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シヌトワカリ

作者: KK

自分が死ぬと分かったら。

自分が死ぬと決定したら、あなたはどうするだろうか。

もちろん、人はいつか死ぬ。

自分が死ぬことなど生まれた時から、とうに決まっているのだが、その時がもし明日なら、あなたはどうするだろうか。

たった1日で出来ること、24時間、1440分、86400秒の間にあなたは、あなた自身の価値をどれほど見出す事が出来るだろうか。


遺書を書く。

普通はそうする。

家族。友達。仕事先。好きな人。愛する人。

思いつく限りの人に遺書を残す。

今までの感謝や自分が死んだ後にして欲しいことを伝えようとするだろう。

でも、現実はそうはいかない。


第三者に相談する。

普通はそうする。

警察や病院に自分が置かれた状況を説明して、助けを求める。家族や恋人、友人に助けてくれと頼むだろう。

でも、現実はそうはいかない。


明日死ぬと分かっても簡単に受け入れられる人は、まずいない。俺もそうだった。

とりあえず俺は、未来の俺と同じような宣告に見舞われた人達に事の推移を伝えるため、このメモを残す。


俺の名前は齋藤優一。高校一年。

死の宣告はある日突然やってくる。

その日、いつものように朝を迎え、学校の準備をして外出、通学の電車に乗り込んだ。

通勤ラッシュの人混みは冬場でも胸苦しさを感じる。

鉄箱の中で揺られていると、突然と声が聞こえてきた。


「あなたは、明日のこの時間に死にます」


振り向く。

誰かが喋っている様子は見えない。

というか人の声、口から発せられた声とは思えない感覚があった。幻聴でも機械から聞こえてくる音でも無い。

眼球の裏側から声が聞こえてくるような、脳みそに直接音が流れてくる妙な感覚。

自分が疲れているという感覚もなかった。

色々考えるが、それ以降、声が聞こえてくることも無く、学校の最寄り駅に着いた時には全ての事を忘れていた。


「おはよう、優」

「また、待ってたのか。先に行けや良いのに」


幼馴染で同じ中学に通っていた寺島美幸。

知り合った時から仲が良く、進学先が同じになってからは勉強の相談で連絡を取り合う事が多くなり、

同じ高校に通うことになってからは、美幸は何も言わずに学校の最寄り駅に待っているようになった。

分かってる。今では友達以上の感情が俺の中に確かにある。いつの日か美幸に告白する日が来る。それがわかっていながら、微妙な距離感にドキドキする毎日だ。


「うっ」

「大丈夫?」

「ああ、大丈夫。いつもの事」


俺は昔から心臓から波打つような痛みを感じることがあった。ほんの5秒程度。時間が経てばすぐ治るし、こんなもんだろうと気にも留めなかった。


「本当に一回病院に行った方がいいんじゃない?」

「うーん。」


次の日

いつもと変わらぬ日常。

通勤ラッシュ時の電車は相変わらず憂鬱だ。

でもその時、たまたま前に座っていた人が席を立った。

(おおおおお、ラッキー!!)

だが、その席は奇妙だった。

光っている。

一人分空いた電車の座席が眩しいくらいに光ってる。


「何だこの席?」


何か特別な事があるのか、こうも派手に目立った椅子

を見ると座りにくかった。

たまらず周りの見知らぬ人に聞く。


「あの、すみません。この席って何かあるんですか?」


「は?何が?」


「いや、これなんで光ってんのかなって…」


その人は眉間にしわを寄せながら首を傾げ、それ以降こっちを見なくなった。

左隣に立つ人にも聞いてみた。


「あの、この席ってなんで光ってるんでしょうか。」


「…光っているように見えるんですか?」


「え…?」


「僕らから見ると席は光っていません。もしかしたら目の病気かも知れませんよ?」


咄嗟に自分の目を触った。もちろん痛みはない。

周りの人には光っているようには、見えてない。

自分が悪いのかと、恐る恐る、俺は光る座席に座った。


学校の最寄り駅。

美幸はいつもの場所で俺を待っていた。


「おはよう、優」

「ああ、おはよう」


目の病気…。と言ってもあの座席以外に光ってる物なんて見えやしない。

(なんだったんだ?あの席…)


その日から毎日、通学中の電車の中に一人分の座席が光っている光景を見ている。周りの人は無反応。

(やっぱり周りの人には光ってる様には見えてないのか?)

