第9話「大切な人」①
「イリス、どれだけ無謀なことをしたのか分かっているのかっ!」
『光の帝国』東端の地区にある城。
そこに戻ったわたしたちを迎えたのはマジギレしたサティ王子だった。
「装備も整えずに砂漠に繰り出し、盗賊に出会ったときの備えもなし。『呪の自治区』との戦争だって終わってはいないんだ! どうして僕に一言言ってくれなかったんだ?」
「だって、言ったら絶対に許可しないじゃない?」
「当たり前だ! そもそもナナミさんと合流できたからよかったものの、途中ではぐれていたら、砂漠の真ん中でどうするつもりだったんだい? 勝手に兵士に志願してきたときもそうだ。僕や小父さん、小母さんが心配するってことも少しは考えてほしい!」
しこたま怒られたイリスは、今回ばかりはしょんぼりしながら部屋に入っていく。一緒に部屋に戻ったものの、どう声をかけたらいいのか分からなかった。
イリスが体ごとベッドに飛び込み、枕に顔をうずめて呟いた。
「あたし、嫌われたかな……」
イリスの言ったそれはあまりにも的外れで、だから「イリスって馬鹿?」と尋ねる。
「馬鹿って何よ?」
「えー。だって今のは馬鹿じゃん……っと。やったわね!」
枕が飛んできたので、それをイリスに投げ返す。
「たぶんこの部屋、イリスのために用意したんだと思うよ?」
「投げ返すんじゃないわよ。ってか、なにそれ? どういうことよ?」
再び枕が飛んできたので、今度はそれに加えて、自分の分の枕も手に取る。
「次、二ついくよーっ! イリスが兵士なんかに志願してきたから、秘書として引き抜こうとしたんじゃないの?」
「確かにそんなことも言われたけど……ってか二つ同時は無理っ!」
「あはは……サティ王子は頭はいいかもだけど、すっごい分かりやすい人だと思うわよ? イリスを戦場とか危ないところに行かせたくないんでしょ? ……うにゃっ!」
ひとつの枕はキャッチしたものの、もうひとつが顔面を直撃する。
「ほら、あんたも二つ同時なんて無理じゃない?」
「あはは、そうかも」
わたしはイリスの分の枕を投げて渡すと、それから「ちょっと考えてほしいんだけど」と前置いて言う。
「サティ王子は、やっぱりイリスのことを大切に思ってるよ。さっきのは、そのことをイリスに気づいてほしかったんじゃないかな?」
「そうかな?」
「大切な人を守れなかったりするのって、とっても悔しいんだと思う。女のわたしがそう思うんだから、男の人はたぶんもっとだよね。
自分が嫌われたとしても守りたいって、そう思うこともあるんじゃないのかな?」
イリスがベッドから立ち上がる。
「どうしたの?」
「うん。サティにちゃんと謝ってくる……素直に言えるか自身ないけど」
「そっか。がんばってね」
「べ、別にナナミに言われたから行くんじゃないんだからねっ! ……じゃなくて、いまの嘘。ありがと、ナナミ」
扉を乱暴に開けて、イリスが逃げるように部屋から飛び出していく。
わたしは開けっ放しになっている扉を閉めると、壁に背を預けて座った。
ひとつ困っていることがあったのだが、それはイリスが戻ったら相談することにしよう。




