赤は赤へ黒は黒へ ~ 心がすれ違った婚約者とはさよならします ~
読んでいただきありがとうございます。
「なんだ、お前のその暗い髪は、どうして焦げかすの様な頭の女が、王太子妃なのだ」
「……………………。」
どうしていつも、人が集まっている場所で、そんなことを言うのかしら?
「それに引き換え、マーラの美しい髪(元の赤色に)を見てみろ(戻してみろ)」
キース殿下は、マーラ様の腰を抱える様にして、そのふわふわの髪に触れる。
「本日の妃教育は、終わりましたので、これで失礼させていただきます」
「おい。リディア!俺への返事になっていない!髪の話をしているんだぞ」
はー。
何度も何度も、髪の色の話をさえるけれど、私にはどうにもできない。
「まー。キース殿下、きっとリディア様は、お似合いで眩しい私達二人に、眼がくらんでしまわれたのですはわ」
「ああ。そうか、見目も性格も暗いリディアだからな、俺達の輝きに眼がくらんでも仕方があるまい」
くだらない話で、盛り上がる二人を置いて、私は速足に王宮の廊下を出て行く。
この廊下は、王族の執務室と各王族が住む宮、家臣たちの職場がつながる廊下で、人通りがとても多い。
頑張れ私!
あと3か月の我慢だ、あと少し。
私は3か月後に18歳となる。
そして18を迎えたその瞬間、自分の意思で貴族籍を抜け、キース殿下との婚約も白紙にする予定だ。
資金も貯めたし、住む場所も決めている、仕事はまあこれから探すけど、きっと何とかなる。
お父様には、迷惑をかけると思うけど…………。
お母様にはこっそり相談して、了承も貰っているし、キース様の新しい婚約者は、マーラ様になるだろうし、まあみんな幸せになれる。
いろいろ考えながら、馬車寄席にたどり着くと………また家の馬車がない。
「もーいい加減に、どうしようもない、いたづらやめてよー」
思わず大声で叫ぶと、大きくて立派な馬車が私の前に停まった。
馬車の窓が開き、ラドルファス様が顔を覗かせる。
「やあ、リディアどうしたんだい?一人?」
「はい。本日の授業を終えて、帰るところなのですが…………。」
「もしかしてキースか?まだそんな、子供じみたことをしているのか?」
「はい、王宮に訪れるたびに毎回です。まあ侯爵家の従者も承知でしょうから、少し歩いた先で、待っていてくれると思いますので」
「いや、今まさにグレイ侯爵家から続く道を通り、こちらに来たが、馬車など無かったぞ」
「はあ…………。今日は、慣れていない者だった様です」
でももう、今日はキース様の顔を見たくない!
キース様は、いつも我が侯爵家の馬車を先に帰し、仕方ない送ってやると、王宮の馬車を出してくれるのだが、馬車に乗っている間中、私への不平不満をっしゃべり続け………本当に辛い。
私は、ぎゅっと拳を強く握る。
「それではラドルファス様、私は先を急ぎますのでこれで失礼します」
「いやいやいや。待ってくれリディア、もしかして歩いて帰るつもりかい?」
「はい。歩いても一時間もかかりませんから」
慌てて馬車から降りて来た、ラドルファス様を見上げてほほ笑むと、ラドルファス様が破顔した。
「リディア。侯爵令嬢を、歩いて返す訳にはいかないよ」
ラドルファス様の大きな手が、私の頭を撫でる。
むむ。
いつもラドルファス様は、私を子ども扱いして…………。
「あの、私もあと少しで18歳です。成人貴族です、一人で帰れますし、一刻も早く王宮から出たいのです…………。」
ラドルファス様に、勢いよく噛みついたものの、最後は失速。
