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第10章「絆」⑤

 それからわたしは厨房に向かった。

 倉庫には十日はもつ量の食材が保管されていて、種類もさまざまだった。

 罪の無い人たちを監禁している罪悪感もあり、わたしは腕によりをかけて約五十人の食事を作ると、使用人三人を呼んでそれを運ばせる。


 食事を並べる分の机を大広間に準備させ、そこに料理を並べると、少しだけ警備兵や使用人たちの表情が和らいだ。


 やっぱり料理は素敵だ。


 表情には出さないように努めたが、やっぱり手料理を喜んでもらえるのはうれしいことだと思う。




 そして十分後。誰も喋らなくなった。




「何で?」

 首を傾げる。

食中毒の可能性も考えたが、同じものを食べているわたしはピンピンしているし、自分で言うのもあれだが美味しくできたと思う。


 近くの警備兵の肩を揺らすと、まるで内臓でも滅茶苦茶に引っ掻き回されたような苦しげな表情で顔を上げ、そしてわたしの姿を見るなり、壁際まで走って逃げていった。

 使用人の一人が近くの警備兵を起こそうと背中を叩いたのを皮切りに、起きている人は近くで倒れた人の介抱しはじめる。

 そして全員が目を覚ますと、腹痛で立ち上がることが出来ないかのように、また壁際で一斉にうずくまった。


 せっかく作った料理は、ほんの少し食べた程度で放っておかれている。


「……なによ、失礼ね」


 わたしは思わず呟く。

 途端に壁際にいた全員が両手を床に着いて頭を下げた。

「お助け下さい」だの「殺さないで」だの、更に失礼な言葉が聞こえてくる。

 わたしが「もういいわよ、別に」と言うと、安堵のため息が壁際からここまで聞こえてきた。


 やがて、一人の少女がおどおどしながらわたしの元に歩いてくる。

 国長の居場所を案内させた使用人――ミラだった。


「あ、あの……ナナミさん、じゃなくてえっと、ナナミ様? ちょっとお願いがあるのですが……」

「あなた、じゃんけんで負けでもしたの?」

「えぇぇぇぇっっと、そのそのそあのののいえ、えっと、ちがうくはないのですが……」


 どうやら本当にじゃんけんで負けたらしい。

 わたしが言えた立場じゃないが、今日のこの子は本当に運が無いようだ。


「食事はわたし達に作らせてください。お願いします、ナナミ様の分もちゃんと作りますので」

「様はいらないわよ。分かったから、必要な人数を連れて作り直してきなさい」


 何人かの使用人が立ち上がって、ミラと共に部屋を出て行く。

 それにしても、結構ショックだ。

 頑張って作ったのに……


 四十分後ぐらいだろうか。ミラ達が食事を作って戻ってくる。

 まず最初にわたしのところに一食、ミラが持ってくる。それから全員に配っていき、配り終えたあとにまだミラの手元には四食残っているのが見えた。


 ひとつはミラ自身の分、のこりは……


「門番とガレスの分でしょ? いいわよ、持っていきなさい」

「ありがとうございます!」


 使用人二人がそれぞれ一食分、門番の分を持って先に出る。

 それからミラが国長の分を持って地下牢へ走って行き、


「きゃっ!」

 ガシャンパリーンどべしゃっ!


「………………」

「………………」

「………………あー。またやったか」


 どこからかため息が聞こえる。

 どうやら初めてではないらしい。


 しょんぼりして戻ってきたミラは、自分の分の食事を持って再び出て行こうとする。

 あまりにも不憫すぎて、わたしはミラを呼び止めると、自分の分の食事を差し出した。


「これを持っていきなさい。ついでにこっちの状況も伝えてきなさい。どうせあの男には何も出来ないんだから」


 ミラが「いいんですか?」と首を傾げるので、「いいから早く行きなさい!」と怒鳴る。


 何度やっても、悪役を演じるのは疲れる。

 この調子であと四日も持つはずがなくて、わたしは何とかして仮眠をとる方法を考える。


「わたしに危害を加えたり、城から出ることを禁止します。それと、町にわたしの仲間を忍ばせてあります。わたしは仮眠をとりますが、その間になにかあれば、相応の結果が待っていると思ってください」


 そう伝えると、わたしは壁に背を預けてまぶたを閉じた。

 丸二日間かけて砂漠越えをしたせいもあり、わたしの意識は溶けるようにすぅっと闇に落ちていった。

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