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第10章「絆」⑥

 二日後。

 城を制圧して三日目。


 使用人達の髪が次第に茶色く、肌が白く変わってくる。

 個人差もあるが、ほとんどが瞳の色も赤から青に戻りつあった。


 この日、わたしは地下牢に降りた。

 牢の中でガレスは壁に背中を預けて座っていた。

 わたしが牢の前で立ち止まると、ガレスは顔を上げる。


「ガレスさん、ご機嫌はいかがですか?」

「至って普通だ。使用人や町の人間に手出しはしてないんだろうな?」

「まだ何もしていませんよ。あなたが国民や使用人の心配をされるなんて、意外でした」

「心配とは少し違うな。そんなものはとうの昔に捨ててしまった。私はただ危惧しているだけだ」

「そっか。あなたもバケモノなのですね」


 その行いに憎しみは無く、他者の悲しみを理解することも無い。

 喜びを知らず、怒りを知らず、哀しみと楽しみを失った、かつては人間だったヒト。


 こう生きると過去に定めた決意だけで生きてきたバケモノを一人知っていたが、ここに同じような人間がもう一人いようとは。


「どうしてあなたはかつて、国民を能力者にしようと思ったんですか?」

「独立のためだ」

 ガレスが答える。

「そのときの気持ちなんぞ覚えていないから、記憶でしか話すことは出来ないがな。

 この国はもともと、迫害されていた地域だ。国民は自尊心を失い、日々を希望すら探すことなく生きていたように、かつての私には見えた。

 『水面の国』と『箱の国』からの独立ではない。それは私一人の力でも可能たった。だが、彼ら一人ひとりが立ち上がるのにはそれではいけないと考えた。

 だから力を与えた。一人ひとりが国を守るための力を。他者を助けることのできる力を。他者から必要とされる力を。それが人間の道を踏み外しかねない力だと知りながら、それでも彼らが立ち上がるためには必要だったんだ」

「あれがどんな能力か、能力者じゃないあなたに分かるのですか?」

「少なくとも、当時のわたしは理解していた。私もかつては能力者だったからな」


 ふと、ティーズの言っていた言葉を思い出す。


『現状では、ラースかミース、そしてあなたに「奇跡の種」壊してもらう以外に、普通の人間に戻る方法はありません。以前はもう一人いたのですが……』


 そしてガレスがかつて、一人でも独立国を作ことができるほどの能力者であったということを考えると……


「あなたの能力も『空間掌握能力』だったんですね。どうしてそれほどの能力を手放したんですか?」

「言っただろう。守られるのではなく、一人ひとりが立ち上がることが大切なのだと。もっとも、私にはその意味も決意も葛藤も、もう思い出せやしないのだがね」


 それならばガレスが能力を使わなければいいだけだ。

 能力を手放して、国の切り札を捨てる理由にはどこか弱いような気がした。


「あとひとつ聞かせてください。どうして『光の帝国』と戦争を始めたんですか?」

「『光の帝国』との戦争に勝てば、世界中のどこにも、もう我が国を蔑む者がいなくなるからだ。民が一人で立てるようになるなら、私はどんな手段でも躊躇わないさ。私はそういう存在なのだから」


 牢の中にはいつの間に運び込まれたのか、毛布や水、紙と筆、着替えまで置いてある。

 きっと使用人たちが気を利かせて持ってきたのだろう。


 きっとガレスも、もとは悪い人間ではなかったのだろう。

 けれどこの国の民はすでに一人で立ち上がっていて、この国にもう特別な能力は必要ない。


 きっと今のガレスには、それが分からないのだ。

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