そしていつも、その光る座席に座っていた人は、なんともベストなタイミングで必ず座席を立つ。

そして毎度毎度、俺がその光る席に座るんだ。


予知能力にでも目覚めたかと、忘れかけていた中二病感性が思い出される。

「俺さ、なんか右手だけ妙に重いんだよな。」

「かと思えば集中すると自分の腕じゃ無いみたいに軽くなって、意識する以上の動きをするんだよ。何でだろうなぁ〜」

(…はあ〜。恥ずかしい…。何が言いたかったんだ、あの頃の俺は…。)

目を閉じながら中学時代を思い出していた。

(大丈夫…。皆んな誰しもそんな時がある。だから気にするな…)(今の俺は見事なまでに完璧な高校デビューを果たしている。問題はない。)




「ねぇ。君、なんで死んでないの?」




目を開けると異様な少女が立っていた。

黒く長い髪。大きな赤い目。

白く透き通った肌に赤いワンピース。

人間とは思えない異質さ。

そして、何処かで聞いたことのある声。




「ねぇ。どうして君は死なないの?」




(そうだ。いつの日か聞いた幻聴の…)

周りの人が驚いた様子でこちらを見ている。

どうやらこの少女は周りの人にも見えているらしい。

しかし、この少女、とんでもないことを言っている。



「ねぇ。何で死なないの?」



どうして死なないのって…。

まるで生きてちゃいけないみたいな言い方。

(うーん。これはまともに付き合ったらヤバイのか?)

しかし、幼気な少女を無視するわけにもいかない。


「生きているから、死なないんだよ?」


「違うよ。死なないから生きているの。」

「どうして、君は死なないの?」


「…えっと…。家族とか友達とかがいて、みんなと一緒にいたいから、死なないように気をつけてるんだよ。」


「他人の命と君の命は関係ないよ。」

「君の命は君だけの物なんだから。」


「…」

(この子の中二病レベルはとうに俺を凌駕している。)(とにかく親御さんを探そう。)


「お父さんかお母さんは一緒なのかな?」

少女は無言でこちら見つめる。


「…もしも迷子なら、とりあえず次の駅で降りようか…。」

「駅員さんに任せれば、きっとお父さん、お母さんに会えるよ。」


少女の手を取り、次のホームで俺たちは降りた。

携帯で美幸にメールで事情を伝え、学校に遅刻する言伝を頼んだ。せっかくここまで無遅刻無欠席だったのに…。こんな事になるなんて。

携帯が鳴る。美幸からだ。


「もしもし、優!?」

「今どこにいるの!?」

電話に出るや美幸は今までに無い大きな声で話しかけてきた。


「ごめんごめん。なんか迷子の子供と遭遇してさ。

これから駅員さんに預けてくるから、ちょっと遅れるって先生に言っといてくんない?」


「どこの駅!?私もそっちにいく!」


「は?今は一つ前の駅だけど。いいよ来なくて、すぐ行くから。」


「一つ前ね!?分かった!」


「お、おい、人の話聞いてんのか!?」

「…」


電話はもう切れていた。


「たく何なんだよアイツ…。」


振り向くと直ぐそばに少女が立っていた。


「君、名前はなんて言うのかな?」


「名前なんて無い、いらない。」


(この子の中二病…これは重症だな)


