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ロール4。炎魔法と再びダイス。 4転がり目。

「彼女たちと冒険者として生きて行くと考えた場合、戦闘経験のない完全無欠に一般人の上に魔力までろくに扱えないのでは、竜馬さんは……」

 

 言いにくそうな様子だから、俺は さっきのベルクをなぞるように、「お荷物。足手まといだな」と頷く。

 

 魔力がある世界で魔力なし、更に冒険者になるなら必要になるらしい戦闘経験もなしでは、いくら体が頑丈だったとしてもなんのフォローにもなってないな。

 

「なるほど。だから魔力が扱えるようにする予定だったのか」

 はいと頷いたコロコロちゃん。表情がほっとしてるな。

 

 

「でもそれができなかったので、魔力のかわりに一つ、特殊な力を使えるようにしたんです」

「そうだったのか」

 無能力でまるっきり凡人な俺が、いきなり戦えたら 俺が違和感持つと思うから、こうして教えてくれるのはありがたい。

 

 ーーん? 待てよ?

 

 この世界が元々俺がいた世界に比べて、遥かに危険なことは重々承知だったわけだよな、こいつは。

「ひょっとして……転生直前にいろいろ考えてたのは。

 

 身体能力の強化のことじゃなかった……のか?」

 

 

「あれ? 気付いてなかったんですか?」

 きょとんとそう言う。

「わたしはてっきり、どんな特殊能力をプレゼントしようとしてるのかを理解してるんだと思ってました」

 

「いやいや、流石にそれはむりだって。死に難くなるって言われたら、身体能力を強化することだと思うだろ……たぶんたいがいは」

 そうなんですか、と左手を顎にあてがって考えるポーズである。

 

「っと、いけません。本題に行きましょう」

 顎から手を離して、軽くぷるぷると首を振った。いちいち行動がマスコット的でかわいいんだよなぁこの女神様は。

 

「ニヤニヤしないでください」

 むっとした顔で言われた。はいはいと答えるが、なかなかにハードモードなミッションをふっかけて来なさるぜ。

 

 

「んで、なにについてのダイスロールなのかはわかったけど。その特殊能力ってのは、いったいどんなものなんだ?」

 知っておきたい。「小説家になってやろうじゃねえかコノヤロウ」の神様の失態で死にました系の転生物だと、

 パッと見どう使えばいいのかわからない能力で、使い方に気付いたら実はとんでもなかった、ってのが一つのパターンだ。

 

 もう一つは単純なすんげースペックの特殊能力。

 どっちなのかはこの際置いておくにしても、いったい俺がどんな力を与えられてるのかは気になるところだ。

 

 

「えぇ、いわなきゃだめですかぁ?」

 こいつ……いきなり腹立たしい言い方しやがって……。

 

「いきなりうっとおしい喋り方すんな。駄目だ、教えてくんないと気持ち悪い」

「んむぅ。わかりましたよぅ」

 なんでそんな喋り方なんだよこいつは……。

 

「言っちゃったら面白くないのでヒントあげます」

「クイズやってんじゃねえんだぞ」

 右の拳を引いて見せる。

 ーーつい最近、似たようなやりとりを、このダ女神とした覚えがあるぞ、はっきりと。

 

「わ……わたし。こうしてざっくばらんに気軽にふざけられるの、竜馬さんだけなんです。だから、ちょっと遊ぶぐらいゆるしてくれませんか?」

 僅かに身を引きながらも、ダイスの女神は真剣なまなざしを向けて来る。

 

 その瞳に、少し哀しみをにじませた、そんな顔をして。

 

「……そう。だな」

 転生前のやりとりが、彼女の目ではっきり蘇ってきた。だから、言葉の真実味を強く感じざるをえなくって、俺は拳を納める。

 

 元々突き出すつもりじゃなかったんだけどな。

 

「わかった。ヒントだけでもいいから教えてくれ」

 折れる以外に選択肢はない。

 わかりましたと頷く正面の少女は、嬉しそうな表情になった。

 

「ヒントは『変身』です」

「変身……」

 ピクリと俺の目が、意志とは無関係に見開いた。

 

「なにに変身するんだっ俺は!」

 

 ドンッ。

 

「ひゃっ?」

 両手をテーブルに、つい今しがたのコロコロちゃんのように叩きつけてしまって、

 

 コロコロちゃんもだが 俺自身もびっくりしてる。

 

 

「なにに変身できるんだっ?」

 

 

「お、おおおおちついてくださいっ」

 手首を思いっきり掴まれた。

「いててて。案外力 強いんだな、コロコロちゃんって」

 

「む。コロン・コロンだって言ったじゃないですかっ」

「ギャアア! 力をこめるなっ! なんか手首ギシギシ言ってる気がするからっ!」

 

「まったくもう」

 パッと手を離したコロコロちゃん ーー これだけは譲らない ーー 。ふぅと俺は左手で右の手首をさすりながら息を吐いた。

 

 

「で。改めて聞こう。いったい俺は、なにに返信することができるのだ?」

 おちついて言うはずが、変なキャラになっちまったよ……。

 