ただただ、キース様に会いたくない。
「わかったわかった。俺の用事は今日でなくてもいい、直ぐにリディアを送ろう」
「いえいえ、プライス公爵令息様のお仕事を、邪魔するわけにはいきませんので」
私が歩き出そうとすると、今度はがっしりと腕を掴まれた。
「リディア、仕事の邪魔をしたくないのも、王宮で待ちたくないのもわかったから、これでも読みながら俺の馬車で待っていろ」
どこから出て来たのか、私の好きな作家の小説を取り出し、ポンと私の頭の上に本を置くと、ラドルファス様は、「すぐ戻る」と手を振り去って行く。
「もう」
私は本を手に取り、深くため息をついた。
「リディア様、どうぞ中でお待ちください」
プライス公爵家の従者に促され、私は重い足取りで馬車に乗り込んだ。
座席に腰を下ろして、少し外を眺めてから、お借りした本に眼を落とす。
ページをめくると、馬車がガタガタと揺れ、慌てた様子のラドルファス様が、馬車に乗り込んできた。
「ハンス!直ぐに馬車を出せ」
「畏まりました」
馬車が、ゆっくりと走り出す。
「走ってこられたのですか?」
ラドルファス様の額に、汗がにじんでいる。
「ああ。できるだけ早く王宮から出たかったのだろう?」
ハンカチを取り出し、ラドルファス様の額を拭う。
「ふふふ」
「なんだ、リディア!何がおかしい」
「いいえ、嬉しいのです。ラドルファス様が子供の様で」
「なんだとリディア!俺の方が6歳も年上なんだぞ」
「ふふふ」
あー、この方が、王太子であったなら…………。
ラドルファス様は、キース様の腹違いの兄だ。
王妃様は婚姻後、数年間も子宝に恵まれず、後継者を切望する王家は、隣国の第8王女だったライラック様を側室に迎える。
ラドルファス様のお母様だ。
ライラック様は嫁いで直ぐに、子宝に恵まれて、無事にラドルファス様を出産されたが、産後の肥立ちが悪く、命を落とされた。
透き通るような白い肌と、サラサラの黒髪が美しい綺麗な方だったと聞く。
王太子となるのは、ラドルファス様で決まりだとささやかれ始めた頃、王妃様はついに身ごもり、キース様をご出産される。
まだ、幼子であったラドルファス様は、味方であるお母様も居ない中、この伏魔殿の様な王宮で………苦しかっただろう…………。
ラドルファス様は、成人になるとともに、ライラック様のお姉さまが嫁がれた、プライス公爵に養子に入っることで王席を抜けた。
ふとよぎった悲しさに、馬車の空気が重くなる。
ラドルファス様が、ハンカチを握りしめる私の顔を訝し気に覗き込む。
「どうした?具合でも悪いか?」
顔の近さに、思わず顔が熱くなる。
「いえ、大丈夫です。ただ…………。」
「ただ?」
「ラドルファス様は、乙女な趣味を、お持ちなのだなと思いまして」
私は先ほどお借りした、ロマンス小説を、ラドルファス様に両手で突き出して、にんまりと笑う。
「いやこれはだな~。この作家、リディアが好きだと、侍女殿から聞いたのでだな」
シドロモドロする、ラドルファス様がかわいい。
「私の侍女を、口説いたのですか?」
ラドルファス様の顔が赤く染まる。
「ななな そんなことするはずがない!俺は好きな人に誠実なのだぞ」
「はい。わかりました侍女には、そのように伝えておきます」
「こらリディア!」
ラドルファス様に頬をつままれる。
「痛いです~」
馬車の中で、じゃれ合っていると突然、馬車のドアが開いた。
「あらあら、まあまあ。相変わらず仲がいいわね」
「グレイ侯爵夫人!」
ガン!!
