表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/70

第2章『焔の国』①

 それから数日経った。

 わたしの記憶にも特に変化はない。

 まぁ覚悟が決まったぐらいで戻ってきてくれたら、苦労はないのだが。

 

 朝食のあと、午前中の仕事が少しだけ早く済んで、暇になったのが午前の十時半。

 それから、せっかくのいい天気なので布団を干そうと思いつき、階段をえっちらおっちらしているのが今の状況だ。

 ランス付きの使用人の部屋は第十三棟の二階にある。そこの一室にベッドを4つ並べて、わたしとエミリアさん、ミリア、リアちゃんの四人で使わせてもらっている。

 三人分の布団を運び終わり、最後に自分の分を運び出そうとしたところで、ふと声が届く。


「ナナミちゃーん」


 おっとりとした女性の声。

 窓の外からだった。

 わたしは窓の外へ顔を出すと、下に目線を向ける。

 そこには金色の髪に青い瞳をした女性が立っていた。

 わたしと同じ制服を着ているはずなのに、どこか上品な感じだ。

 ところで……わたしの名前を知っていたようだが、どこかで会っただろうか?


 そしてその女性には変ったところがひとつ。その女性が立っているのは庭のはずれのはずなのに、右手にフライパンを持っているのだ。

 女性が「おはよー」なんて言ってくるから、こちらも「おはようございます」と返す。


「これ、あげるねー」


 謎の女性は〝にぱー″と笑うと、フライパンを構える。

 女性は左手に持った黄色い果物を宙に放ると、思いっきりフライパンでそれを叩いた。

 わたしは慌てて、飛んできた果物を捕まえる。

 突然のことに唖然としてしまって、手を振って去っていく女性に、果物のお礼を言いそびれてしまった。

「また今度、会ったときにちゃんと言わないと」

 それはそうと、果物をフライパンで叩くなんて、少し非常識ではないだろうか? 普通はそんなことをしたら、果物が傷んでしまうだろうに。

 そう思って、わたしは果物を回して見てみるのだが……

「あれ?」

 何度見ても、果物にそれらしい傷はない。

 わたしは首を傾げる。

 部屋を出て厨房に向かう途中も、ずっともやもやした気分が抜けなかった。




 昼食のときに、フライパンの女性のことをみんなに聞いてみる。

 すると、思いのほか有名人らしかった。

「ああ、〝にぱー″はきっとマドカさんね」

「フライパンはマドカさんですね。いつも持ってます」

「消去法でマドカさんです。このお城で特にデタラメなのは、エミリア姉さんとナナミさんとそのひとですから」


 へぇ、わたしってそっち側のカテゴリーなんだ。気をつけよ……


「マドカさんは、グレン兄さん専属の使用人だよ」

 ランスだけがきちんと親切に教えてくれる。

「僕も良く知らないけど、秘書みたいなこともやってるらしいね。とぼけている感じだけど、グレン兄さんが重用するってことは、すごい人なんじゃないかな」

「へぇ……」

 昼食の最後に、マドカさんからもらった果物を切り分ける。思いのほか美味しくて、ちょっと驚いてしまった。

 みんなにも評判がよかったし、市場で同じのを見かけたら買って来ようかなんて思う。




 昼食が終わると、ランスは自室にこもってしまった。また魔法の研究でもしているのだろう。

 わたしはと言うと、今日は一人で皿洗いだ。

「午前中の仕事が少なかった分、まぁしょうがないか」

 なんて呟いて、じゃぶじゃぶ食器をこすっていく。


「あらまぁ、お一人?」


「ん?」

 声を掛けられて振り向くと、そこにはマドカさんがいた。

 マドカさんはフライパンの柄を帯に挟むと、「手伝ってあげる♪」と言ってくれた。

「あ、そうだマドカさん。果物ありがとうございました」


「美味しかった? 特に問題なかった?」


「ええ、とっても美味しかったです……『問題なかった?』って?」

「よかった♪ あれ、たまたま市場の端でもらったのよ。じゃぁわたしも食べてみようかな」

