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Color Map  作者: 黒凪 誘
プロローグ
1/2

第1話 出会い

初めてこういう場に公開するのでちょっと緊張しております。

どうか優しくお願いします。

彼は走っていた。どうしてこうなったのかは自分でも分からない。

ただただ、本能に従って走っていた。

後ろから追いかけてくるアレ、アレに捕まってしまったら何もかも終わってしまう。

そんな恐怖に突き動かされるまま、彼は走り続けていた。

息が切れる、体が悲鳴を上げている、それでもただ、ひたすらに彼は走り続けた。

後ろから伸びてくるモノを木の間を抜けるようにして避ける。

時折聞こえる不快な鳴き声に耳を塞ぎそうになるが、そんな労力も勿体無いと思い、彼はただ走る事だけに集中していた。


しかし、彼も人である。恐怖に突き動かされていた体も次第に重くなり、動きが鈍くなってくる。

呼吸も上手く出来なくなり、意識も朦朧としてくる。

頭では逃げなければならないと思っていても、いつしか彼の足は止まってしまっていた。


「はぁ……はぁ……はぁっ……」


立ち止まれば自然と後ろのアレは距離を詰めてくる。

獲物が遂に手中に落ちる。その嬉しさに目を細めた瞬間、ソレの体の一部が何者かによって切り裂かれた。


「あー、いたいた、君が今来た人だネ」


助かった……のか……?

