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ロール4。炎魔法と再びダイス。 2転がり目。

 ザッ ザッ ザッ。俺の、俺達の視線の先から足音がする。

 もし、これが本当にゾンビだとすればイメージと違う。

 

 ゾンビって、もっとこう グチャ みたいな音の混じった歩行音のイメージな俺からすると、

 この しっかりとした足音はゾンビには思えない。

 

「これ。ほんとにゾンビの足音なのか?」

「そうね。たしかに、ゾンビのイメージの足音じゃないわね、このしっかりした足音」

 ああ、この世界の住民も、ゾンビ イコール グチャ、なんだな。

 

「ですが。この呻き声と遅すぎる足の速度。ゾンビと見て間違いないですわ」

 強い確信を持った声で、そう 仮面の巫女様はおっしゃられている。

 

「なにはともあれ、よね。リビック。お願い」

 有無を言わせず、そんな口調でこっちを ーーいや、リビックを向いて言うベルク。

「わかった。早くしないとね」

 了承したリビックに頷いたベルクは、俺とレイナを見る。

 

「なんだ?」

「リビックに一度、一番前に出てもらわないといけないから、道を開けるの」

「ああ、隊列の入れ替えか。わかった」

 言って俺は右に数歩動く。

 

 俺の動きにか頷いたレイナも、また 俺と同じように左に数歩動いた。

 それに続けてベルクがレイナの前に移動、リビックに道を開ける。

 

 ガシャリガシャリ。俺達の移動を確認したようなタイミングでリビックが前に出てきた。

 

「攻撃魔法って奴。見せてもらうとしよう」

 そう言ってから頷いた俺。うんって声と同時に、一つ頷いたリビックは 徐にリュック的に背負った背中の袋を降ろした。

 

 

「なんだ、その瓶?」

 取り出されたのは、なにか 飲み物が入ってるらしい瓶。水音がしたからわかったことなんだけどな。

「まあ、見てなさいって」

 リビックを隔てて声が飛んで来る。話すつもりなら俺の横来りゃよかったろう。

 

 ベルクの声に答えるように、リビックは瓶をキュッキュと開ける。

 

 

「ん。これ……酒か?」

 むわっと香って来た独特の臭いに、俺は軽く顔をしかめた。

「リビックね。それ飲まないと、魔法 使えないのよ」

 呆れた溜息をついている。

 

「って、おい。なんか、グッピグピ飲んでるけど……大丈夫なのか?」

 声が静かになってしまった。

「ブハーッ!」

 豪快に半分ほどを飲み干したのが、今のリビックの息だ。

 

 キュッキュと蓋を閉めると、リビックは自分の左隣に瓶を置いた。

 

「おいおい。なんか、みるみる見える肌が真っ赤になってってるぞ?!」

 目が真ん丸になってしまったのは、いたしかたないと思うんだ。

 

 

「きた。きたきたーっ!」

 

 

「……はい?」

 突然叫び出したリビックに、俺 思わずのけぞった。

「な……なあベルク」

 俺もリビック越しに話しかけることになった。ならざるをえなかった。

 

「なに?」

「この酒。もしかして、むちゃくちゃ強いんじゃないのか?」

 

 なんかリビックの奴、

「ぼくの中に、火のエレメントが充実していく!」

 とか含み笑いフェイスで言いながら、なにやら足を円形に動かしている。

 

 ヘンテコなダンスとか始める気かこいつ?

「ええ。フレアノ・バッカスキーって言う、すっごく強いお酒よ。普通、一気に飲むようなものじゃないの」

「それ……リビックの体、大丈夫なのか?」

 

「大丈夫、なんだと思うわ。けっこうやってるけど、これまでリビック まったく体調おかしくなってないし」

 目が地面向いてる。流石に幼馴染が、アホみたいに強い酒をグビグビ飲んでるの何度も見ちゃ、心配になるか。

 

「ぼくは……やれるぞ!」

「なんか……テンションがもりもり上がってんだけど。リビック。いったいなにしてんだ?」

 きょとんとするしかあるまいよ。

 

 

「お酒飲むところから、既にリビックの中では呪文詠唱なのよ。これも含めてね」

 これ、と言いながら奇妙な動きをしている足を指差している。

 

「……冗談じゃ、ない……んだよな?」

 困ったことにね。そういうベルクは深く息を吐いた。

 

「こいつの度胸の無さにも困ったものよ。魔法使う時ぐらいしか、こんなに思いきらないんだから」

 一転して腹立たしいって声色になった。

 

 ほんとに、慎重な奴なんだな。そう普通に言ったつもりが、ぼやくようなボリュームになってしまった。

 

「……あれ? なんか、地面から光が」

 目をやるとリビックの周りに、円形に赤い光が生まれていた。

 と思ったら、周りどころかリビックの足の下の辺りも光っている。

 

「火のエレメント……マジなのかよ」

 呆れるやら驚くやら、目が点になるやら。

 

「っと、いけない。言い忘れると大変なのよね」

「どうした急に?」

「いいリビック。絶っっ対、範囲お絞るのよ。山火事起きたら大問題なんだから」

 なんか……母親みたいな物言いだな。

 

「……わかってる」

 一瞬で真顔になったな。いったいなにを想像したんだリビックは?