ラドルファス様が、お母さまに驚いて立ち上がり、頭を馬車の天井にぶつける。
「いたたたた」
頭を、ガシガシと撫でるラドルファス様に、お母様が声をかける。
「侯爵家の馬車が戻ってしまったから、リディアを送ってくれたのでしょう?良かったら、ディナーも一緒にいかがかしら、いいお肉が手に入ったのよ」
「喜んで、同席させていただきます」
お母様とラドルファス様は、楽しそうに腕を組んで邸に入って行く。
「もう。置いていかないでよ」
私は急いで、二人の背中を追った。
✿ ✿ ✿
ラドルファス様 視点
俺はキースが、婚約者候補の令嬢と顔合わせをすると聞き、会場である中庭を訪れた。
一足、遅かった様で、令嬢の姿は無かったが、王妃様とキースがいた。
「キース、リディアのことは気に入った?あの子の魔力量は国一番よ、絶対に王家に向かえ入れなければならないわ」
「母上、あの血の様な(僕の大好きな)頭の令嬢ですか(ラスベリー色の髪)?魔力が多いと言うならば、仕方がありませんねあの髪に触れてみたい」
「まあまあ。難しい年頃ね」
王妃様が、キースの表情を伺いながらクスクス笑う。
キースは、表情を崩すことなく、王妃様から眼をそらして横を向いた。
「それに、魔力量であれば、兄上の方が上でしょう」
「キース!あの者を、兄上と呼んではならないと、何度言ったらわかるのです」
キースは、少しだけ顔をゆがめて俯く。
「はい……母上」
王妃様は、やはり俺のことは疎ましい様だ。
ふと目線を横に移すと、少し離れた植木の横に、艶やかな赤い髪を、ツインテールにした、10歳くらいの令嬢が、驚いた表情のまま立っていた、彼女の後ろには、大きなプレゼント用の箱を持つ侍女の姿。
おや? あれがグレイ侯爵家の令嬢か?
それにしても、美しい髪だな………。
令嬢の髪に見惚れていると、その髪色は、みるみる暗いこげ茶の様な色に変わり、令嬢はドサリとその場で倒れた。
!!
急いで駆け寄り、おろおろする侍女に声をかける。
「彼女は持病でもあるのか?」
「いえ、病気などお持ちではありません、キース殿下にお持ちしたプレゼントを、馬車に置き忘れており、届けに戻ったところで…………。」
「先ほどの、キースの言葉を聞いたのか?」
「はい」
「お嬢様は驚かれて…………。」
侍女も俺と同じくらいの年齢か……女性では10歳の令嬢と、荷物を同時に抱えていけないだろう。
「私が、彼女を抱えてもいいか」
「ありがとうございます。助かります」
彼女を抱き上げると、無意識だろう………俺の上着を小さな手が、ぎゅっと握りしめる。
はあ。彼女の魔力はなんて暖かなんだ。
令嬢からあふれ出る魔力は、とても柔らかくて心地いい。
「馬車まで送ろう」
「こちらでございます」
侍女について、侯爵家の馬車にたどり着いたが…………眠ったままの令嬢は、俺の上着を握ったまま離さない。
仕方なく、俺も馬車に乗り込み、侯爵家まで彼女を送った。
それが縁で、リディアとは仲良くなった。
心配で、次のお茶会に俺も同席したが、キースの天邪鬼ぶりは酷かった。
リディアの髪を掴んで悪態をつき、虫を投げる。
そんなキースと、健気に向き合おうとするリディアに、俺の心はどんどん引き寄せられた。
…………でもリディアは、キースの婚約者、俺は見守るだけ。
そう言い聞かせてもう……8年か、リディアが成人となれば、正式にキースとの婚姻が、結ばれるだろう。
それにしてもキースの奴、未だに子供みたいな方法で、リディアの気を引こうとしてるのか…………。
困った奴だな。
✿ ✿ ✿
「きゃーーーー。ついに18歳の朝を迎えたわー」
私は大声で喜びを叫び、ベッドの上で渾身のガッツポーズを決める。
さて、今日中にいろいろな決着をつけるわよ。
まずは、お母様に手続きが済んだか確認。
「まあまあ。私の娘は寝間着のまま、朝から何を叫んでいるの?」
「わー。お母様、ちょうどお母様の所に伺おうと思っていたんです」
「あら。寝間着のまま?」
「違います、ちゃんと身支度を整えてです」
私が、ぷくりと膨れると、お母様は私を優しく抱きしめた。
「…………あんなに小さかったリディアが、もう大人になったのね、お誕生日おめでとう」
「お母様…………。」
お母様の背中に手を回し、ぎゅっと抱き着く。
「ふふふ。さあ!」
お母様は大きな声と共に、私を引きはがし、両手で私の顔を挟む。
「ご所望の書類は、あなたがサインするまでに整えてあるわよ」
お母様付きの侍女が後ろから現れ、テーブルに書類を並べる。
「さあ、ここにサインして」
「はい。お母様」
私は元気よく返事をして、お母様が指さす場所に、サラサラとサインをする。
「まあまあ。まだまだ子供ね、さあみんな、今日はリディアの晴れ舞台だから、入念な準備をお願いね」
「はい。奥様」
ん?まだまだ子供?