呆れかけたていたその時、少女は言う。



「光る場所、見つけたの?」




言葉を失った。

俺には少女の言う言葉の意味がわかる。

光る場所…。俺にしか分からない、あの光る座席を事をこの子は知っている。


「電車の光ってる席のことか?」


「…君が座ってた席、あれが光る場所だったの?」


「よくは分からんが、一箇所だけ光る座席があって…いつもその席が空くからよく座るんだ。俺にしか見えて無いと思ってたけど。君にも見えてたのか」


「私には見えない」

「君と私は違う命。だから関係ない。だから私には君の光の場所はわからない。」


「…何を言っているかサッパリなんだが…。結局あの光る座席は何だったんだ。」


「その光の場所は、君の命が明日への扉を通過するための、唯一の穴。」

「その光の側にいると、明日に行ける」


「…」

中二病感は凄いが、この子が光る座席を知っていたのは事実だったから俺は話を合わせることにした。


「じゃあ光の側にいなかったら?」


「明日に行けない」


「行けないって…。」


「死ぬんだよ。」


「…」



目の前の少女の異様さ。

幻聴。光る椅子。

嘘に思えない恐怖心が体を強張らせた。

少女は続ける。


「私はね、光を集めているの。」

「他人の光がとても好きなの。」

「とっても美味しいの…。」


彼女は微笑み、目は爬虫類のようにギラリとこちらを見つめている。人間じゃ無い。それだけはわかる。


「だから君の光は私が貰っちゃうね。」


「は?」


「大丈夫、光はきえないから。私が貰っても世界中の何処かにまた現れる。」


「何処かってどこだよ。」


「さぁ。他人の光は誰にも見えないから。」


「光のそばにいなきゃ、死んじまうんだろ!?」


「うん。」


「うんって…。」


「どこか、わからなきゃ俺が死んじまうんだろ!?」


俺の焦りを吹き飛ばすように反対側の線路に電車がやって来た。

〔二番線より電車が参ります。危険ですので白線の内側でお待ち下さい。〕

アナウンスの後、電車がホームに止まる。


「きぁあああああああ」


電車の扉が開くと悲鳴が聞こえてきた。

それとは別に男の怒号が辺りに響く。

悲鳴のもとに駆け寄ると、人混みの中に血まみれで倒れている女学生がいた。

どうやら職員に捕らえられている男が女学生をナイフで刺したらしい。

周りの乗客が女学生の傷口を手で押さえ、血の流れを止めようと処置していた。



「…美幸…?」



見覚えのある制服。

血まみれで倒れていたのは幼馴染の美幸だった。


「美幸!美幸!!」


駆け寄る足元は素人でも致死量だと分かるほどの血溜まりが出来ていた。

(どうして、どうしてこんな事に…。死ぬのは俺のはずだろ?)

どんなに知恵を絞ろうが、彼女の血は戻らない。

どれほどの体力を使おうが、彼女の命は救われない。

何もできることがない。無力。

俺はただ、死んでいく彼女を黙って見ているしかなかった。


「…でも、光をくれたら…。」

「何でも願いを一つ叶えてあげるよ。」


騒然とするホームでその声だけがハッキリと聞こえた。少女の声だった。


「なんでも?」


「うん。君からはもう貰ったから一つだけ願いを叶えてあげるよ。」


「…じゃあ…美幸を…。」

「美幸を救ってくれ!!!」


「美幸ってそこに倒れてる人?」


俺は頷いた。


「わかった。」


「…」


「…何にも起こんねぇじゃねぇかよ!?どうなってるんだ!?」


「何も起きないよ。ただ彼女はココでは死なない。」

「それだけは決定してる。」


「…」


血まみれの美幸を見るとにわかには信じられなかったが、信じようが信じまいが俺には最初から出来ることなど何も無い事を思い出し、ただ時間が過ぎ行く中で美幸が死なないことだけを祈り続けていた。


