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第3章「マドカ」③

 着替えを済ますと、わたしとミリアは部屋を飛び出した。


 王宮の門番に話を聞くと、マドカさんが王宮を出て行くのを見たらしい。

 しかし市場街の入り口での目撃証言を最後に、足取りが途絶える。

 陽は既に暮れて、辺りは次第に暗くなっていった。


 一時間後に再び街の入り口で集合するよう打ち合わせし、わたしとミリアは二手に分かれた。

 わたしは街の東側で、会う人会う人にマドカさんの子とを尋ねるが、足取りは一向につかめない。


 けれどそれ以上に、わたしは背筋が凍りつくような噂を耳にした。


『グレン王子の側近で、マドカという女がいる。見たこともない兵器を使って、東の国の軍勢二千二百人を一人で討ち取った』というものだった。


 噂が流れ始めたのは、今日の昼頃。『月の国』の人たちは、その噂をまったく相手にしていなかった。

 戦争とは無縁な生活を送ってきて、『焔の国』の侵攻についても全く知らされていなかったからというのもあるのだろう。

 

 だけど、この噂が『焔の国』の人の耳に入ったら話は別だ。


 あの砂漠で、マドカさんは逃げようとする兵士を全滅させた。

 目撃者はいないはずだった。

 誰がどのようにして二千二百の兵士が全滅したか分からないはずだったのに、これではマドカさんの命が狙われてしまう。


「ん……二千二百人?」


 しかし、ふと思う。

 あの砂漠で、二千二百人すべてをマドカさんが倒したわけではない。

 正確な数は分からないけど、そのうちの千五百人程度とマドカさんが言っていたはずだ。

 もし仮に、あの砂漠でわたしたちに気づかれず見ていた者がいたとして、こんな噂は流すはずがない。


 じゃぁこの噂は、誰が何のために?


 考えられる可能性はひとつだった。


「あぁもう、馬っ鹿じゃないのぉっ!」

 頭にきた。

 おかしくなりそうだった。

 そして何より許せなかった。

 何が何でも見つけてやると、わたしが歩き出そうとしたときだった。


「もしかして、どなたかお探しなんじゃないですか?」


 声をかけられて、わたしは振り返る。

 そこにいたのは、優しげな印象をした赤毛の女性だった。

 露店を出している……というよりは作物を無料で配っている、『穂の国』から来た人だ。

 わたしもときどき果物をわけてもらっていた。


「あ、突然申し訳ありません。わたくし、『穂の国』のアナスタシアといいます。お急ぎのご様子でしたので……もしわたくしにできることがありましたら、お手伝いさせてください」


 穏やかな口調、柔らかな表情とは裏腹に、その目の奥にどことなく真剣さのようなものを感じた。

 わたしは軽く自己紹介したあと、「すみません、お願いします」と頭を下げる。

 マドカさんの特徴をアナスタシアさんに伝えると、わたしたちは街中の通りを隈なく探した。


 それでも手掛かりさえ掴めないまま、ミリアと約束した一時間が過ぎる。

 わたしたちが街の入り口に着いて二分後ぐらいにミリアが来た。ミリアのほうも収穫はなかったようだった。

「もしかしてマドカさん、わたしたちが探してることに気づいているのでしょうか? だとしたら、本気で隠れたマドカさんを見つけるのは難しいと思います」

 街中の人にマドカさんについて尋ねて回ったので、耳に入っていてもおかしくはない。

 わたしたちの姿を見られていてもアウトだ。完全に警戒されてしまっているだろう。

 そうしたらもう、マドカさんを見つけることなんて……


「いや……できるかも」


 ふと思いつく。

 正確には、見つけることができるかもしれない人について、心当たりがあるのだ。


 そして同時に、わたしは理解した。


 割れて砕けたステンドグラスを再び組み立てなおしたような感覚が、出来上がった絵面(えづら)に対する腹立たしさで塗りつぶされる。


 怒りで頭がおかしくなりそうだった。

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