第12章「ユメの続き」
あの日のことは、今でも鮮明に覚えています。
わたしが目を覚ましたのは、すべてが終わった後でした。
腕は力なく垂れ、赤い血で全身を汚し、胸に剣の刺さったナナミさんの体。
ランス様……ランスはナナミさんの体を抱きしめて、ただひたすらに泣いていました。
ランスが描いた魔法式の上を、五万の騎馬が駆け抜けていきました。
立ち上がろうとして、自分の左手が無くなっていることに気づきます。
わたしにかけられていた呪いも、もうどこにも感じられませんでした。
『光の帝国』の兵士たちは王宮に向かう間、『月の国』の住民に一切の危害を加えなかったと聞きました。
事前に段取りがついていたようで、国王は一枚の書面を確認したのち、『月の国』の統治権をサティ王子へ譲渡したそうです。
市場街とその周囲の村も含めてひとつの街とし、間接的な統治者としてグレン様がその場で任命されました。
後日グレン様に見せてもらった手紙には、ナナミさんがランス宛てに送った手紙とは違って、事細かく計画の詳細が書かれていました。
この日、『月の国』は『光の帝国』の一部となり、名前は地図から消えました。
泣き疲れて眠ったランスをミリア姉が運び、ナナミさんの体をエミリア姉さんが背負って、わたしたちが王宮に帰ってきたのはその日の夕方でした。
ランスが目を覚ましたのは二日後。
それからランスは荒れました。
部屋の物を滅茶苦茶に投げ、自分の腕にナイフを刺し、体中の刺青を掻き毟りました。
窓から飛び降りようとしたり、舌を噛もうとしたこともあり、わたしたちの誰かが必ず交代で寄り添うことにしました。
手の骨が折れるまで石の壁を殴り、止めようとしたエミリア姉さんも殴り飛ばしたこともありました。
そのあとランスは、泣きながらエミリア姉さんに謝っていました。
それから二ヶ月が経ちますが、ランスはまだ不安定なままです。
『このままで本当に大丈夫なんです?』
不安に耐え切れなくて、エミリア姉さんにそう相談したこともありました。
『大丈夫よ、時間が必要なだけ。それにナナミちゃんがランスの心を取り戻してくれたんだから、わたしたちも頑張らないと』
そう答えて、エミリア姉さんは笑いました。
エミリア姉さんも不安なはずなのに、とても強いと思いました。
今ここはランスの部屋。
魘されて目を覚ましたランスの手を、わたしとエミリア姉さんの手が包みます。
ランスがまだ何もしていないのに「ごめん」と謝ります。
指を握り返してくる感触に、少しだけ安心感を覚えました。
時刻は昼過ぎ。
部屋にノックの音が響きます。
「ランス、起きてる?」
声とともに、扉がゆっくりと開かれます。
人数分の昼食を持って部屋に入ってきたのは一人の少女。
その少女は黒い髪の色をしていました。