「これもヒントじゃ、駄目ですか?」

 拳を警戒してるのか、身を縮めて遠慮がちに尋ねて来た。

 

「……ヒントでいいです」

 そんな捨てられた犬猫みたいな態度とられちゃ、許可するしかない。

 

 

「竜馬さん。あなたの名前がヒントです」

 一つ頷いた後で、そう答えが返って来た。リラックスした様子である。

 

「名前? 下のか?」

「そうです。山とか本とかになんて」

「変身したくないな」

 言葉の先を言ったら、「ですよね」と女神は首肯した。

 

「竜馬がヒント。苗字に対してその物言い。と、言うことは……」

 竜か馬、と言うことになるな。もしかしたら竜と馬を掛け合わせた生き物かもしれない。

 

「俺の読みと、お前のセンスを信じることにする」

 一抹の不安が残るものの、ヒントしかくれないいじわるをするなら、これが最良の答えだろう。

 

 

 ーーすごく自信満々にゆっくり頷いてるのが、すんごくいやなんだけどさ。

 

 

「では、変身能力への目星がついたことですし」

 そう言うと徐にダイスの女神は、テーブルを右手のその細い指で指し示した。

「ふれ。ってことだな」

 言って俺は、テーブルの右端と左端にあるサイコロを、それぞれ一度片手ずつに収めてから右手に纏めた。

 

 よくあれだけ派手な動きして、テーブルから落ちなかったもんだ。

 

 ジャラジャラと、握り込んだ右手の中でサイコロを転がす。

 ーーこの、振るまでの時間。ものすんごく緊張するんだよなぁ。

 

 ガッ。息を思いっきり吸うのに合わせて、手の中のサイコロを止める。

 

 

「……いくぞ」

 生唾を飲む音が二つ。って、お前もかよ?

 

 このダイスロールで、俺の戦闘能力の基礎値が決まる。特殊能力を使いこなすことを前提として、ではあるけど。

 

 心の中でカウントを取る。

 

 一つ。

 鼓動がうるさい。

 

 二つ。

 激しく早い。

 

 三つっ!

 鼓動のビートをバネにするっ!

 

 

「オラーッ!」

 殴り付けるかの如く、俺はこの前よりも強くテーブルへとサイコロをほうった。

 

 ガッッ! と甲高く激しい音が響いた。

 サイコロは予想を超えたバウンドを見せ、俺達の頭の高さを超えるほどのところまで、垂直に跳ねた。

 

 あまりの勢いに、俺はのけぞってしまった。なんと、ダイスの女神も同じだった。

 

 鏡かこいつは……。

 

 

 カッッ、カッ カッ、コロコロコロッ。

 

 

 心の中で突っ込みを入れてる間に、テーブルに落ちたサイコロが数度のバウンドを経て、ようやく動きを止めた。

 

「さて。出目はどうなったかな、っと」

 視線を向けたちょうどそれと同時のタイミングだった。

 

 

「あ……え? お、おお。わぁぁ!」

 なにやら、ひどく混乱しているようだ。でも、表情も声色も喜んでいる。

 

「どういう……ことだ?」

 改めてサイコロを見た。

 

 

「……おい、これ。俺には……『6』が、二つ出てるように……見えるんだけど……」

 パチパチとまばたきして、改めて 今度はしっかりと。いや、しっかりとを通り越して凝視する。

 

 うん。見間違いでは、ない。どうやら……見間違いでは、なさそうだ。

 

 

「竜馬さんっ!」

「おわっ!」

 テーブル越しにもかかわらず、コロコロちゃんは。ダイスの女神は、グワシッと 俺に全力でハグをしてきた。

 

 ーー抱き着いて来たのだっっ!

 

「か はっ、は はなせっ。せめて 力をゆるめろっ!」

 女神の背中を左手でバッシバシ叩く。

 

「……はっ! ごっごめんなさいっ」

 ガバっと離れた。

「あ、ぶねぇ。殺すつもりかっ!」

「ごめんなさいっ、あまりにも嬉しかったからっ」

 涙目でそう謝って来たダイスの女神コロコロちゃん。

 

「つまり。つまりだ。この出目は、見間違いでも気のせいでも幻覚でも不正でもない、と。そういうことだなっ」

 言ってる間に嬉しさが溢れてきて、俺は拳を握っていた。

 

「はいっ!」

 満面の笑みで。

女神の恩恵クリティカル

 サイコロ帽子かぶった女の子は。

「おめでとうございますっ 竜馬さんっ!」

 ダイスの女神は、俺に祝福をくれた。

 

 

 人生始まって以来、サイコロを二つ同時に転がしたことはこれで二回目。その二度目にして、俺はっ。

 

 そう。俺は6のゾロ目を叩き出したのだっ!

 

 

「よっしゃー!」

 右拳を突き上げて、俺はおたけびを上げていた。

 

 

 なんだこれっ!

 

 無駄に無暗に

 

 そして……!


 

 

 無償に嬉しいっ!

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関連作品。

ゆるさんの押し事 ~ 最強竜凰さんののんびり火山生活 ~
同じ世界の作品、2D6の後半にクロスオーバーする。


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