救急車が来て、知人の俺は病院まで同行した。

美幸は奇跡的に一命を取り留めた。

程なくして、美幸の母親がやって来て、俺は俺の知る限りの事情を説明した。

母親から聞いたのは、以前からストーカーのような被害があったということだった。

その後、父親も合流し手術後6時間が経った頃、美幸は目を覚ました。

医者に言わせると、これほど早く意識を取り戻すことは通常あり得ないと言う。本当に奇跡のような回復力だと。

あの少女の力は本当だったんだろうか。

そう考えていると、廊下で座っていた俺に美幸の両親が話し掛けてきた。


「美幸が二人きりで話したいみたい。」

「話して、勇気づけてあげてくれないかな。」


俺は立ち上がり、美幸の病室に向かった。

美幸は顔色が悪くも意識はハッキリしている様子だった。


「優」


弱々しい動きで美幸は俺に手を伸ばす。

握った美幸の手は氷のようにとても冷たかった。


「変なこと言うようだけど、聞いてくれる?」


「…なんだよ…」


「私ね。声が聞こえたの。」

『「あなたは、明日のこの時間に死にます」って…』


「…」


「それで、その日から優の姿が光って見えたの。」


(俺と…同じだ…。)


全くの同じ境遇話に俺はただ黙って耳を傾けていた。


「変な女の子が現れて…」

「光の近くにいないと明日に行けない…」


俺は全てを悟った。

美幸にとっては、俺が光る座席だったということ。

俺が遅刻しようとした時、必死に俺のところへ来ようとしたこと。

しかしそれは間に合わず、美幸はあの場で死ぬはずだったということ。

そして…。


次は自分の番だということ。


「馬鹿みたいな、話だよね。ごめんね…。」


「いや、信じるよ。」

「でもお前、今生きてんじゃん。だからきっとその予言はもう過ぎ去ったんじゃ無いか?」


「ふふ、そうだね…。」


きっと美幸はもう死なない。

そういう運命は、俺が彼女に頼んだ願いで消え去ったのだろう。

俺は美幸の両親に挨拶して病室を後にした。


病院一階のロビーの待合席に少女が座っていた。

色々ありすぎて疲れていた俺は、深く考えず彼女の隣に座った。


「何してるんだ?」


「君の光は美味しく頂きました。」

「それを伝える為に来たの。」


「…本当にお前は何者だなんだ?」

「神様かなんかなのか?」


「私にもよくわからない。ただ死ぬ日が決まった人にそれを伝えるのが私の役目なの。」


「死神みたいな感じなのか…」


「でもたまに、死ぬ日が過ぎても死なない人がいる。」


「それが光の場所…。」


俺は気になっていた事を単刀直入に聞いた。


「俺は明日死ぬのか?」


彼女は躊躇せず答える。


「光の場所を見つけられなきゃ死ぬ。」

「君に明日に通じる道は用意されてない。だから抜け穴を探さないと」


「あの電車の座席はもう光ってないのか?」


「あの場所は私が食べたから、もう光ってないと思う。」


「ヒントとか無いのかよ。こんな広い世界でヒント無しで見つけ出すなんて無理だろ。」


「そうだよ。」


彼女はキョトンとした顔で語る。


「見つけられないよ。普通は。」

「そうやって人は死んでいくの。」

「見つけられた君は運が良かったの。」


「…」


警察も医者も、誰に相談したって、自分が明日死ぬと言ったって、信用されるはずもない。

信じてもらって、協力して貰っても、光の場所を見つけ出さなければ、運命の力には到底かなわない。

電車の中で俺があの座席を見つけることができたのは、本当に奇跡だったのだと痛感する。


遺書を書くか、書かないか。

悩んでいるいまこの時にも俺の死は確実に近づいている。思考は弱まり、今はもうこのまま寝てしまいたいと思うばかりだ。

寝てしまえば、きっと生きていられる時間は減ってしまうだろう。でも寝て起きれば良い作戦も思いつくかもしれない。このまま起きていても、体力が無ければ、行動するのもままならない。

起きたら、また続きを書こうと思う。




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