「え?」

 そういってまた、マドカさんは〝にぱー″と笑う。

 うん、深く考えないようにしよう。

「マドカさんって、いつからこの王宮にいるんです?」

「そうね、物心付くころにはこの王宮に出入りしてたかな」

「お父さんかお母さんがここで働いてたんですか?」

「ううん、塀をよじのぼって、果物を盗みに来てたのよ」

「え……王宮ですよ?」

「てへっ。まぁ子供の頃の話よ。そしたらある日、兵士さんにみつかっちゃってね。怒られるかなって覚悟したんだけど、でも拍子抜け。『次からは籠をもっておいで、好きなだけ取ってっていいから』って言われちゃった」

「へぇ。誰もその果物食べないんです?」

「まぁ、さっきのと違って、渋くて美味しくないやつだからね。実は干すと甘くなるんだけど、それを知ってる人は少ないかな。収穫の季節は秋ごろだからもう少し先。その頃になったら、市場とかに配りに行くんだけど、暇だったら手伝ってほしいなぁなんて♪」

「いいですよ、わたしでよければ」

「ありがとっ」

「それにしても、平和な国ですね」

「そうね」

 それから、マドカさんはまた笑う。つられてわたしも笑ってしまった。


 それにしても、わたしはどうして『平和な国』なんて言葉を口にしたのだろう。


 わたしはこの国しか知らないはずなのに。

 それとも、記憶を失う前の常識とこの国の生活が、それほどまでに掛け離れているのだろうか。

 そんなことを考えていると、


「えいっ!」

「うにゃっ!」


 とマドカさんにデコピンされてしまう。

「ナナミちゃん、今の顔かわいくない~」

「だからって、ほっぺ引っ張らないでください~」

「嫌ぁだ! わぁらぁえぇ~」

「うみゃぁ。分かりました、分かりかしたから~」

 マドカさんはわたしの頬から手を離すと、わたしの頭を「いいこいいこ」と撫でてくれる。

 こういうところは、どことなくエミリアさんに似ているような気がする。


「あ、そうだ!」

 マドカさんが言う。

「聞こうと思ってたんだけど。ナナミちゃんはこの国に来る前は、どこの国にいたの?」

「覚えていないですけど、『穂の国』だと思います。一ヶ月前にランスに拾われたのがそこなので」

「そうだんだ」

「わたしがこの国の人じゃないって、やっぱり分かっちゃうんですね」

「まぁ確信とかは無かったんだけど、この国じゃ珍しい髪の色だから」

 いろんな話をしながら、マドカさんは一通り洗いものが片付くまで手伝ってくれた。

 再び腰に差したフライパンを手に取ると、「あぁ落ち着く♪」なんて言っている。そういうものなのだろうか。

 わたしはマドカさんに、手伝ってくれたお礼を言う。

 マドカさんは「べつにいいのよ~」と、はたはたと手を振っている。

「わたしも仕事、サボれたし♪」

「え?」

「なんてね。あ、そうだ。これはナナミちゃんにお願いなんだけど」

 マドカさんはそういいながら、ポケットのメモをわたしに差し出した。

「グレン様が、ランス様と話がしたいそうなの。今日の夜十時に、部屋に来るよう伝えてもらってもいいかしら?」

 わたしはメモを受け取る。そこにはマドカさんが言った時間と場所が書いてあった。


 それにしても、改まって話とは何のことだろう。

 グレン王子が絡んでいるということは、もしかしたら外交関係の話だろうか。 


「伝えるのはいいですけど、何かあったんですか?」

「わたしも詳しくは知らないけど、きっとあんまり楽しい話じゃないでしょうね」


 そう言ったときのマドカさんの顔は、そのときだけは笑ってはいなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] Twitterからです。ブクマ、評価しました! うーん、ダークファンタジーでなく正統派ラノベに適した文章だと感じました! [気になる点] うーん、文章と、表現がやや甘い点が散見されました。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