第8話 ダンジョン実習とロイドのレベリング〜なぜか邪竜が出ましたが消し飛ばしました〜
「やっぱり2人だけになってしまったわね」
「足を引っ張らないように頑張ります!」
学園内ダンジョン実習の初級ダンジョン1階層目、ロイドは気合い十分なようだ。
教師の話によると10階層あたりでレベル10の魔物が出てくるらしく大半の生徒はそこまでの攻略らしい。
「グレイドさんたちは転送装置で10階層からスタートしてましたね」
「あのレベルならそうなるのかしら」
ジェイスは私を見るなりグレイドの陰に隠れてしまった。多少やり過ぎたのかもしれない。
それにしてもウィル王子は何もしてこない。やはり第二王子という立場上、あの2人より下手な行動はできないのだろうか。
「それにしてもダンジョンは狭い迷宮みたいな場所とばかり思ってましたが本当にこんな草原もあるんですね」
「ええ。授業でも聞いたけど実際に見ると驚くでしょう?」
私はダンジョンについてある程度本物を体験している分、新鮮味はないがロイドの反応は面白い。
正直ダンジョンや魔法関連の座学は退屈になるかと思っていたがロイドが隣の席にいるため飽きはこないのだ。
「あっ、スライムがいますね。レベルは1か」
「ロイドでも倒せるわ。放課後の剣術訓練と同じようにすれば大丈夫よ」
「はい!」
ロイドが剣を構え、スライムに斬りかかっていく。動きの鈍い魔物だし、しっかりと核を攻撃できればほぼ一撃で倒すことが可能だ。
予想通り、しっかりと討ち取ってロイドは戻ってきた。
「どうでしょうか?」
「うん、いいわね。身体強化もしっかりできて、剣筋も安定していたわ」
「やった! これなら今度ライネス兄さんに会ったときに褒めてもらえるかも」
「そうね。でも意外だったわ、ライネスと兄弟だったなんて」
放課後の剣術訓練でロイドが誰から剣術を習ったのかと聞いたところ、なんとあの騎士団精鋭部隊隊長のライネスの話が出てきたのだ。
ライネスはロイドと15離れた兄弟で護身のためにと剣術を教えていたようである。
「その節はライネス兄さんとフィリーネさんがお世話になったようで……本当にありがとうございます」
「いいのよ。気にしないで」
「だってエクスポーションですよ? 王国でもそんなに流通してなくて王城にいくつかあればいい方なのに」
「私にとってはダンジョンで取れる水分補給用くらいのものなんだけれど」
「本当にとんでもないですね、アリーシャさんは」
「そうなのかしらね? まあいいわ、魔石を回収しましょう」
ある程度の魔石かダンジョン内で手に入れたアイテムを持って帰ることがダンジョン実習の主な内容である。正直なところ魔石でいいのであれば後何体かスライムを狩れば達成になる。
「うーん、レベルってなかなか上がらないんですね」
「そうかもしれないわね」
義眼に組み込んだレベル測定回路で測ってみてもロイドのレベルは1のままだ。
「僕もレベルを上げたいんですよね」
「ロイドは軍勢強化魔法での最後方からの支援でしょう? そこまで必要ないと思うのだけれど」
「ええ、でもみんなが前で戦ってるのに僕だけレベルが低いんじゃ申し訳ないじゃないですか。だからせめて自分を守れるくらいにはレベルが欲しいんです」
なんとも健気な心がけだ。だが私はレベルが上限値の身。この悩みに答えるのは難しい。
「あ、そうだわ。ロイド、これを身に着けてみなさい」
「これは指輪?」
「ええ。少し得られる経験値が増えるはずよ」
右手の小指に着けていた指輪をロイドに差し出す。これは私が経験値を求めて作った魔導具だ。
身に着けているだけで得られる経験値が増えるのだが作るのにはミスリル銀と高純度マナ結晶が必要だった。
「い、いいんですか!? こんな希少素材の塊を」
「構わないわ。まだ他にもあるから」
腕輪、アンクレット、首飾り、ピアスあたりに同じような経験値が増える効果をつけている。一つくらい減っても何とかなるだろう。
「わわっ、指輪の魔力回路に魔力が引っ張られる! えっーと、調整して……このくらいかな? 結構魔法に制限がかかりますね」
「あら? そんな構造になってたかしら?」
「僕の軍勢強化魔法が数人にしかかけられなくなるくらいですよ。そんなのを何個も平然と使ってるんですか……」
「魔力回路はなるべく整理したつもりだったのだけど」
「滑らかで膨大過ぎるんです。普通の人なら調整できずに魔力を回路に全部吸われて魔法が撃てなくなりますよ」
「たしかにそれは大変ね」