「さあ!お嬢様こちらに」
「ちょっとお母様!いま何か」
お母様の言葉が気になったけれど、私は侍女の集団にあっという間に拉致されて、夜会の入念な準備に取り掛かった。
✿ ✿ ✿
今回の夜会も、キース様からは、ドレスもアクセサリーも送られていない。
私は自分で準備した、ライトグリーンにはちみつ色を差し色にした、シンプルなドレスに身を包む。
髪は一筋だけ片側へ降ろした。
「よし!出撃」
両親と共に、夜会の会場に足を踏み入れる。
早速、会場の奥から、お揃いの青い衣装に身を包んだ、キース様とマーラ様がやってくる。
「リディア!なんだそのグリーンの衣装は!どうして俺の瞳の色である、青いドレスを着てこない」
「キース様からは、虫や蛇の死骸以外に、贈り物をいただいたことがありませんので、自分の好きなドレスを着てまいりまいた」
私達の会話を聞いて、周囲の貴族達がざわつく。
お父様も、さすがに顔をしかめる。
「リディア!お前も素直に私に甘えれば、マーラの様に(本当はリディアに)ドレスやアクセサリーを送ってやるのに(送りたいんだ)」
「キース殿下、私のことはお気になさらず、お二人で夜会をお楽しみください、夜会の後に少しばかり、私にお時間をいただければと思っております」
「そうですわ、キース様♪リディア様などほっておいて、ふたりで夜を楽しみましょう」
マーラ様が、キース様の腕にさらに自分の身を寄せる。
「リディア、その様な態度であるならば、婚姻は結ばないぞほら泣きついて来い」
キース様!今、婚姻しないと言った♪
「はい。承りました」
会場のざわめきが、ひと際大きくなる。
私は飛び跳ねそうな勢いで、キース様との距離を詰め、その手を取る。
「キース様。私は今日で18歳となりました!成人貴族です。成人となれば自分の意思で家を出ることが出来るのです。私は本日、グレイ侯爵家を出る手続きを済ませました!」
ポカンとする、キース様の腕を上下に振る。
「ですのでですので!キース様との婚姻も、白紙にしていただいて大丈夫です♪ちょうど、夜会の後お時間をいただき、そのお話しをするつもりでおりましたから」
マーラ様に眼を向けると、口をあんぐりと開けている。
あら、マーラ様。皆さんに見られていますのに、お口を閉じた方がいいですよ♪
「お二人の衣装♪お揃いでお似合いですね~。どうかお幸せに」
私はキース様の手を持ち、マーラ様の手に重ねる。
やったー。
私は大きく背伸びをした。
みんなの前で宣言したんだもの、これでもみ消される心配はなしね!
