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第0章 ナナミの夢


 また、あの夢だった。


 辺り一面に広がるのは、夕日のような深く深くとても深いところからやってくるような赤い色。

 まぶしいぐらいに輝く黄色を塗りつぶして、それは全てを呑み込んで揺れていた。


 熱を孕んだ風が呻るその奥から、時折、声が聞こえてくる。

 誰のものかはわからないけれど、聞き覚えのある声だった。苦しそうな悲鳴があがって、悲しそうな叫びが飛び交い、だけどすぐ静かになった。


 唖然として、わたしは何もできなかった。


 全身に力が入らず、へたりこんだまま目の前の出来事を眺めていた。

 頭よりも心のほうが先に理解したのか、頬を熱いものが流れて落ちる。水滴が地面を濡らすのを見て、それが目の奥から押し出されてきたものだと理解した。

 堰を切ったように、涙が止まらなくなった。

 

 叫んだ。

 炎の奥へ消えていった人たちの名前を呼び、叫び、しかし返事は無い。

 それを認めたくなくてわたしは、嗚咽で塞がった喉を無理やりにこじ開けて、咽びながら潰れた声を搾り出して息の続く限り呼び続けた。


 終わりは唐突だった。

 炎の合間から時折覗く色は黒。陽が沈むように炎は消えて、辺り一面にはもう何も無かった。

 絶望の色に染まってしまったこの場所に、何があったというわけではない。誰かとの約束が守れなかったわけでもなく、遣り残したことが何かと聞かれても答えられない。

 当たり前のように過ごしてきたありきたりな楽しかった時間が、もう戻ってこない日々が、握りつぶすように胸を()めつける。

 何が消え、何を失ったかの整理も付かないまま、ただそれらの大きさにどうしようもなくて、意味の無い言葉を喚き散らしながら、自分の頭やら顔やらを()(むし)った。


 そして気が付けば、呆然としていた。

 あれからどれだけ時間が経ったのかはわからない。

 疲れたのか、諦めたのか、嫌気(いやけ)が差したのか、何も考えられないぼんやりとした頭のまま、わたしは立ち上がり、歩き出していた。

 知らない道を何も考えられないまま進む。

 足を止めると何もかもが止まってしまいそうな気がしていたのかもしれない。

 顔も知らない人と何人もすれ違い、見たこともない村をいくつも通り過ぎ、いくつめかの集落に入ったときだった。

 

 とうとう足が上がらなくなり、自分の足に躓いてわたしは倒れた。

 もう立ち上がる気力なんてない。


 まるで自分ひとりだけがこの世界に取り残されたようだった。

本作は全12章の予定ですが、2章前半で物語の大筋の伏線が出るように作ったつもりです。(その先にもちょくちょく小さな伏線は出てきますが)

物語がこの先どうなるかを想像しながら読んでいただけると嬉しいです。


また、本作品はわたしが以前に投稿した同題名のものを読みやすく修正しているものです。

(旧Verは現在でも閲覧可能です。内容はほぼ同一のものとなります)


改訂版は毎日20時更新になります。よろしくおねがいします。

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