その水滴は、信頼の証
クランを部屋に押し込んでから、シルヴィアは仲間と共に風呂場へ来ていた。
「あの子、良かったの、シル」
「ん、何が?」
広い浴場に声が響く。何百と入れそうな大きな浴場だが、使用しているのはシルヴィアも含めて三人だけだ。
夜も早い。まだ時間帯も時間帯で、今頃皆は夕食を食べているころだろう。
この時間は、シルヴィアたちの貸し切り状態になっているのだ。
「拾ってきた、子」
「ああ、彼のことね」
「あっ、それ、私も気になった‼」
明るい声をあげたレイにシルヴィアは笑う。レイも黒目を光らせて本当に興味がありそうだった。
シルヴィアは白い肌に泡をつけて洗いながら、シャワーの栓を捻った。
「強いて言うなら、殺しても無駄そうだったからかな」
「シル、時々、変なこと、言う」
「失礼ね、ダイアナは」
「いやー、それ、私も思うわぁ」
レイはシャワーから出るお湯を浴びて体についたお湯をゆすぐ。そして、誰よりも早くシャンプーに移る。泡立てると、シャンプー特有の甘い香りが漂った。
「どこが変なのよ、どこが」
「全部」
「えっ、嘘だ」
ダイアナも体を洗い終わり、体をゆすぐ。レイに僅かに遅れてシャンプーへ手を伸ばした。
一番体を洗うのが遅いのは、シルヴィアだ。爪先に泡をつけ、念入りに洗っている。
レイなんて、頭をシャンプーで流しているところだというのに。
「でもさ、殺しても無駄ってどういうことー?」
「そのままの意味よ」
シルヴィアはくだらなそうに吐き捨てる。
それに首を傾げたレイだが、シルヴィアの後ろに回り込み、まだ洗われていない地面につきそうなほど長い髪を手に取った。シルヴィアの銀髪に泡立てた泡をつけて洗い始める。
片目をつぶりながら、シルヴィアは体の泡を流し始めた。
「そういう人たちってどんな人がいるの?」
「【慈愛聖母】、とか?」
「あー、そうかも。彼ら邪教と大っ嫌いだし。女神の為なら命など、っていう人たちだもの」
シルヴィアはその嫌悪を隠そうとしない。命を使い潰すやつらが嫌いなわけではなく、生への執着が薄いものが嫌いなのだ。
シルヴィアの髪を洗うのが終わると、レイは湯気を立ち昇らせる浴槽の方へと走る。そして、覗き込むと爪先で張られた湯を突いた。
「うーん、ちょっと熱い」
隣の浴槽までいくと、今度は温度を確認せず入った。そのまま広さを活用して、泳ぎ始める。
「相変わらず、綺麗。シルの髪」
「有難う」
シルヴィアとダイアナは、レイが確認して入っていない浴槽に浸かる。泳ぐのをやめたのかそのまま、すぃーと隣の浴槽とのしきりに体を投げ出した。
「聞いてよ、シルヴィア。明日から休み無しなんだよ」
「仕方がないでしょ、私だってここ三ヶ月は休み無しよ。その分お給料は弾んでるよ」
「うん、裏ギルド、潰す」
クランは裏ギルドのわざと情報を流し戦力を削らせるために為の作戦に参加していた。
本当は騙された当初で殺すつもりだったが、拾ってきた。その目的は、彼にこちらの偽の情報を流させるためだ。
「十中八九、彼は繋がっている。というか、繋がっていないと困るの」
「情報を流させるためにねー」
彼女たちの瞳は僅かに怒りが見て取れた。
特に先程からダイアナは黙っているが、その瞳に宿る憤怒はもはや殺意の領域にまで到達している。
過去、裏ギルドに手痛いものを食らわされた事があるから当たり前といえば当たり前なのだが。
裏ギルドは色々と悪事を働いている。それこそ、彼らは王政にまでにも侵食し始めている。貴族に手を貸し、彼らの勢力は徐々に大きくなっていっている。それだけでは留まらず、私たちのギルドにまで手を出し始めた。
—————やりすぎだ、とシルヴィアは思う。
いくら大きなったからと言って行って良いものと悪いものがある。こちらに手を出すのは悪い事に入る。
慢心は人を殺すし、自信は自分を過大評価しすぎる。
「でもさー、裏ギルドの手足がバカなわけであって」
「ええ、頭部は手強いわ。手足ぐらいならすぐくっつけるか、補充できる」
ばしゃり、と水がはねた。レイが足をバタつかせ水がさらに跳ねる。
「ん、まぁ。殺す尽くすだけだしー」
「うん、私も同じ。あいつら、絶対許さない」
ばしゃり、ともう一度水がはねた。