心配してくれてる。それが火を見るより明らかで、申し訳ない。

 

「ああ、なんとかな。心配させちまったか」

 声が重くなっちまったが、コロコロちゃんは「どうも、大丈夫そうですね」と安堵の表情で 安堵の息といっしょに言葉を吐き出した。

 

 

「それで。どうしてダイスロールを、あんなに苦しそうに?」

 不思議そうに問いかけて来たので、俺は素直に答えた。

 

「他人の運命って……ものすごく重たいんだな」

「そう……でしょうか?」

 なおも不思議そうだ。今回はちょこんと首を左にかしげてまでいやがる……。

 

 

「このことに関して、感覚が違うだろうとは思ったけど……まさか。

まったく交わらないとは思わなかったな」

 驚きと戸惑いの混じった表情である。そうなるのが自然だろう、と俺は主張したい。

 

 

 

 ふうむ、となおも不思議そうに一つうなってから、コロコロちゃんは話を続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


関連作品。

ゆるさんの押し事 ~ 最強竜凰さんののんびり火山生活 ~
同じ世界の作品、2D6の後半にクロスオーバーする。


小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