私は、会場をぐるりと見回す。
「それでは皆様、ごきげんよう」
完ぺきなカーテシーを決めると、踵を返して出口へ向けて駆けだした。
やった♪やった♪
足早にホールを抜け、馬車寄席に向かう私の腕を、誰かが掴む。
振り返ると、ラドルファス様の真剣な眼差し。
「リディア。侯爵家を出るのか?」
「はい。平民になろうと思います、今朝、お母様に手続きを済ませていただいたので、実は既に平民なのですが」
ニッコリ笑うと、ラドルファス様の大きな手で、がっしりと顔を掴まれた。
「俺も一緒に行く」
!!!
今、何と?
「ランドルフ様も、平民になるおつもりですか?」
「ああ。お前が王妃にならないのなら、俺がそばに居てもいいか?」
あぁ。
ランドルフ様の言葉に、胸が熱くなり、魔力が溢れだす。
!!!
視界にある私の髪が毛先に向けて、こげ茶から鮮やかな赤色に変化していく。
「リディア」
ため息と共に、ラドルファス様が私の名前をつぶやき、肩にかかる私の髪を手に取る。
「もどったんだな…………。」
ああ…………私、元の自分に戻れたんだ…………。
嬉し涙が零れそうになり、慌てて上を向くと、深く静かな紫色の瞳。
……………………ラドルファス様。
「リディア!!!!!」
大きな声に振り向くと、キース様が、髪を振り乱して走ってくる。
ややや!
キース様!今、良いところだったんですよ!
キース様は、そのままの勢いで私に抱きついた。
受け止めきれない私は、キース様と一緒に床に転がる。
「リディア、良かった、髪の色!元に戻った!リディア!良かった」
んんん?
倒れたまま、キース様にぎゅうぎゅうに抱きしめられている。
何がどうした!
「おい、キース離れろ」
ラドルファス様が、キース様を私から引きはがす。
「兄上、これは俺とリディアの問題だ」
誰だこれ!
「あのあの!先ほど、王太子殿下との婚約は、白紙になりましたよね、殿下が婚姻は結ばないと宣言され、私はそれを承諾しました」
「それは、俺の本意ではない」
「ええ!今まで王太子殿下は、散々私に、酷い言葉を浴びせたではありませんか!お茶会では、必ず虫のプレゼント!ここ数年は、マーラ様を連れ歩き、私よりマーラ様の方が、自分にふさわしいと!おっしゃっていたではありませんか」
「それは俺の本意ではない、母上が好きな女性には、優しくしすぎるなと…………。」
キース様は、私に震える手で何かを差し出した。
私の手の中に、コトリと落ちて来たのは、子供がつける小さな髪飾り、クマの形をした青色の大きな石が付いている。
「これは……?」
「リディアに初めて会った日、俺の好きなラズベリーみたいに、かわいい髪の色だと思った………この髪飾りなら、赤色の髪に似合うだろうと思って選んだのに………。」
キース様は、ボロボロと大粒の涙を流す。
「次に会った時、リディアの髪は!焦げ茶色になっていた…………。」
私は眼を閉じて、大きく息を吸う。
「王太子殿下、私はあなたに始めてあった日、血の様な髪色だと……魔力が多いから選ばれたのだと、話しているのを聞いたのです…………。」
キース様の涙は止まり、驚きで眼が大きく開く。
「それは違う。母上に、リディアを見て、凄くかわいいと思ったことを悟られたくなくて」
「私は、王太子殿下と王妃様の会話を聞いて、王宮の庭先で意識を失いました。悲しさや不安が膨らんで、感情のコントロールがうまくできずに、魔力が暴走しかけたのだと思います」
私は、ラドルファス様を見上げる。
「その時私は、眠っているような状態で、はっきりおぼえていないのですが、王宮のどなたかが私を助けてくれたのです」
キース様が、私の腕を掴む。
「リディアァ……もう二度と間違わない、だから…………。」
私は、大きく首を横に振る。
「王太子殿下、放たれた言葉の裏に、違う意味があったとしても、耳に届いたのは、私を罵る言葉ばかりです」
「違うんだリディア」
私は、キース様の手をそっと握り自分の腕から離す。
「王太子殿下のこと、好きでしたよ私。でも好きな気持ちは、陛下から放たれたの沢山の言葉で、すっかり枯れて無くなってしまいました」
「リディア、素直になれなかったんだ、謝る。今までの俺の行いを全て、だから…………。」
私はドレスのポケットから、小ぶりなハンカチを取り出した。
