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ロール1。サイコロ怖い! 3転がり目。

「わかった」

 頷く。自分の意志でこの申し出を受ける。その意志の表明。

「竜馬さん?」

 

 サイコロを転がすんなら、神様だって運任せのはずだ。だって言うのに、出た目の結果を自分の責任だって思ってる。

 そんな責任感強すぎなまじめっこの、できうることをしたい、そういう気持ちだもんな。

 

「頼むぜ」

 右手を肩にポンっと置いて、一つ頷く。

 

 はぁ、と歪んだ声で安堵の顔をする女神。その目から、ポロポロと涙がこぼれて行く。小さくしゃくりあげる声も勿論聞こえる。

 

「ごめんなさい。他の神々かたがたから、よく泣き虫博徒のコロンちゃんって言われるんですよね、わたし」

 少しして、涙が収まった女神は、そう言って苦笑いした。おめめが真っ赤である。

 

「神様事情はわからないけど。まあ、あれだ。暇潰ししたいってんなら、付き合うぞ」

 出会ってから今まで大した時間は、相変わらず経ってない。それだって言うのに、これだけ泣くんだ。いろいろあるんだろう、このまじめっこには。

 

「いいんですかっ?」

 パァっと表情が華やいだ。俺の頭で、どうしてこんな表現がスラっと出るのかはおいといて、そんな綺麗かわいい表情である。

 

 これさ、やっぱ女神って言うか たんなる美少女だよな。

 

「ああ。なにできるかわかんねえけどさ」

 微笑して言うと、では ではですね、となにやら楽しそうに言いながら、今の今まで脱ぎっぱなしだったサイコロ帽子を久しぶりにかぶった。

 

「五の目がこっち向いてるぞ?」

 さっきは二の目だったから言ってみた。

 

「え? あっ、失礼しました」

 うっすらと顔を赤くしてそう言うと、帽子をくるくる回して俺に二の目を見せるようにかぶりなおした。

 

 どうやら二の目は、こいつ的には目玉扱いらしい。

 

 

「えー、それで ですね」

 仕切り直した女神は、「わたしのプチ冒険に付き合ってください」と小さく頭を下げて言った。

 

「具体的にはどういうことになるんだ?」

「竜馬さんの行動時に、わたしがたまに竜馬さんにダイスロールしてもらうんです」

 

「お前が振るんじゃなくてか?」

「はい。人が転がすダイスを見守るのも、ダイスの女神はお好きなんですよ」

 呆けるほどに純粋で愛らしい笑みで、ダイスの女神はそう言った。

 

 

「それに、わたしはわたしで今まで通り、気まぐれにコロコロしますしね」

「そ、そっか。なるほどな」

 なんとか言葉を吐き出したけど、ちょっと吃っちまった。

 熱持ってる俺の顔、こいつは気にする様子なしだ。

 

 その辺、人とは感覚が違うんだろうか?

 

「それじゃ、これからわたしたちは博打プレイヤー仲間ですねっ」

 ガシッと両手を掴んで来たので、面喰って「お、おぉ おう」って目を白黒させちまった。

 

「合図は時間が止まることと風鈴みたいな音ですよ」

 手を離した女神はそう補足した。俺の動揺なんぞ、目の前の童顔女神は気づいてないようで。

 

 ……なんか今。さらっとすごいこと言わなかったか?

 

 

「それで、あの。竜馬さん。一つ、お聞きしたいんですけど」

「なんだよ、藪から棒に改まって?」

 

「はい。転生先、どんな世界がいいのかなって」

「選ばせてくれるのか?」

「勿論ですよ、これもおわびの一つですし」

 

「そっか。うーん……そうだなぁ」

 どんな世界に行きたい。妄想したことはあったけど、実際行く それも永住するとなると、考えてしまう。

 

 

「剣と魔法の世界。鉄の巨人、巨大ロボが存在する世界。

これまで竜馬さんが過ごして来たような世界。その世界に超能力や魔法があたりまえに溶け込んだ世界。

いろいろありますよ」

 

「お、おいおい。悩ませないでくれよ」

 困り顔で笑う俺。けどこの笑いは、

「嬉しい悲鳴ですね」

 ニコニコと女神に看破される程度には、感情がバレるような笑いだ。

 

 剣と魔法もいいし巨大ロボも捨てがたい。これまでとまったく同じなのは、せっかく選べる世界がいくつもある中で、わざわざ戻る理由なし。

 

