第6話 堅物エリートの言いがかり〜そこまで言うなら貴方がこの義手を使ってみなさい〜
「ではこれから皆さんの魔法を見せていただきます」
グレイドと撃ち合った翌日、私たち新入生は最初の授業を受けることになった。今は各々の実力を実際に先生に見せるところだ。
しかし昨日のことでなんのお咎めもなかったのは意外だ。何かしら注意されると思ったのだが。
「皆さんにはこの魔法人形に攻撃してもらいます。なかなか壊れるものではないので思い切り撃っても大丈夫ですよ」
先生がそう言うと一人ずつ前に出て魔法を撃ち始めた。確かにその言葉通り、生徒の魔法が当たっても魔法人形には傷一つつかない。
ただ、見た限りでは皆の魔法が弱すぎる気がする。その上、ファイアーボールやクレイバレット、アクアニードルにウィンドカッターといった低級魔法しか出せていない。
使える属性も1つが大半、2つ使えれば拍手が起きるほどであまりに少なすぎる。これではあのダンジョンのアンデッドウィザードが使ってくる魔法より貧弱でバリエーションにも欠ける。
全員良い家の出身なのだから得意不得意はあるにしても中級魔法くらい使えないものなのか。
……と?
「流石はジェイス君ですね! 一年生でこれほどの魔法が使えるなんて!」
あの青髪のエリートは魔法が得意らしい。それもそうか、魔法の大家であるルードヴィルの息子なのだから。
確かに誰も傷一つつけられなかった魔法人形が中級の火魔法フレアランスと土魔法アイアンフィスト、風魔法ストームで傷がついている。
「なに、ルードヴィル家の人間として当然です」
なんとも澄ました顔だ。これが世にいう美男子というやつなのだろうか。
正直、私にはよく分からないがそんなに得意な顔をするなら六大属性の上級魔法を全て使いこなすくらいはしたらどうだろうか?
「では次、アリーシャさん」
どうやら私の番らしい。さて、私は六大属性の魔法が上手くない。どうしたものか。
「先生、杖以外の魔法具を使用してもよろしいですか?」
「構いませんが……一体何を?」
「これです」
――ガシャン!
――ガガガガガガガガガ!!
「な、何今の!?」
「凄い音だ!」
「無詠唱だって!?」
義手の指先から魔力鋼弾を発射する。周囲はなにやら驚いているが別に六大属性の上級でもないし、そこまで騒ぐようなものでもない。
――シュウウウ……
「ま、魔法人形の原型がない……宮廷魔導士でも壊すのは一苦労のはずなんですが」
「すみません、やりすぎました。直しますので」
――コオオオ
魔法人形に触れて修復魔法をかける。義肢の手入れや戦闘中の応急修理で修復魔法を使う機会が多かった。
それ故にこれくらい作りが簡単な魔法人形なら特別な回路を組まなくても直せる。
「え……宮廷魔導士でもここまで壊れていたら直すのに一ヶ月はかかるはず……」
「では失礼します」
そんなに堅い魔法人形でもなかった。次の生徒も待っているしさっさと……
「待て、アリーシャ」
ジェイスに呼び止められた。また何か言いがかりでもつけてくるのだろうか。
「その魔導具の魔力回路はあまりに複雑だ。およそ学生が使えるものじゃない。どうせ使いこなせない魔導具の性能に頼り切りなのだろう? 私の魔眼は誤魔化せないぞ?」
そうか、ルードヴィルの一族は魔眼を持っていたのだった。それで魔力の流れが見えるから魔法の大家になったとも言われていたはずだ。
そんなエリートなら、そうね。
「そうですか。では貴方が使ってみて下さい」
――ガシャン
そう言って私は義手の接続を外し、ジェイスの胸に押し付けた。確かにこの義手に組み込んだ魔法回路は複雑といえば複雑だ。でもエリートなら使えるだろう。
「お前、正気か……!?」
「ええ、至って。どうしました? 顔色が悪いようですが」
「あ、あの、アリーシャさん、そのあたりで……」
よく周囲を見ると絶句している生徒が多い。そうか、いきなり腕を外したらそうもなるか。教師にも悪いことをしてしまった。
「……そうですね、確かに腕がある人に義手を使えというのもおかしな話でした。すみません、お気になさらず」
「あ、ああ……」
――ググッ
