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第7話 変わった男の子との出会い〜義手をそんな風に思うなんておかしな子ね〜

「さて、どうしようか」

 

 魔法実習騒ぎ翌日の放課後、特にすることのない私は図書室に来ていた。

 なぜなら王立学園の蔵書量は非常に多く、自分の魔法や義肢を改良するための資料探しにはもってこいだからだ。

 

 まずは強化魔法を探してみる。義肢の強度を上げるためにはミスリル銀など素材そのものも大事だが魔法で強化するのも有効だ。

 素材と魔法の両方からアプローチするのが一番無駄なく強化できる。

 

「えーっと……あ、ここね。この書架に」

 

 一冊取り出して読んでみる。ふむふむ、これは前に使ったことのある強化魔法か。独自で開発したと思っていても既に存在することもあるからやはり本は重要だ。

 

 田舎の屋敷は魔導書好きの父親の書庫と化していて蔵書は全部読んだがあれでは足りないのだろう。好きで集めているといっても個人では限界もあるものだ。

 

 その好きというのもどうせ魔法の理論探求というものではなく、魔導書につく金銭的な価値なのだろう。

 

「でも私が作ったものに比べて魔法陣が雑多ね。これだと戦闘中の瞬間強化には向かないかしら。こっちの魔法も魔法陣を重ねすぎよ。この構成なら2重でなんとかなるわ」

 

 本の魔法は確かに作ったこともないものもあるが一見しただけでも無駄が多いように思う。これを作った人は戦う時の意識をしているのだろうか? 著者は誰だろう?

 

「著、ラリー・ルードヴィル……はぁ、なるほどね」

 

 ルードヴィルの一族だった。田舎の屋敷にあった魔導書のニーム・ルードヴィルとはまた別人のようだが世代が違うのだろう。

 ニームの本の六大属性の記述は義肢の魔力回路の作成に役立ったのだけど。

 

 さて、次を……

 

――ドンッ

「ん?」

「わわっ、ごめんなさい! 考え事してて」

 

 私の横で尻もちをついていたのは魔力回路の本を持った小柄な男子生徒。確かこの男子生徒は入学式で……

 

「立てる?」

「あ、ありがとうございます」

 

 伸ばした手を掴んだ手は小さい。

 

「貴方、確かロイド・エメラルニア君?」

「そうです。なんで知って……」

「入学式で紹介されてたでしょう? 飛び級の生徒だって」

「あ、いや、あはは……そういうお姉さんはもしかしてアリーシャさん?」

「そうだけど。貴方こそなんで知って」

「ほ、ほら魔石板のことで印象に残ってて」

「なるほどね」

 

 なんとも落ち着きのない生徒だ。飛び級ともなればしっかりしているかと思ったが年下は年下らしい。

 

「考え事しながら歩くと危ないわ。気をつけなさい」

「ご、ごめんなさい……あっ、アリーシャさんの持ってるその本……」

「これ?」

 

 手に持っていたのは範囲強化魔法に関する本だ。この子も何か強化魔法の使い手なのだろうか。

 

「それ、探してた本なんです」

「そうなのね。私も今読もうと思ってたんだけど……」

「あー、それならアリーシャさんがお先に……」

「いいわよ。譲ってあげる」

 

 別に急ぎでもない。また今度にして他の本から読めばいいだけだ。

 

「と、図書室の本は早い者勝ちですから……! あっ、じゃあ一緒に読みませんか?」

「一緒に?」

 

 驚いた。私と一緒に読みたいだなんて言われると思っていなかったからだ。

 

「ダメですかね……?」

「変わった子ね……いいわよ、一緒に読みましょうか」

「よ、よかったです!」

 誰かと本を読むなんて今までになかった。不思議な感覚だ。


 

――1時間後

「へぇ……この魔法は使ったことありますね」

「範囲強化魔法に詳しいのね」

 

 図書室のテーブルで同じ本を読み進める。私もこの手の魔法は勉強しているつもりだったがロイドの方が詳しいようだ。

 

「えへへ、僕は生まれつき範囲強化魔法が使えるんです。というか軍勢強化魔法なんですけどね」

「軍勢強化魔法……使い手は少ないって聞くけど」

「それもあって魔法を勉強していたらいつの間にか飛び級でここに入学してたんです、あはは」

 