 けどそこに超能力や魔法が入るとなると話はかわって来る。いわゆる違能力バトルな世界観ってことだからな。

 

 ううむ……。これは悩む。

 

 ……そうだ。一番自由そうなのはどこだろう。せっかくなんだし、縛られない生き方って奴を味わってみたい。

 すっかりドップリ慣れ切ってるって言っても、よくよく考えれば縛られてばっかりだからな、俺の世界は。

 

 

「なあ、一番束縛されなさそうなのって、どこだ?」

「束縛されない、ですか。そうですねぇ」

 俺に背を向けた女神は、無数にある本とにらめっこを始めた。

 

 数秒の後に、いくつかをピックアップして持って来ると、俺に軽く読んで見るように促して来た。

 

「ふむ。へぇ。なるほど。面白いな」

 ……あ、いけね。つい読み物として読みふけっちまった。

 

「竜馬さん。よさそうな世界、見つかりましたか?」

 タイミングを見計らってだろう、女神が声をかけて来た。

 

「そう、だな。剣と魔法の世界にしてくれるか?」

 そう言って、俺は一冊の本を女神に手渡す。

 

「わかりました、この世界ですね。そうなると、竜馬さんにはどんな強化をすればいいでしょう?」

 今度は女神が考える番らしい。

 

「強化?」

「はい。この世界は竜馬さんが暮らしていた世界に比べて、遥かに頑健 堅牢 危険ですので」

「なるほど。たしかに、モンスターがうようよしてるような世界って、そういうイメージあるからな」

 左手を顎に当てて、ああでもないこうでもないと、思考をぶつぶつとだだ漏れにしてる女神を眺めることしばし。

 

 

「よし、決めました」

「お、決まったのか」

「はい。じゃ、転生プロセスに入りますよ」

 

「どんなサポートなのか、教えてくれないのか?」

 いきなり状況を動かすつもりなので、思わず尋ねていた。

 

「お楽しみに、ですよ」

 ニコリ。女神は楽し気に言う。いいやがった。

 

「ただ、一つヒントをお出しするとすれば」

 こっちはクイズやってんじゃねえんだぞ、と言いたかった。んだけど、あまりにも楽しそうなんで、しかたなく空気を読むことにした。

 

 ーーまた泣かれても困るしな。

 

 

「今と比べて、すっっごおおーっくっ、死に難くなります」

「もうそれ、答えだろ」

「そうですか?」

「そうだろ、普通考えたら」

 そうですか、と納得してない様子。バカにしてんのか、こいつは?

 

「そうですか、わかっちゃいましたか。残念です」

 眉毛を八の字にして言う女神は、本当に子どもみたいに心が真っ直ぐ顔に出る。

 

 この感情と表情のシンクロっぷりは、神ってなんだっけ と、ここに来て何度考えたかわからない、似たような思考を俺にまたさせる。

 

 

「わかりました。強化の内容もバレちゃったことですし、改めて。竜馬さん」

「おお」

「転生。始めますよ」

 

「お、おお。なんか……緊張するな」

 真剣な表情で言われ、殴りつけられたように緊張感がぶつかってきた。

 

「大丈夫ですよ」

 にっこりと笑顔で言う女神。その愛らしさに、緊張とは別ベクトルで体が固まってしまう。

 

「竜馬さん、この本のそうですねぇ」

 が、相変わらず女神はどこ吹く風だ。

 

 ダイスロールのデモンストレーションをした時と同じく、パラパラと本をめくり、てきとうな位置でそれをやめると、

「ここに人差し指をおいてください。手はどっちでもいいです」

 と女神がある一点を指さす。

 

 頷いた俺は、そこに右手の人差し指を押し付けた。

 俺の右手に、女神が左手 右手の順番で手を重ねる。

 

 その手の柔らかさに感動する暇もなく、淡くて青白い光が女神の手に現れる。

 

 

「山本竜馬。其が魂、其が肉体。汝が汝たらしめる全て、我が加護のもと、新たなる地平へと導かん」

 

 

 うわー。突然すっげー神様っぽくなった。

 

「それでは。あなたの異世界ライフに、幸多からんことを」

 柔らかな女神の声が終わると、俺の体が淡く青白い光に包まれた。

 

 

 

『チリンチリーン』

 

 

 

 この音が、合図か。そう理解したのに合わせるように、俺の視界が 意識がゆっくりと暗転した。

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関連作品。

ゆるさんの押し事 ~ 最強竜凰さんののんびり火山生活 ~
同じ世界の作品、2D6の後半にクロスオーバーする。


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