たじろぐジェイスを背にして義手を接続する。少し接続が気持ち悪い気もする。後でしっかり手入れしておこう。
「ま、待て! これは魔法の実習だ! 魔導具の性能を見るものじゃない。お前の魔法を見せてみろ!」
「はぁ……? これは立派な魔法ですよ。魔導書にあった六大属性の理論を応用して魔力鋼弾を撃ち出していますので」
「その魔導書が何か知らないが魔法の基本は六大属性だ! 使ってみせたらどうだ! それとも使えないのか?」
……それはその通りなのだがその考えにこだわるのは少し頭が堅すぎる気がしないでもない。エリートになるとこんな感じなのだろうか。
「あまり六大属性は得意ではないんです。ちょっと危険ですし」
「はっ、ほらみろ六大属性が使えないから魔導具に頼っているじゃないか。所詮はその程度か」
「……分かりました。魔法をお見せしますね。先生、最大限強力な防御結界を皆さんにかけて下さい」
「えっ? あ、はい」
「ずいぶんと勿体つけるじゃないか。全力で撃ってみるといい」
「本当に危ないので。いきますよ、ファイアーボール」
――ボッ
私の左の手のひらに灯ったファイアーボールが空へ飛んでいく。
「なんだ? ただの小さなファイアーボー……るっっっ!?」
――ゴオオオオオオオ!!!!
「うわぁぁぁぁぁ!! 太陽だ! 太陽が落ちてきた!」
「え、えっ!? これって僕たち死んじゃうんじゃ……」
「きゃあああああ!!」
「ああ、どうしてもこうなるのよね」
「おいアリーシャ!! あれを早く消せ!!」
「もう止まりませんよ。あれは周囲の魔力を吸収して大きくなるので。落ちたら魔力が散るので大丈夫ですよ。落ちる先は何もない森ですし」
私が六大属性を苦手とする理由はコレである。私の魔力に属性をつけて放つと勝手に周囲の魔力を吸収し続けて巨大になりすぎるのだ。
放った魔法はもうコントロールを離れてしまうし、魔物を跡形もなく消し飛ばしてしまうからダンジョンでの使い勝手が悪過ぎて使わずにいたのが実情だ。
「先生が防御結界を張って下さってますから死ぬこともないでしょう。ね、先生? ……先生?」
「わ、私の防御結界では皆さんを守りきれないかもしれません……! 結界が、もたない……っ!」
「お、おい! アリーシャ! 本当になんとかしろ! いや、なんとかして下さいお願いします本当に!! 僕はまだこんなところで死にたくないんです!! ごめんなさい今までの無礼は謝りますから!!」
いきなり土下座までするとは人が変わったかのようだ。しかし困った。防御結界が効かないとなるとあれを無力化させなくてはならない。仕方ない、やるか。
――キュイイイイイイ!!
「ブースター点火、出力120%、飛べ」
ブースターで火球の近くまで飛び上がる。最近は使っていなかったがあの剣技を使うべきだろう。
「裂花塵閃・散之冰」
――ヒュパァァン!! バキバキバキバキ!!
火の反属性である水属性を乗せた無数の剣閃にて真紅の恒星の魔力を微塵に裂き、蒼白の細氷にして森をクリスタルの山へと変えた。これなら怪我はしないだろう。
はぁ、疲れてしまった。
今日は帰ったら少しゆっくりお風呂に入ろう。
――――
僕が見たのはあまりにも綺麗な魔法だった。
アリーシャさんの義手から放たれたあの鋼弾は一体どういう理屈で作られているんだろう? 魔力を鋼に変えているならとんでもない変換効率と速度だ。
一体どんな仕組みで発射されているのだろう? あんな高回転でしかも完全無詠唱の魔法ってだけでも凄いけどそれを事も無げに、あっさりと的を破壊してしまうなんてとんでもないことだ。
ああ、気になるなぁ。話しかけてみたいなぁ。アリーシャさんはちょっと近寄りがたいけど、でもあんな綺麗な義手を近くで見てみたいなぁ。
そういえばジェイスさんはアリーシャさんの義手の魔力回路を複雑過ぎるって言ってたけど、僕には徹底的に整理されてたように見えたんだよな。まぁ作れと言われても絶対作れない回路だけど……
あの火球は凄かったな。僕もかなり怖かったけどあの魔法を斬る剣技はとんでもなかった。格好いいなぁ。
――――
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