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緑葉の鳥と、死ねない怪物  作者: 結ヶ咲 蛍
一章 銀髪の乙女
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内部に潜む蛇の牙

「馬鹿か‼ お前は!!」


 バンッッ、と机を叩いた。瞬間、みしっ、と軋む音が机から響く。それぐらい衝撃が強かったのだ。


「いや、だって」

「いやだってじゃねぇよ‼」


 怒られているのはシルヴィア。緑葉の鳥の幹部【銀剣の姫君】の異名を取るギルド中最速を誇る十六歳の少女だ。

 そして、その隣にいるのが僕、クラン。異名など持ち合わせておらず、裏ギルドのランクはC。肩身が狭いと穴があったら入りたいがダブルのこの状況。


「で、何!? 話して気に入ったから自分の部下ァ!? てめぇ、このオレが怒る理由分かってんだろうなぁ!!」


 シルヴィアは笑顔で首を横に振った。加速する説教。そして、横に座ってる僕を判別する視線。


「俺が怒ってるのは、殺す予定(・・・・)だったやつらを殺さず生還させ、挙句の果てにここに連れ込んだ‼ 更に、自分の部下‼ かぁぁぁ、お目が高いね、お譲ちゃん‼」

「えへへ」

「褒めてねぇってなんでわかんねぇンだよォォォォォオオ‼」


 ばきゃんっっ、と机が沈没。びきききっ、と青筋をたててキレる頭領らしきもの。

 ギロリン、とその視線が僕に刺さる。その恐怖に、僕は縮みこむ。


「まぁまぁ、シルのこれは今に始まった事じゃないですし。そんなに怒らなくても・・・・・・」

「あ?」


 助け船に出そうとしたやつを睨んで黙らせると、重たい溜息をついて座り込んだ。


「まぁ、良い。で、坊主。名前と年、所属場所、すべて話せ」


 ここで出し惜しんだら死ぬ、というのがわかった。平気で今はいられるが、それはシルヴィアが押し留めているからだ。その気になれば、シルヴィアを止めておいて僕を殺すことなどたやすいだろう。


「クラン、と名乗っています。歳は十五.所属は裏ギルドの『凶刃』です。えっと、シルヴィアさんを殺すという裏ギルドのクエストにギルマスから強制参加を促されました」


 押し黙る空間。まずい事を言っただろうか。

 その時、正面に座って先程までキレていた人物が口を挟む。


「おい、それは、どういうクエストだった?」

「クエストの内容ですか?

『シルヴィア・クローネと言う人物が廃墟に集まるから、そいつを殺してここに死体を持ってこい。それが出来ればいつもの報酬の二倍は積んでやる』って言われました。ギルマスから」


 瞬間、シルヴィアが肩を揺らした。

 それは徐々に忍び笑いから、耐えきれなくなって部屋全体に聴こえる笑いに変わる。


「ね? 私が気に入った理由、わかったでしょう?」


 僕たちを囲んでいた周りが全員溜息をついた。


「わかった。確かにこいつのこれは、正直だ。バカがつくけどな」


 ポケットから、一枚の紋章を出す。それは木の上にとまる一羽の銀の鳥。太い指にはさまれたその紋章は、ここにいる皆が見に付けている者だ。


「これから、てめぇは、『緑葉の鳥』の一員だ」


 それを僕の前に出すと、背を向けて去っていく。バタンッ、という音が響いた。

 何が起きたかわからなくて、紋章を持ったまま目の前に座っているシルヴィアをみる。

 彼女は、首を上にあげて僕を見た。

 

「その紋章に恥じぬ働きを期待してる」


 そのシルヴィアの言葉をきっかけに、皆は部屋を後にした。


***

「あの、なんで僕・・・・・・」

「えー? とにかく、私の部下って事になってるから、変なことはしないでね」


 それだけいうと、ベッドしかない部屋にシルヴィアは僕を押し込んだ。


「ここ、貴方の部屋ね。あと、うろちょろしてると、死ぬから。新人は変な動きしない事」


 そういうと、シルヴィアは裾を揺らして部屋を出て行く。

 簡素なベッドと、それ以外何も無く、あとは持ち歩いていた手荷物しかない。


「ふぅ」

 

 溜息をつく。


「いなくなった、な」


 ベッドに転がると軋んだ音を立てた。つくって古いのだろうか。あちこち錆び付いている。

 再度溜息を吐くと、天井を見上げた。


「ミーシャ」


 何もない空間に向かってその名を呟いた。

 その言葉に反応して天井の手前の空間がぐにゃりと変形する。


 そして、そこから浮き上がるようにして出てきたのは、緑色の瞳を持つ小柄な少女。

 彼女が身に纏っているのは黒い控えめなフリルのついたワンピースで、下のスカートは足首まであるほどの長さだ。肩口が露出しているが、生地は脇の下で繋がっており、その下からは豪奢な長手袋ドレスグローブになっていた。


 ミーシャと呼ばれたその少女は、見た目に不相応な大人っぽい笑みを浮かべ、重力に従うことなく空中に座って見せる。


「なんじゃ、余の犬よ」

「ミーシャ、言伝を頼みたい」


 緑色の瞳を細める。ゆるりと白い手が持ち上がり、クランの顎先を掴んだ。

 それに押されてベッドに横たわるのではなく、座った。


「余の犬として、玩具として飼われている身でありながら、余を使うと?」

 

 顎を撫で、白く細い手がクランの鎖骨に移動する。そこを撫でると、首を掴んだ。

 みしっ、とクランの首から音が鳴る。指先がめり込み、少女とは思えない力でクランの首を締めあげてゆく。

 首を締めあげられ、徐々に顔が赤くなっていってもクランの表情は変わらない。


 ミーシャはそれをみて手を放す。がくっ、とクランの頭が垂れ咳き込んだ。


「良かろう、許す。余の寛大な心に感謝せよ」

「ああ、悪い。いくら俺だからって首を絞めるのは止めてほしいけどな」

「ふんっ、余と契約して『名前のない怪物グラウエン』と成り果てた貴様に何故余が止める必要がある。主導権は我が持っておるのだぞ」


 腕を組み、浮き上がる。それを見上げたクランは苦笑した。


「で、何と言えば良いのだ。まず、貴様の『劇場テアートルム』を使えばいい話ではないのか?」

「そいつはまだお披露目が早すぎる。大体、僕たちが言われたのはここの侵入であって、殺すことではないんだ」

「ほぉ、そう言われれば余はギルマスに『侵入した』と言えば良いのだな?」

「あぁ、流石だ」


 ふんっ、と嬉しそうに顔を赤らめながら鼻を鳴らした。仕草だけ見ればかわいらしい。


「余が分からぬ事は無いのだ」


 それだけいうと、彼女は茶髪を揺らして陽炎の様に消えてなくなる。

 ミーシャが消えるのを見届けたクランは、目を閉じて倒れ込んだ。

 


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