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第9話「大切な人」②

「服が無い?」

「うん。最初にイリスに貰った一着しかなくて。でもこの国のお金も持ってないの。本当は『月の国』の使用人の服もあるんだけど、それを着るわけにもいかないし」

「なるほどね。あたしの服でよかったら、別に貸してあげるわよ?」


 サティ王子と仲直りできてご機嫌のイリスは、クローゼットの中ならいくつかを見繕って、「これとこれと、これも着ていいわよ」なんて感じで服を見せてくれる。

 クローゼットがひとつしかないので、わたしが着ていいものは左端に集めてもらった。

 それが夕方ごろの話。


 それからすぐに部屋に夕飯が運ばれてきて、それを食べた。

 夕飯の食器を厨房に持っていくと、他の使用人から「渡しに行くところだったのよ」なんて感じで、秘書用の服を貰ってしまう。


「……イリス。秘書って何すればいいの?」

「そりゃぁもう、あれよ。あれ……スケジュール管理とか?」

「それだけ?」

「あとは、お茶汲み? 掃除?」

「それは使用人のときにやってたけど、そんなのでいいのかな?」


 結局、考えても答えはでなかった。


 部屋に戻るとサティ王子がちょうど訪ねてきていて、「イリス、それからナナミさんも、明日から働いてもらいます。朝七時に僕の部屋に来てください」とだけ言って去っていった。

 よく分からないけど、こういうのってわたしたちが王子の部屋に赴くのが正しいあり方なのではないのだろうか?

 まぁでもとりあえず、明日からは王子様付きの秘書になるのだ。どんな仕事が回ってきてもしっかりと気を引き締めて頑張ろうと心に決めて、この日は眠りに着いた。




 で、秘書の仕事だけれど。

 結局、翌日になっても分からないままだった。


 サティ王子は、八時から朝食、その後、執務室にて事務仕事(政治関係っぽくてよく分からない)。

 十時に謁見室にて五人の来訪者と順番に対談。

 十一時半頃にそれが終わり、


「じゃぁ少し早いけど昼食にしましょうか」


 サティ王子にそう言われるまで、朝からずっとわたしとイリスは壁際に立ち尽くしているだけだった。


 わたしの手元には、サティ王子が自分で作った、一日の予定の書かれたメモ。わたしたちがスケジュール管理なんてするまでも無く、サティ王子は予定を完全に把握している。

 何かしたと言ったら、紅茶を一杯淹れたことぐらいしか思いつかなかったりするのだ。


 手際もよければ自己管理なんかも完璧。

 この人に秘書なんて必要ないのではないだろうか?


「……サティ王子、質問なのですが。秘書って何をすればいいのでしょうか?」

「そうよ。あたしもそれ聞きたいんだけど」


 イリスも同意する。

 けれどサティ王子も、「言い出してはみたものの、実は僕もよく分かっていないんですよ」なんて首を傾げたりしている。


「とりあえず僕専属の使用人って感じでどうでしょう?」


 なんかどこかで聞いたような仕事内容だ。

 でもそれ、絶対に秘書とは別物だと思うんだけど。


「それと、イリスは人前だけでも、僕に敬語を使ってもらおうかな」

「うっ……」

 イリスが言葉に詰まる。

「人前だけでいいのよね?」

「ああ。いいよ、普段はいつもどおりで。だけど、お客さんが来ているときにいつもの口調だと、ただでさえ無い僕の威厳が落ちるところまで落ちてしまうからね」

「やってみる……じゃなくて、善処します」


 サティ王子が「よろしく」と笑う。

 傍からすると、イリスが真剣に悩んでいるのを、サティ王子がからかっているようにしか見えない絵図だ。


 まぁでも、使用人として振舞っていいというのならば、わたしとしては勝手知ったるというものだ。


「では、厨房から食事を運んできますね。イリス、行こ!」


 わたしはイリスの手を引いて走り出す。

 そして直後、王子に「はしたない」と叱られた。

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