 軍勢強化魔法は効果範囲の極めて広い強化魔法でその名の通り軍隊を丸ごと強化してしまえる魔法だ。

 王国としては喉から手が出るほど欲しい魔法の一つ、それをこのロイドは持っている。つまり、なるほど、そういうことか。

 

「ロイド君も大変ね。この飛び級も王国からのことでしょう?」

「ええまあ。エメラルニア家は元々魔法が得意な一族だと父上も言っていたので」

「じゃあロイド君は天才ってことね」

「いえ、そんな……まだまだ全然僕なんて」

 

 自信のない口ぶりだ。軍勢強化魔法を鼻にかけていてもおかしくないものなのだというのに。魔法の探求に懸命といったところか。

 

「あら、もうこんな時間ね」

「わわっ、本当だ」

「寮に戻りましょうか」

「ですね。今日は一緒に読んでくれてありがとうございました! 二人で読むと分かることが多くて嬉しいです!」

「そう。私も楽しかったわ」

「よかったらまた二人で読みませんか? 僕、アリーシャさんに聞きたいことがあるので!」

「……いいわよ。また今度ね」

「えへへ、約束です!」

 

 夕日に照らされたロイドの笑顔は優しげで眩しい。こんな笑顔を向けられたのは初めてだ。私にこんな優しい笑顔を向けてくれる人など今までにいなかった。

 これが嬉しい、ということなのだろうか。私にはあまりよく分からないが少なくともこの笑顔は悪くないように感じた。


 

――1週間後

「はい、好きなだけ見るといいわ」

「わぁぁ、ありがとうございます!」

 

 あれから数日、私は毎日放課後にロイドと図書館で本を読んでいた。その時、ふとロイドが真剣な面持ちで私の義肢を見せて欲しいと言ってきたのである。

 

「すごいなぁ、こんなに機能美に溢れた外装、素材強度もとんでもない数値だ。ドラゴンの牙を逆に砕いてしまうんじゃ?」

「中も見ていいわよ」

「やったぁ! じゃあちょっと失礼します……おお、こ、これは凄い。ミスリル銀で作られた徹底的に無駄のない骨格! 効率的に整理され尽くされた魔力回路! 魔力鋼弾の回路も凄いけど僕には絶対作れないや。でも綺麗だなぁ……」

 

 ロイドは私の義手をまるで美術品でも見るかのようにうっとりと眺めている。そういえばジェイスは複雑すぎるとだけ言っていたがロイドには整理されているように見えるのか。

 

「見たいなら図書館でもどこでも外して見せたのに。なぜ工房エリアを貸し切ってまで?」

「それは……僕が魔導具好きで技師の真似事をしてるから興奮して騒いじゃうのもありますけど……」

「ああ、まぁそれはそうね」

「この義手はアリーシャさんの体の一部です。きっとアリーシャさんが何年もかけて作り上げてきたかけがえのないものなんです。その中身なんていう繊細な部分をあまり他人に見せるべきじゃないな、って。僕だって凄く見たかったけどお願いするのは気が引けてたんです」

 

 ロイドから出てきた言葉は思いもしないものだった。確かに義肢の開発には月日がかかっている。でも義肢は道具だ。誰に見られたって構うものでもないのだが。

 

「そういうものなのかしらね? 気にしたこともなかったわ」

「気にした方がいいですよ……あくまで僕の主観ですけどジェイスさんに突きつけたときはいきなり下着姿になったのと同じに思ったんですから」

「あら? それなら今は下着も脱いだ状態になるわね?」

「だっ、だからお願いするのを迷ってたんですよ! 本当はもっと時間をかけてからって」

「でも興味が抑えられなかった、と。欲に素直でいいんじゃないかしら」

「う、うう……」

 

 ロイドは真っ赤になってうつむいてしまった。ちょっとズレているがどうやらちゃんとした健康な男子であるらしい。


「もっと仲良くなったら生身側の接続部も見せてあげるわ。かなり刺激的かもしれないけど」

「えっ! ええっ!!」


 2人だけの工房エリアにロイドの声が響く。

 明日は学園内ダンジョンの実習だ。

 それをロイドと一緒に行きたいと思っている私がいる。

お読みいただきありがとうございます!

明日も18:30に更新予定です!

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