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一難去ってまた一難とはよく言ったものです。
ですがその一難は、わたくしがこれまでの人生で取り扱ってきたものの中で最も受け入れ難いもので、到底扱いきれないものでした。虎口を逃れて竜穴に入ってしまった、とでも言った方が正しいのかもしれません。
その事実を知ったのは、帰宅してすぐでした。
わたくしの頭は真っ白になってしまったのです。
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――わたくしを助けると、命の灯火を消すように燃え尽きた鬼天竺鼠。
昨夜は一晩中、その姿がずっと頭の中で回転して、それはあたかも回し車のように延々と回り続けて、わたくしは眠ることができませんでした。
今朝、わたくしは宝箱代わりにしている、しだれ桜花の蒔絵の硯箱から中身を全て取り出すと、ふわふわの裁断紙を敷いて、それをそっと横たえました。わたくしの人生において、これ以上の宝物はなかったように思われたからです。
そして気がつくと、日曜日にもかかわらず、学校の渡り廊下に足を運んでおりました。
命の輝きのように燦々と輝く太陽が、校庭で部活動を嗜む生徒の汗を光らせます。響き渡る溌剌とした声。
その光景の隅で、ちょうど真ん中の部分が焼け焦げた渡り廊下が、手の施しようがないといった風体で臥せっておりました。傍らには先客が一人。校長は内臓を抜かれた人体模型のようになって、呆然とその焼け跡を眺めておりました。開きっぱなしの口からは、人が人たるための大切な何かが、どんどん抜け出ているようにも見えます。
他人から見れば、今のわたくしも似たように見えるのかも知れません。
硯箱を撫でながら、昨日の鬼天竺鼠の勇姿に思いを馳せていると、風景の中の校長が、へたり、と体育座りになりました。




