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出逢い

その日、フィルス・ファンデルトは仲間に切り捨てられた。


「結論から言う。フィルス、お前はここまでだ」


 淡々と告げたのは、パーティのリーダーだった。


 焚き火の向こうで腕を組み、まるで荷物を一つ処分するみたいな顔をしている。


「理由は分かるよな?」


「……魔術が使えないから、だろ」


「それ以外にあるか?」


 周囲から小さな笑いが漏れた。


「詠唱は噛む、魔力は足りない、成功率はゼロ」

「ここまで何もできないの、逆にすごいよな」


 言葉が、順番に胸に突き刺さる。


 全部、事実だった。


 誰よりも練習した。寝る時間を削って、何度も詠唱を繰り返した。


 それでも――一度も、まともに発動したことがない。


「でも、雑用はやってただじゃないか!」


 気づけば口を開いていた。


「見張りも、荷運びも、地図の確認だって……俺が――」


「だから?」


 リーダーは、あっさりと遮る。


「戦えない奴は、ここじゃ意味がない」


 その一言で、全部終わった。


「……ここ、魔物の縄張りだぞ」


「知ってる」


 即答だった。


「だからだよ」


 理解するのに時間はかからなかった。


 ――ここで死ね、ってことか。


 荷物の一部が足元に放り投げられる。


 水と、乾いたパンだけ。


「じゃあな、フィルス」


 誰一人として振り返らず、仲間だったはずの連中は森の奥へ消えていった。


 足音が遠ざかる。


 やがて、完全に聞こえなくなった。


「……はは」


 乾いた笑いが漏れる。


 怒りも、悔しさも、出てこない。


 ただ――空っぽだった。


「終わり、か」


 その場に座り込む。


 どれだけ頑張っても届かなかったものが、全部どうでもよく思えてくる。


 その時だった。


 背後で草が揺れる。


 振り返る。


 黒い影が、ゆっくりと姿を現した。


 魔物だ。


 濁った目が、真っ直ぐこちらを見ている。


 空腹なのが分かる。逃げ場はない。


「……来るよな」


 当然だ。


 人間が一人、無防備でいればこうなる。


 立ち上がる。


 足が震えている。


 それでも、剣を構えた。


 やるしかない。


「――っ、火よ……」


 詠唱を試みる。


 だが、言葉が途中で止まる。


 頭では分かっているのに、形にならない。


 何度やっても同じだった。


「くそ……!」


 魔物が飛びかかる。


 視界いっぱいに牙が迫る。


 ――死ぬ。


 そう思った、その瞬間。


「うるさいわね」


 少女の声が、空気を裂いた。


 次の瞬間。


 目の前の魔物が、何もかも“消えた”。


 血も、肉も、痕跡すら残らず。


「……は?」


 理解が追いつかない。


 ゆっくりと顔を上げる。


 そこにいたのは――


 銀髪の少女だった。


 年は十五くらい。細い体に、不機嫌そうな表情。


 だが、その場の空気だけが明らかに違っていた。


「まだ生きてるの?」


 興味なさそうに言う。


「……ああ」


「ふーん。しぶといじゃない」


 どうでもよさそうに肩をすくめる。


 そして、そのまま背を向けた。


「じゃあ、勝手に生きなさい」


「……待ってくれ!」


 思わず声が出る。


 少女の足が止まる。


「なによ」


「今の……あんたがやったのか」


「そうだけど」


「……魔術じゃないよな」


 詠唱もなかった。動作もない。


 あんなもの、見たことがない。


 少女は振り返り、少しだけ眉をひそめた。


「当たり前でしょ。あんなの魔術じゃないわ」


「じゃあ……」


「魔法よ」


 さらりと言い切る。


 伝承でしか聞いたことのない言葉。


 けれど、目の前の現実が、それを否定させてくれない。


「で?」


 少女がじっとこちらを見る。


「それがどうしたの」


「……教えてくれ」


 喉が乾く。


 それでも、言葉は止まらなかった。


「俺に、その力を教えてくれ!」


 一瞬の沈黙。


 少女の目が、わずかに細められる。


「はあ?」


 露骨に呆れた声だった。


「無理に決まってるでしょ。あんた、才能ないじゃない」


 胸に突き刺さる。


 それでも――引けなかった。


「それでもいい!」


 叫ぶ。


「このままじゃ、死ぬんだ!」


 沈黙が落ちる。


 少女はしばらく、フィルスを見ていた。


 値踏みするように、じっと。


「……バカね」


 ぽつりと呟く。


「弱いんだから、死ぬのは当たり前でしょ」


 冷たい言葉。


 けれど――


「生きたいなら」


 一歩、近づいてくる。


 そして、まっすぐフィルスを見た。


「自分で覚えなさい!」


 強く、言い放つ。


「私は面倒見ないし、優しくもしない。助けもしない」


 指を突きつける。


「それでもいいなら、ついてきなさい」


 くるりと背を向ける。


「来ないなら、そこで死んでなさい」


 歩き出す、小さな背中。


 迷う理由なんて、なかった。


「……行く」


 声が出る。


 足が動く。


 ここで終わるのは、嫌だった。


 何もできないまま、何も残せないまま終わるのは。


 絶対に、嫌だった。


 フィルスは立ち上がり、銀髪の少女の後を追う。


 その背中を見失わないように、必死に。


 ――まだ、終わらせないために。

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