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第11章「ナナミのユメ」②

 四日後深夜。進軍二日目。

 時刻はもうすぐ二十四時を回り、日付は四月に変わろうとしている。


 進軍の先頭はわたしだ。

 その後方には百メートルほど離れて五万の兵士が控えている。


 わたしが書状に書いた時刻は『四月一日の夜明け』。

 三月三十一日の正午に届いたそれを見て、ランス王子は夜のうちに進路に魔法式を書いて迎撃しようとする――せざるをえないはずだ。

 一人ひとりは強固でも、『月の国』の戦力は限られているのだから。


 わたしが一人で迎撃に出てきた戦力をすべて倒せば、『月の国』を守る戦力は無くなる。

 領土の制圧は後続の兵士の仕事だ。


 ランスやミリア、エミリアさん、リアちゃん、グレン様やマドカさん、そしてかつてのわたしが守ろうとした国は、半日後には滅んでいることだろう。


「私たちも御供させていただきます」


 考え事をしていたせいで馬の足音に気づいていなかったため、突然かけられた声に驚く。

 振り返るとそこには、ラースとミースがいた。


「つっても二人だけだけですけどね。馬鹿な国長が、兵士長気分のままに援軍に行くとか言い出しやがったから、牢にぶち込んで代理で恩返しに来てやったわけです」


「私もミースも、こう見えて腕は立ちます。兵士百人分ぐらいの働きは期待してください」 


「ありがとうございます」

 わたしはラースとミースに礼を言う。

「ですが、まずはわたし一人で行きます。お二人は『光の帝国』の部隊と共に来てください」


 作戦を説明した後も二人はわたしと共に戦うと言ってくれたが、それも断った。


 あくまで戦うのはわたし一人。

 『光の帝国』の兵士にも、ラースとミースにも、傷ひとつ負わせるつもりは無い。


 サティ王子の平和を願う心に付け込んで兵を出させた以上、それがせめてものけじめだ。


 だけど、それだけじゃない。

 今から対峙するのは、自分の手でケリをつけないといけない相手だと思うのだ。




 月明かりに照らされる広大な砂の上。

 肉眼では気づかないほどの遠くに、四人分の人影を感じる。


 わたしは持ってきた花火に火を点ける。

 後方百メートルの軍隊へ、進軍停止の合図だ。


 後方で動きが止まったのを確認すると、わたしはゆっくりと息を吸う。

 息を吐くたびに、もっと深く自分の体が空気に溶けていく感覚。

 何となく感じていただけの四人分の人影が、輪郭まではっきりと感じ取れる。


 地面を蹴る。

 砂の間の空気を固め、わたしは砂の上を三歩駆けた。

 左の肘を前に出す。


 背中の後ろの空気に意識を手中させ、そして四歩目で前に跳ぶのとあわせて、わたしの体を思い切り前方へと押し飛ばした。


 そこからは一瞬だ。

 二百メートル近く飛んだわたしは、肘を左から二番目の人影の胸元めがけて突き立て、その人影と共に更に五十メートルほど吹き飛ぶ。

 わたしの肘は大きなツララのような剣に阻まれ、着地したのも砂の上だったため互いにダメージはほとんど無い。


 けれどランス王子を、作っていた魔法式から遠ざけることには成功した。


「ナナミ、確認させてくれ」

 ランス王子が言う。

「君は何をしにきたんだ?」


「あんたを殺しにきたのよ、バケモノ!」


「そうか。では僕が消えればそれで満足なんだね?」


「いいえ、バケモノを生み出した『月の国』も滅ぼす。感情の無い、自分の命に愛着なんて無いあなたでも、これは無視できないわよね。だって、そういう存在なんだから」


「そうだね。僕はどんな手を使ってでも、君を止めなくてはいけないようだ」


 ランス王子は腰の鞘から剣を抜く。

 わたしも手鏡を取り出そうと、ポケットに手を入れたときだった。


 背後からナイフのようなものが飛んでくるのを感じて振り返る。

 本数は四本。

 能力で捕まえるのは間に合わなくて、わたしは咄嗟に飛び退く。


 一本が左肩を掠め、しかし続いて投げられた四本は能力で捕まえ、空中で動きを止める。

 それを意に介した様子も無く、こちらに駆けてくるのはエミリアさんだった。


「ランス様、離れてください!」


 エミリアさんが跳ぶ。

 わたしから三メートルほどの位置で地を蹴り、右の拳を振りかぶっている。

 わたしはエミリアさんの体を能力で捕まえる。

 エミリアさんの体は空中で固定され、しかし、


 パチン――――――


 指の鳴る音。


 次の瞬間、エミリアさんは氷でできた四本のナイフを右手に構えていた。


 エミリアさんの腕には以前には無かった刺青があって、それに気付くよりも早く、四本の氷のナイフは投げられていた。


 咄嗟に能力で自分の体を弾き飛ばす。

 調整をする余裕も無くて、わたしの体は地面と水平に飛ぶ。


 けれどそれに追いつく速さで飛んできたのは、背中に翼を生やしたミリアだった。


 振り下ろされる拳。

 咄嗟に胸元で腕を交差させ、直後、わたしは砂の上へと叩きつけられた。

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