キース様の眼の色をした青い鳥が、私の眼の色であるはちみつ色の葉を咥えている。
10歳の時に、私が刺した刺繍だ…………ところどころ縫い目が荒い。
「これ、私もあの時…………王太子陛下に、お渡ししたかったものの一つです」
ぐずぐず泣いている、陛下の頬をハンカチで拭う。
「王家の皆様には、多くのことを学ばせてもらいました、今までありがとうございます」
「リディア……俺にもう一度チャンスをくれ」
キース様が、私の手を握る。
「王太子殿下、一度放たれた言葉は、取り消せないのです、王族であればなおのこと」
「リディア」
後ろからの声を見上げると、王妃様が立っていた。
「王妃様…………。」
「私の言葉も、リディアを傷つけていたのね…………キース立ちなさい」
「母上」
「さあ。リディアの旅立ちを、祝福するのよ」
「リディア…………。」
キース様は、ハンカチをぎゅっと握りしめる。
「……………………。」
「リディア。今まで傷つけてごめん。リディアの…………新しい道を応援する」
私はクマの髪飾りを、パチンと髪にとめる。
「謝罪を受け入れます。キース様も頑張ってください」
「わあー。リディア!」
また、私に抱きつこうとするキース様を、王妃様が「リディア、謝罪はまた今度ちゃんとするからね」と言いながら回収していった。
……………………。
ラドルファス様が、ガシリと私の肩に手を置いた。
「我が弟ながら、気概が無い奴だな、叩き直してやらないと」
そう言いながら、ラドルファス様は、私の髪からクマの髪飾りを外して、自分のポケットにしまう。
ん?あれ?
直ぐ隣のラドルファス様を見上げる。
「…………いや。髪飾りは新しいものを俺が買う」
「ラドルファス様。私本当に平民なんですよ」
「じゃあ、俺も平民になる。見守るだけじゃなく、リディアの側に居たいんだ」
ラドルファス様は、私を強く抱きしめた。
同時にラドルファス様の暖かな魔力が流れ出す。
はあ~。暖かい。
思わず、ラドルファス様の背中に手を回しそうになる………ダメよリディア!
ラドルファス様は、王兄で公爵様!
平民にするわけにいかないわ!!
溢れる思いに蓋をして、ラドルファス様を見上げると!!!!
「髪が黒い!」
あの見事なブロンドの髪が…………つややかな黒髪に変わっている。
「いや平民になるなら、俺も元の自分に戻ろうと思って」
んんんん?
?がいっぱい頭の上に浮かぶ私の顔を見て、ランドルフ様は声を上げて笑う。
「はははは。俺は元々、母上譲りの黒髪なんだ。母上が産まれて直ぐ、俺の髪色は、この王宮では疎まれるだろうと、少しばかりしか無い魔力を注いで、俺の髪色を王家と同じブロンドに変えた」
「やー。では、お母様の残した大切な思いが!」
私は、ラドルファス様の胸座を掴む。
「いや、母上の思いはちゃんとここにある」
ラドルファス様は、私の掴んだ手ごと包んで、自分の胸を叩く。
「それに王家からはすでに出ている」
「……………………。」
「俺は本当の自分で、リディアの隣にいたいんだ。黒髪は嫌か?」
「…………黒髪の方が素敵です…………。」
呟くとともに、私の足は床から離れて宙に浮く。
ラドルファス様は、私を持ち上げてくるくる回ってから、腕の中に私を閉じ込めた。
「じゃあ。一緒にいてくれる?」
「ひゃい。ラロルファシュしゃま……かおぎゃつぶれいぇて」
「リディアすまない、つい嬉しくて」
ラドルファス様は、私の頬を両手で包む。
「もう一度、聞いていい?」
私はこくりと頷いた。
「俺とずっと一緒にいてくれる?」
「はい」
「よーし。善は急げだ、これからのことを相談して、もろもろ片付けないといけない話もあるから、とりあえずプライス公爵家に向かおう」
ラドルファス様に手を引かれて、プライス公爵家の馬車に向かうと、お母様とプライス公爵夫人が待っていた。
「もー待ちくたびれたわよ」
「本当に、妙な邪魔が入るからよ」
お母様達は、腕を組み仁王立ち。
「母上、俺はリディアの婿になって平民になります」
プライス公爵夫人が静かに扇をひろげる。
「あらあらまあまあ。勝手な事を言わないで、あなたはプライス公爵の跡取りなのよ、それにもうルソー伯爵家のご令嬢と、婚約を結ぶ約束をしてるの」
!!
