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スパルタ少女

森の奥へ進むほど、空気が重くなっていった。


 湿っていて、息苦しい。肌にまとわりつくような不快感。


 明らかに、さっきまでとは違う。


「……ここ、危険度上がってないか」


 思わず口にすると、


「当たり前でしょう」


 前を歩く銀髪の少女が、振り返りもせずに言った。


「安全な場所に連れてきてどうするの」


「……いや、それはそうだけど」


「文句があるなら帰りなさい」


 ぴしゃりと言い切られる。


 帰る場所なんて、もうない。


「……ないよ」


「なら黙ってついてきなさい。遅いわよ」


 足取りは軽い。


 対してこちらは、息が上がり始めていた。


「はぁ……っ、はぁ……」


「情けないわね。歩くだけでそれ?」


「場所が悪いんだよ……!」


「環境のせいにするのは楽でいいわね」


 淡々とした声。


 責めているというより、本気でそう思っている感じがする。


 しばらく進んだあと、少女が足を止めた。


「ここでいいわ」


「……何が?」


 その瞬間、草むらが揺れた。


 反射的に振り向く。


 魔物だ。


 さっきのよりも明らかに大きい個体。


「……いるぞ」


「見えてるわ」


 あっさりと返される。


「じゃあ――」


「あなたがやりなさい」


「……は?」


 思考が止まる。


「いや、無理だろ」


「どうして?」


「どうしてって……分かるだろ」


「分からないわね」


 少女は腕を組んだまま、こちらを見る。


「弱いから無理? だから何?」


 言葉が詰まる。


「さっき言ったでしょう」


 一歩、距離を取る。


「生きたいなら、自分で覚えなさいって」


「いきなりは無理だ!」


 思わず声が荒くなる。その声に魔物が反応したのがわかった。 魔物が低く唸る。距離が、確実に詰まってきている。


「うるさいわね」


 少女は小さくため息をついた。


「いい? 一度だけ説明するわ」


「……っ」


「魔術はイメージと制御。詠唱はただの補助」


 淡々と、しかしはっきりとした口調で彼女は言う。


「火を出したいなら、火を“作る”んじゃない。“そこにある”と認識しなさい」


「……意味分かんねえよ」


「理解できないなら、そのまま死ぬだけよ」


 冷たい。


 けれど、目は逸らさない。


「来るわよ」


「っ――!」


 次の瞬間、魔物が飛びかかってきた。


 反射的に横へ転がる。


 牙がすぐ横をかすめた。


「くそっ……!」


「避けることはできるのね」


「余裕あるなら手伝え!」


「どうして私が?」


 即答だった。


「これはあなたの問題でしょう」


 言い返せない。


 魔物が再び向かってくる。


 逃げ場はない。


 やるしかない。


「……火だ」


 息を整える。


 頭の中に、炎を思い浮かべる。


 揺れる熱。赤い光。


「そこにある……」


 言葉にする。


 魔物が迫る。


 怖い。足が震える。


 でも――


「出ろッ!」


 手を突き出す。


 ――何も起きない。


「……っ!」


 直後、身体が弾き飛ばされた。


 地面に叩きつけられる。


「がっ……!」


 息が詰まる。視界が揺れる。


「ほら、できないじゃない」


 少女の声が落ちてくる。


「だから言ったでしょう。才能がないって」


「……まだだ」


 歯を食いしばる。


 立ち上がる。


 膝が震えている。


 それでも、倒れない。


 魔物が近づく。


 終わりが、すぐそこまで来ている。


「もう一度」


 少女の声。


「イメージが浅いの。見たことあるでしょう、火くらい」


「……ある」


「なら思い出しなさい。熱も、光も、全部」


 心臓の音がうるさい。


 それでも、目を閉じる。


 焚き火。燃える薪。


 肌を刺す熱。


「……そこにある」


 呟く。


 今度は逃げない。


 目を開ける。


 魔物が、目前にいる。


「――ッ!」


 手を突き出す。


 その瞬間。


 ぱちり、と小さな音がした。


 指先に、火が灯る。


「……っ!」


 ほんの一瞬の火花。


 それでも確かに、“出た”。


 魔物がわずかにひるむ。


 その隙に後ろへ飛び退く。


「今の……!」


「遅いわね」


 少女の声。


「でも、ゼロよりはマシ」


 ほんのわずかに、評価が混じる。


「続けなさい」


 静かに告げる。


「止まれば死ぬだけよ」


「……分かってる!」


 息を吸う。


 恐怖も痛みも、全部押し込む。


 ここで終わるわけにはいかない。


 フィルスは、もう一度手を突き出した。

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