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第1章『月の国』⑦

 王宮に着くころには、エミリアさんも一人で歩けるようにはなっていたが、まだ顔色は悪いままだった。

 あれから一言の会話も無く、わたしたちは王宮の門をくぐる。

 

「失礼します!」

 そのとき、わたしたちを追い抜いて、一人の兵士が走っていった。

 かなり慌てた様子で、足がもつれて転びそうになりながらも、ただひたすらに走っていく。

「グレン兄さんの兵士だな……」

 ランスが呟く。

 グレン王子――軍事と政治に長けていると噂の、『月の国』の第一王子だ。すれ違うときに数回見かけた程度だが、厳格そうな顔つきだった。

「何かあったのかな?」

「だろうね。『剣の国』と戦争になりそうって話だったから、それの関係かも」


 戦争――


 その言葉の持つイメージから、ついいつもの夢を思い出してしまう。

 しかし途端、頭の中が真っ白になって現実に引き戻される。

 頬に痛み。エミリアさんがわたしの頬を叩いてくれたのだと分かった。

「ごめんね。大丈夫?」

 エミリアさんがわたしに問う。

 わたしが頷くと、エミリアさんはわたしの頭を撫でてくれた。


「ところで、ランス様」リアちゃんが聞く。「『剣の国』と戦争になりそうって、どういうことです?」


「そうだね。順を追って話をすると、もともと『剣の国』は好戦的な国なんだ。二十年ぐらい前かな、『鉄の国』という国がふたつに分裂したんだ。今までどおり工業で国を営んでいこうと主張する『鋼の国』と、優れた武器を使って他国に侵攻して国益をあげようとする『剣の国』とにね」

「それで『剣の国』が、『月の国』に侵攻してくるんですか?」

「正式な宣戦布告をされたわけじゃないよ。ただ、水面下で(いくさ)の準備をしていることと、標的はどうやら『月の国』らしいってところまでは、情報はキャッチしていたんだ」

「なるほど……」


 さっきの兵士が本当にそれ関係の報告を持ってきたのなら、何か大きな動きがあったということなのだろう。

「グレン兄さんと話してくる」

 そう言ってランスは、急ぎ足で行ってしまった。


「そういえば『剣の国』って、さっきお父さんの薬草を買うって言ってた子の国だよね?」

「そうね。でもまぁ戦争なんて、この国以外では珍しくも無いのよ。薬が足りない国もあれば、食料の足りない国もある。国が存続するかって規模での死活問題の場合、交渉で手に入れることができなければ奪うしかないわよね。人を殺めるのが良くないことだって誰もが知ってるけど」

 そしてエミリアさんはこう続けた。


「王様は自分の国民を守るためならその数倍の人間を殺すこともある……そういうものじゃないのかな」


 一理あると思った。

 だけどそれと同時に、ちょっと寂しい考え方だとも感じた。

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