 リビック、深い深呼吸を一回、二回、三回。

 

 

「なっ、おいっ! ゾンビ見えたぞ!」

 ウウウウウ、そううなりのような呻きのような声が一つ、ボリュームが突出して聞こえるようになった。

 ザッ。ザッ。進む距離が人の歩幅からすると、半歩程度しか進んでないかのように遅い。おまけに一歩に体感一秒かかってる。

 

 そんなスローすぎる歩行速度のおかげで、俺達のところに到達するのはまだまだかかりそうだ。

 

 見たところ、一匹だけこっちに向かって来る奴は、さびた色の鎧とうまい具合に顔が見えない兜を身に着けている。

 

 騎士だったのか、あるいはそういう装備の冒険者だったのか。

 いずれにせよ、雰囲気だけは歴戦の勇士って感じのするゾンビだ。

 

「……よし。ぼくの体から火のエレメントが消えないうちに」

 すっかり素面しらふに戻ったらしい。

 それ、ただ酒が回って熱いだけじゃないのか? って言いたいのをグッと堪えて、リビックの魔法を見守ることにした。

 

「……いくぞっ」

 呟くように、自分に言い聞かせるように言ったリビックは、また深い呼吸を一つ。よし、と 更に勢いを自分につけた。

 

 酒の力。いや、酔っぱらった勢いがないと、魔法すら使うのにこれだけの溜めが必要なのか。

 

 魔法剣士として、やっぱり問題しかないな こいつ。

 

 

「ジョマラルフィナフィ、モグジョノウラダナ」

 やっぱり。なんだかわからない。

 

「デラマ、ジャファルイウカドゥイ」

「なんだ。リビックの足元、光が強くなったぞ?」

 

「ヒユウラキラ、オホコムトロラ」

 光が。リビックに吸い寄せられて行く。

 

「ノビシャ、リビック=サプライザ」

 リビックの体が、一瞬真っ赤に染まった。

 

豪火バーステッド

 足を肩幅より少し開き、同時に両手を正面に付き出す。言葉を発したのは腕を突き出したのと同時だ。

 

 言葉が世界に響くのに合わせるように、赤い光がリビックの両手に収束。

 

 その赤いエネルギーと言っていい光の固まりは、彼の両手を繋ぐように延びた。

 

 手の向きを、掌同志を向かい合わせるのから正面へ掌を向けるように変えた。

 

 ーー出るか。両手に集まった火の固まりっ!

 

 

滅現ディブラーマっ!!」

 

 

 咆哮を受けた火のエレメントは、リビック(じゅつしゃ)の手から解き放たれた。ほとばしったそれは、まるで紅のビーム。

 

 突き進んだそれは、向かってきていた鎧ゾンビの体を貫いてもなお止まらず。そのまま、俺にはどこまで伸びたのかわからない。

 

 ーーそして。

 

 ズバアアアアアン!!!

 

 と言う、爆発のような滝が流れる音のような。とにかく激しい、きっと耳をつんざくって言うのはこういうのを言うんだろうなってほどにでかい音と共に。

 

 俺の視界が、輝くオレンジに塗りつぶされた。

 

 

「ぐ……もう、大丈夫か」

 オレンジの方から押し寄せた熱が静まって行く。

「安らかに。闇へ体を。光へ魂を。再び生まれ落ちるその誕生ときまで」

 そんな祈りのようなレイナの声がして、俺は瞑っていた目をゆっくりと開いた。

 

 アンデッドに強い聖魔法の使い手だ。もしかしたら本当に祈ってたのかもしれないけどな。

 

 

「おいっリビック! 大丈夫かっ!」

 まず目に入るはずのリビックの姿がなかった。だから、俺は視線を動かしてみたんだ。

 

 そしたら、リビックの奴がうつぶせに倒れてたんだ。だから思わず、しゃがみこんでリビックの体をゆすった

 

「ぐ……うぅ」

「大丈夫なのかっ?」

 もう一回聞く。

 

「あ、ああ、うん。火のエレメントが体から抜けちゃってね。いっつも魔法を使うと暫く動けなくなるんだ」

 ……それって。急性アル中じゃ、ないだろうなぁ?

 

「って……おい、それ。これから戦うって状況でなっちゃ駄目な状態だろ!」

「だから、リビックの魔法は先制攻撃なのよ」

 

「こ……こういうことだったのか」

 あまりにも予想外すぎる理由で、俺は声がじっとりしてしまった。

 

 

「って言うかベルクっ!」

「な、なによ大声出して?」

「なんにもなってなくないじゃないか。魔法使うたんびにぶっ倒れるって、異常だぞ!」

 

「言ったでしょ。普通こういう飲み方するお酒じゃないって。こうなるのは当然なのよ。むしろ、命に別状がない方がおかしいの」

 はぁ、と安堵したような疲れたような、そんな溜息を吐くベルク。表情もそれと同じだった。

 

「普段でしたら、こうなったリビックさんには、わたくしが今皆さんに施しているのとは別の防御結界を張って、敵になるべく見つからなさそうな場所に隠して戦闘に望んでいますの」

 

「それって完全に……」

 お荷物じゃねえか、って言葉はどうにか飲み込んだ。

「ええ。お荷物よ」

 言っちまったよ幼馴染……。

 

「でも」

「ええ」

「……あの。頷き合った上に、視線がわたしに向いているのはなにゆえなのでしょうか?」

 

「リョウマ」

「な……なんだよ?」

 いやな予感しかしない……。

 

「リビックさんのこと」

「頼んだわよ」「お願いしますわ」

「むちゃぶりにもほどがあるだろ!」

 

 俺の叫びを無視して、二人は元の道へ戻り、肩で風を切ってザクザクと、先へ歩き始めてしまった。

 

 

 

「……鬼だ。鬼がいる」

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関連作品。

ゆるさんの押し事 ~ 最強竜凰さんののんびり火山生活 ~
同じ世界の作品、2D6の後半にクロスオーバーする。


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