第10話「絆」③
国長を捕らえて政権を奪い、『奇跡の種』を作っている研究施設を破壊。
その後、地区ごとに順番に、全ての国民の『奇跡の種』をラースとミースが砕いて回る。
『呪いの自治区』は小さな国なので、五日もあれば全国民を普通の人間に戻すことが出来るそうだ。
けれど、サティ王子もわたしも、この作戦にひとつ懸念があった。
謀反を起こした張本人のティーズに、国民が纏められるのかということだ。
現国長のガレスは民衆からの信頼を失っているわけではない。
『奇跡の種』を植えることについては疑問視する声もあるが、独立の英雄である彼から政権を奪ったとして、ティーズにどれほどの民衆がついてくるか分からない。
最悪の場合、『呪の自治区』が内乱状態になることもありえるそうだ。
ならば、物事の順番を変えて、犯人を挿げ替えればいい。
まず最初に、外部に異常が伝わらないようにしながら、城を制圧して国長を確保する。
その間にティーズたちは、国長の指示だと虚偽の説明をしながら国民の『奇跡の種』を壊して回る。嘘の内容は『新しい能力開発の方法が見つかったから』とでもいえばいい。
五日間で国中の人間を能力者から普通の人間に戻したあと、わたしが今回の件の首謀者として、研究所を破壊しながら国外に逃げる。
そうすれば『呪の自治区』をティーズたちが纏めることに不満を持つ人も少なくなるだろう。
この話をティーズに提案したのち、サティ王子の了承も貰った。
馬を走らせること二日、わたしは『呪の自治区』へ到着する。
澄んだ空気に、とてものどかな風景だった。
田畑が広がり、緑も豊かで、道も整備されている。わたしが暮らしていた村とよく似ていた。
時刻は朝。わたしが道を歩いていると、ぽつぽつと、家から鋤や桑を持った人たちが出てくる。
季節は秋。収穫がひと段落つき、次の季節の野菜を植える時期だ。
能力者の国と思っていた印象とは裏腹に、誰もが農具をふるって畑を耕していた。
しばらく歩いてわたしの目に留まったのは、一人の男の子だった。
例に漏れず小麦色の肌に銀色の髪をしたその子には、片腕が無く、一回り小さな農具を振るっている。
男の子はわたしと目が合うと、こちらに寄ってきた。
「おはようございます」と声をかけると、「おはようございます、お姉さん」と人懐っこく男の子は笑った。
「わたしはこの国にくるのは初めてなの。どんな国かおしえてもらってもいいかな?」
「えっとね、元気のある国! 野菜とかがとれる量もだんだん増えてきてるんだって。牛とか羊とかを飼う人も増えてきて、最近はお肉が安くなってきたって、お母さんが喜んでたよ」
「そうなんだ。ねぇ君、この国は好き?」
「好きだよ。片腕のぼくにもみんな優しいし」
「その腕、どうしちゃったの?」
「燃えちゃったんだ。ぼくが十歳のときに右手から炎が出るようになったんだけど、そのときにね。全身も死んじゃうかもしれないぐらいの火傷だったんだ」
男の子は、無理をして笑って話しているように見えた。
それにわたしは「そうなんだ……」とあいずちを打つことしかできなかった。
「でもね、僕だけじゃないから。大人の人もみんな、いろんな奇跡をもってるけど、やっぱりちょっと怖いって言ってる。怖いのが僕だけじゃないから、怖くないんだ」
「そう。君は強いね」
男の子と別れて、わたしはまた歩き出す。
確かに独立したばかりの頃は必要だったのかもしれない。
けれどもうこの国は、能力なんて無くても自分達で営んでいける段階まできているのだろう。
半日歩き、ようやく国の中心までたどり着く。
そこは小さな市場が開かれる程度の、本当に小さな町だった。
売り買いされているものは、食料や日用雑貨が主で、装飾品や嗜好品の類は少ない印象を受けた。
活気のある声が飛び交う中、しかしよく見ると、片足が不自由な男、両手が動かないのか背中の籠に荷物を入れてもらっている女性、妙に上空を気にしている老人、何も無いのに背後を振り返る少年、寒い中で薄着の人、必要以上に厚着の人、突然耳を塞いで黙ってしまう子供などが紛れている。
元気に果物を売っていた女性が前触れも無く突然泣き出し、通りすがりの親子が声をかけながら背中をさすっている。
ただ活気があるんじゃない。
お互いに元気付けるために、自分から元気な声を出しているんだ。
この国の誰も彼もがきっと、自分のことで一杯一杯の中、それでも隣に居る人を支えようとしているんだ。