「プライス公爵家には、恩義を感じていますが、人生の伴侶は自分で決めます」
ラドルファス様が、公爵夫人に詰め寄る。
お母様が、ニコニコしながら私に近づき、後ろから両肩をガシリと掴む。
「まあまあ。ラドルファス様はせっかちね、ルソー伯爵家は私の実家なの、今度私に新しくできた、妹のリディアを嫁に出したいと思っていたのだけど………ダメかしら?」
ええええ。
いつの間に、私はお母様の妹?
「あのあの、お母様。私は今朝、貴族籍を抜く手続にサインをしたのでは?」
お母様は、ラドルファス様に私を押し付けて、ニヤリと笑う。
「あなたが今朝サインした書類は、これよ!」
お母様の差し出す書類には、私とハリー伯爵との養子縁組の記された書類。
「ふふふ。まだまだ子供ね」
「お母様のことを、信頼していたのです」
お母様は、私のおでこを、パチンと弾く。
「それはダメよ~リディア!どんな人が差し出す書類でも、ちゃんと内容は確認しないとね」
「ほほほほほほ~」
高笑いするお母様…………。
ポカンとする、私とラドルファス様の腕を、プライス公爵夫人が掴む。
「さあさあ。私にも可愛い娘が出来て嬉しいわ、ひとまず家に行きましょう」
私とラドルファス様は、あっという間に公爵家の馬車に詰め込まれた。
✿ ✿ ✿
その後は、お母様達の手のひらで、コロコロ転がされて、とんとん拍子に話は進み。
ついに明日は婚約式。
「いやしかし、母上たちにはかなわないな」
夜空を見上げながら、にやにやしているラドの顔を睨む。
「もしかして、いろいろ知らなかったのは、私だけ?ラドはお母様と、仲良しだものね!」
私が頬を膨らませると、ラドは私の頬をぷすりと指で凹ませる。
「いやいや、詳しくは知らなかった。リディアが平民になるなら、俺もなると本気で思った」
ジト目でラドを見つめる。
「いや本当だって、まぁ…………倒れたリディアを連れて行った日から、グレイ侯爵には、万が一にもリディが、王太子妃の座につかない事態になれば、俺にリディを下さいと、何度もお願いはしていた…………。」
「!!私の倒れたあの日に?!」
ラドはガシガシと頭を掻いて、恥ずかしそうに笑う。
「リディ」
ポケットをゴソゴソと探り、何かを取り出すと、ラドはそれを私の髪にとめる。
ん?髪飾り?
手に取ると、黒金でできた花の細工に、アメジストが、ふんだんに散りばめられた、見事な髪飾り。
「明日のドレスに、合うと思う」
私は、ラドの顔を両手で引き寄せ、おでこにキスをする。
ラドの顔が、みるみる私の髪と同じ色に変わる。
「はは♪やったー」
「リディ!もう容赦しないぞ」
「きゃー助けて~♪」
私は、テラスから部屋の中に駆け込んだ。
私もラドも、自分の色を取り戻し、幸せになれそうです。
~ 終わり ~
(*''ω''*)