そう彼は思った瞬間、朦朧としていた彼の意識は途絶え、思考は真っ暗な闇の中に吸い込まれていった。






時は遡って1時間前。彼は森の中に立っていた。


「あ、れ……?ここどこだ?」


周りを見回してみるが目に入るのは草木ばかり。彼の質問に答えてくれる人など存在せず、疑問は風に乗って流されていった。


どうするべきか。途方にくれた彼はまず自分の体を確認してみる。

着慣れたいつも通りの制服。紺色のブレザーのポケットには携帯電話。流行に乗っかって去年から青に変わったYシャツの胸ポケットには愛用のボールペン。

緩めにつけていたネクタイが外れそうになっていたので締めなおす。

ズボンの尻ポケットには財布。横のポケットには手帳。持っているものは何も変わっていないようだ。

続いて動作確認。少し体が軽く感じられる気がするがそれ以外に目立っておかしな所は何もない。

怪我もしていないようだし、問題なく体も動く、とすれば問題なのは今居る場所だけだった。


「なんなんだここ……」


再度呟く言葉も風に攫われ、沈黙だけが残る。

自分は学校に向かっていたはず。通いなれた道でいつも通りの朝に、面倒だなと思いながら通学していた、その途中だったはずだ。

寄り道した覚えもないし、そもそも学校までの間に森など存在しない。住んでいた場所はそんなに田舎ではなかった。

では、なんで自分はここに居るのか。


「どうすりゃいいんだ……?」


三度目の言葉も儚く消え去っていき、彼はどうして良いか分からず座り込んだ。

ふと、そこである事に気付く。

そうだ、自分は通学途中だった。となれば必ず持っているべき物があるはずだ。

彼はそう思い周りを見回して見るが、目に入るところには何もない。

「困ったな……鞄無くしたら教科書とか買いなおさなきゃいけなくなる」

彼は立ち上がり再度周りを見回すが、やはり何もない。

仕方がない、と思い彼はとりあえず鞄を探すために森の中を歩き始めたのであった。


結果的に言うと、鞄はあった。あるにはあったが、鞄の横に良く分からないものが横たわっていた。

いや、横たわっていたというのも正確ではないかもしれない。

なぜならソレは地面から生えていたのだから。

目があり口があるその顔は大きな花弁で彩られていて、そこから伸びるツルは地面の中へと繋がっている。

どうするべきか。彼はそれだけを考えた。アレはなんなのか、なぜそんなモノが存在しているのかは頭が考えるのを拒否していた。


「ここで悩んでても仕方ないか……」


小さく呟き、彼は鞄へ一歩近づこうとした。

ただ、それだけで充分だったのだ、アレを起こしてしまうには。


彼がまず感じたのは地面の揺れだった。小さな振動から大きな振動へ。地面を確認してから顔を上げた彼の目には立ち上がったアレが見えた。

某スライムで有名なあのゲームのマンイーター、花で出来ている大きな顔は無数に生える蔓に支えられ高く掲げられる。

そのゲームのヤツと違うのは、花の中に凶暴な牙だけでなく、鋭くどこか見下したような目が備わっている事だろうか。

元々マンイーターは人食いという意味の言葉で、肉食のワニやサメなどの呼称だった気がするが、

なるほど納得。目の前に来ると良く分かる、アレは人食いだ。大きく開いた口で噛み付かれたらきっと何が起きたかも分からず死んでしまうだろう。

それに獲物を捕らえるための蔓が何本も何本ものびているのだから、口だけで獲物を捕まえなければならないワニなどよりよっぽど性質が悪い。

恐怖で体が硬直しただ見上げる事しか出来なかった彼に一本の蔓が迫る。

彼の体を捕らえ、捕食するためにこちらへソレを伸ばしてくる。

それを目の端に捉えた瞬間、彼は弾かれたように走り出した。






所変わって、とある一室。

彼女は疲れきった顔で座り込んでいた。額から汗が滲み、心なしか顔色も悪い。それでもその双眸には強い光を宿していた。

見つめる先は床。そこに描かれている大きな魔法陣である。

実はその床、つい先程まで眩い位に光輝いていたのだが、今はもう役目を終えたと言うように沈黙している。

その様子をジッと眺めていた彼女だが、ふと何かに気づいたようにフラフラと立ち上がる。

壁を支えに部屋を出て廊下へ、ゆっくりとした、しかししっかりとした足取りで階段を上り、広間を横切って玄関へ。

そして、外へ出るとその場で座り込み、ジッと空を見上げる。

どんな異変も見逃さないように、ただひたすらに何かを待つ。

彼女が空を見始めてからどのくらいの時間が経っただろうか。彼女の瞳に諦めの色が見えたとき、それは起きた。

明るい空の中では良く見ていないと見つけられないような輝き。

その輝きは、一つの塊だったが、やがて弾け、7本の流れ星となって落ち始める。


「来タ」


彼女は一言そう呟いて立ち上がった。もはやその顔に疲れの色は見えない。

何の支えも無しにその場で立ち上がり、流れ星の行方を追う。

そのうちの一つが、途中で掻き消える事もせずに近くの森の中へと落ちた。

何も起きない。爆発も、轟音も。流れ星が落ちたように見えたのは錯覚だったのではないかと思うくらいには何も。

正直彼女は地形変化の一つや二つくらいは覚悟していた。だから落ちてくるのを見つけたときもただ立ち上がるだけに止めたのだ。

しかし、何も起きなかった。周りに影響を及ぼすような事は何も。


「マズイ、あの森の中は……」


彼女は走り出した。どうか間に合ってほしいと願いながら、自分の出せる最高速度で駆け抜けた。

幸い森はそう遠くない。問題は中に入ってから。

彼女は森との境界線の傍まで来ると躊躇うことなく森の中へと飛び込んだ。木々が生えている中スピードを落とすことなく。むしろ早くなっているようにも感じられる。

まだ見当たらない。もっと奥へ、風のように走り抜ける。

と、その時彼女の耳が微かな音を捉えた。

木にぶつかるような鈍い音。草を滅茶苦茶に踏み荒らすような音。

そう遠くはない、もう数分すればその音の原因も目に入ってくる筈。

彼女はまだ見ぬ人の安全を願って走り続けた。


「見つけタ」


最初に目に入ったのはフラワードールと呼ばれる魔物の姿だった。

大きな花の頭にそこから生える無数の蔓で構成される胴体。その蔓の先端は手か足か分からないが移動と捕獲、両方の役目を果たす。

狩りの仕方は基本待ち。胴体部分を地面に埋め込み、自分が確実に捕食出来ると確証を持てるところまで獲物が来るまで動かない。

ただし、一度獲物を見定めるとどこまでも追いかけ続け、必ず仕留めると言われる魔物。

そんなフラワードールが精力的に動いているのである。ならば、そこには狙われた獲物が居るはず。

彼女は一度足を止め、フラワードールの行く先を見る。

居た。見慣れぬ服に身を包んだ少年。逃げるために体力を使い果たしてしまったのだろう。

少年は今にも倒れそうになりながらフラフラと木に手をつき立ち止まった。

無事に見つけられた喜びをかみ締めながら彼女はその場から跳び上がった。

フラワードールの死角から、蔓を切り裂くようにして彼の前に躍り出る。

彼女の手にはいつの間にか、光り輝く剣が握られていた。


「あーいたいた、君が今来た人だネ」


それが彼と彼女の初めての対面だった。

というわけで、第一話では主人公の名前すら出てきませんでした。

すみません。

それどころか何が起きたのかの説明すらありませんね。

もどかしい思いをしている方もいらっしゃるとは思いますが、まだまだこれからなので、生暖かい目で見守って下さいませ

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