ロイドの口ぶりからするにやはりロイドは魔法の天才なようだ。……これをジェイスに着けさせたらどうなるだろう? いや、そもそも着けさせたくないか。
「ところで……魔物、倒してきてもいいですか?」
「そうね、先に進みましょうか」
私はもうレベルが上がらないし、このあたりの魔物で感じられる経験値は薄すぎる。それでもロイドのレベルが上がるなら、それはそれでいいか、とも思える。
――10階層
「本当に凄いですね、この指輪!」
「ロイドが頑張っているからよ」
ダンジョンを進み、魔物を倒している内にロイドのレベルは15になっていた。なかなか指輪の効果が大きかったように見える。
「このまま10階層のボス部屋まで行って帰りましょうか」
「はい! ボスはグレイドさんたちが倒してるでしょうし」
巨大な城のような構造の10階層を進み、ボス部屋を目指していく。だが進むごとに様子がおかしくなっている。戻ろうとしても戻れなくなっていたのだ。
「ロイド、このあたりから急に魔力が濃いわ。離れないで」
「は、はい」
この濃さは明らかに異常だ。転移石も試したが魔力に妨害されている。慎重に進もう。
「ん!? ロイドこれを持って!」
「わわわっ!」
即座に胸元から結界石を出しロイドに押し付ける。異常な魔力の中に濃い瘴気が混ざり始めたからだ。
「アリーシャさん! こ、これ!」
「生徒? 何か聞けるかもしれないわね。生きているなら返事をして」
「う、うあ……」
倒れている4人組の1人を揺すり起こす。どうやら生きているらしい。
「何があったの?」
「ボス部屋だ。そこに邪竜が出た。ウィル様たちは俺たちを逃がして戦っているんだ」
「邪竜ね」
「アリーシャさん、どうするんですか?」
「そうね、どっちにしても倒さないと帰れないわ」
ウィルたちに手を貸す形になるのは好ましくないが仕方ない。帰れなければ意味はないのだ。
「ロイドはここでみんなを手当てしてて」
「はい! あ、指輪を外して……僕の軍勢強化魔法を圧縮して全部をアリーシャさんに!」
「ありがとう、ロイド。行ってくるわ」
ロイドのくれた魔法は私の冷えた義肢に確かな熱をもたらした。魔力回路が生き物のように脈打っているかのようだ。万が一にも負ける気などしない。
――ボス部屋
「さて、王子様たちは……あそこね」
邪竜が3人組にブレスをぶつけている。どうやら王子様の光魔法で防御しているが反発する相性とはいえこのレベル差ではもうもたないだろう。
――スパァン!
「失礼、王子様。撤退した方が身のためですよ」
ブレスを斬って間に入り、一瞥くれて邪竜に向かう。なんでこんなところにこんな魔物が?
「王家の人間として臣下を置いて逃げるなど!」
「死にますよ。レベル20以下でレベル100の邪竜を相手にするなんて。動ける内に御三方で逃げなさい。……邪魔です」
「くっ」
すごすごと下がっていく3人組を尻目に邪竜との戦闘を開始する。
だが厄介だ、試しに魔力鋼弾を撃っても纏っている瘴気に邪魔され決定打にならない。ロイドの魔力で確実に威力が上がっているにも関わらずだ。
それならばとブースターで飛び上がり剣を振るうが、空中戦では邪竜に分がある。
しかし只のレベル100とは思えない。何かしらレベル以外で強化されている。誰かが召喚したか? 3人組への襲撃か? 分からないな。
だが義眼には嫌悪感のある魔力が感じられる。これはたしか、あの時の……
それはともかく、今のところ攻撃自体は全く痛くないがこれでは埒があかない。
「そうだ。義肢が強化されているならアレが撃てるかも」
物は試しだ。感覚的には大丈夫だと思う。丁度邪竜がブレスを構えた。チャンスだ。
「義手人差し指に全魔力を集中。全回路を集中配置、多重圧縮、発射準備完了……」
邪竜がブレスを吐いた。ならばこちらも。
「魔導砲・滅界」
――ピュイン……
――ゴァァァァァアアア!!
人差し指から放たれる極太の閃光と魔力の奔流がまたたく間にブレスを押し返し、ダンジョンの壁ごと邪竜を消し去った。
――バシュウウウウ……
「あら、排熱が追いつかなかったようね」
五指の第二関節と肘の緊急排熱口から白煙が噴射された。なかなかここまでになったことはない。次はハイミスリル銀で作ろうか。
さあ、戻ろう。
経験値が少し感じられた分、悪くなかった。
いや、それ以上にロイドの魔法の熱を感じられた。
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