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Ephemeral incantation  作者: 日句ひづち
Chapter 0 - 電気羊、起床
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第0話

 朝だ、と思った。

 瞼越しの光がほのかに明るい。


 よく分からない夢を見ていたがするが、もう内容は思い出せない。しかし、ただ、ひとつだけ覚えていることがある。


 僕は死んだ。たぶん。

 夢の中で死んだからといって、現実に何か起こるわけでも無いのだが、このまま忘れてしまうのは何故か怖かった。

 せめて、どういう経緯で死んだか覚えていれば良かったのだが、「死んだ」ということ以外は全て曖昧で、思い出そうとしても一歩手前で掻き消えてしまう。


 無理なものは仕方ない、諦めよう。

 そろそろ起きて朝食を摂りたい。そう思った矢先、重大なことに気がついた。

 体が動かない。いや、動かないという表現は適切ではない。この感覚に最も似合う言葉はなんだろうか。少し考えて、ある言葉に行き着いた。

 体が無い。加えて言うと、五感も全くではないが、ほとんど無いと言っても良い。

 それが今の状況を簡単かつ的確に表現できるという事実に戸惑った。そもそも体が無いとはどういう状況だ。普通に考えればこんな事あり得ない。

 未知の感覚に狼狽える。

 もしかしたら、実際に死んでしまったのかもしれない。しかし、こうやって思考できるならその可能性は低いか。


 あれこれ考えを巡らせたが、結論は出ない。


 分からないものは仕方ない、諦めようと、匙を投げかけたそのときだった。


 『移行が完了しました。』


 と、ゴシック体で緑の文字が視界の真ん中に現れた。そしてまた同じ書体で


 『再起動します。』


 今度はそう見えた。

 いったい何事かと思いかけたとき、いや、思いかける暇も無く視界が真っ暗になって意識が飛んだ。暗闇の中、落ちるような感覚だった。




 今度こそ朝だと思う。実際に朝かどうかは分からないが、目覚めたとき、それが朝だ。

 いつの間にか五感が戻っていることに気がつく。これが普通なのだが酷く懐かしい。

 体の方は末端から徐々に動かせるようになっていくようだ。

 指を少し動かす。その指の先に水の抵抗を感じた。たかがそれだけのことに胸が躍った。

 足も同様に動かしてみる。やはり水の中にいるような感覚だが、悪くは無い。

 それから直ぐに全身の感覚が戻ってくると、よりはっきりと周囲の様子が分かるようになった。小さな水泡が皮膚をくすぐる感覚や独特の浮遊感から察するに、やはり、僕は水の中にいるらしい。


 いるらしい、というのも確信を持てないからだが、そんなもの瞼を開ければ済む話である。

 余計なことは考えずに、とっととやってしまおう。

 僕は有りっ丈の力をこめ、瞼を上げる。

 すると、今まで開けていなかったのが可笑しく思えるくらい易々と目を開けることができたが、水に触れた目が予想外の痛みを伴うため直ぐに閉じてしまった。

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