第5話 脳筋剣士の言いがかり〜そんな速度ではお相手になりません〜
「おい、アリーシャとか言ったな」
「ええ、そうですが」
跡形のなくなった魔石板の前から立ち退こうとするとグレイドに呼び止められた。
「お前、魔石板に何の細工をした?」
「細工? そんなことはしていませんが」
「レベルは鍛錬の先にあるものだよ。なのにレベル255っていうのは……」
「嘘をつくにしてももう少しマシな嘘をついたらどうだ?」
なんとジェイスとウィルまで出てきた。そんなに私が怪しいことをしたのか? いや、魔石板を壊したのは怪しいか……
「学園長、まさかあの魔石板が一介の生徒に不正ができるものなので?」
「い、いや、そんなことはない。公式な測定に使われるものだ。宮廷魔導士でもない限り不正はできないよ……」
「だそうですよ。御三方」
「ぐっ……」
「とにかく、アリーシャさんの実力は授業が始まればはっきりします。今は皆さん落ち着いて」
今のところはこれで引き下がってくれたようだ。目立つとろくなことがない。私など田舎に引っ込んでおくべきなのだろう。
――――
「はぁ……」
夕方、中庭のベンチでため息が漏れる。あの後、講堂は閉鎖となり生徒は立ち入れなくなってしまった。なにか調査でもするのだろうか。
しかし学園生活では義手義足のこともあるから目立たないようにしようとしていたのにこれでは最初から目立ちすぎだ。
「何か噂話でもしてるのかしらね」
中庭には何人か他の生徒がいる。渡り廊下やベンチでおしゃべりしている生徒もそれなりにいて、部活の勧誘のようなこともしているようだ。
ただ、私と目が合いそうになると皆目を逸らす。別に友達になりたいなどはないがここまで露骨にやらなくても、とは思う。
きっと化け物だとかなんだとか言われているのだろう。ましてこの手足では余計にそうか。片目を隠しているのも拍車をかけているかもしれない。
別段、そう思われたとして両親にもそう思われているのだからそこまで傷つきもしないが。
――キシッッ……
「あら、昼間の測定の影響?」
義手から少し軋んだ音を出した。外部からから魔力を流したくらいでこうはならないはずだが。寮に戻ったら手入れしないと。
さ、今日はもう部屋に戻ろう。
……と?
「おいアリーシャ、ちょっと付き合え」
「なんでしょう? グレイドさん」
「学園長は授業が始まれば分かるっていってたがのんびり待ってるのは性に合わないんでな。ここで試させてもらうぜ」
またか。喧嘩っ早いというか正義感なのか何なのか。よほど私のレベル測定結果が気に食わないらしい。
「悪いけどこうなったグレイドは言う事を聞かないものでしてね。私も困っていますよ」
「そのレベルが本当なら受けても何も問題はないだろう? 僕が立ち会おうじゃないか」
またまた3人組だ。どうしても私が不正をしたと言いたいのだろう。
「分かりました。どのようなルールで?」
「この模擬剣で俺と一対一だ。おっと、義手の方は使わないでもらおうか。何を仕込んでいるか分からないからな」
「ではそのように」
仕込みがあるといえばあるが別に不正をするための仕込みでもなんでもない。
というか人のデリケートなところにズケズケと突っ込んでくる方がどうかと思うところだ。見た目でモテているのに中身がこれでは残念すぎる。
「スカした態度を……! まずは俺から行くぜ!」
構えと同時に突撃してきた。
出方を伺って……なるほど、上段からの斬りかかりだ。威力は出るが少し弱点を晒しすぎるし大振りになって動きが読みやすい。
走って突っ込んでくることを考えるに勢いは乗るか。直前でかわしてスカさせれば隙を作れるだろう。
体勢を崩したところに首へ一撃入れて……いや、模擬剣でも少し危ないな。脇腹に軽く一撃入れるくらいが妥当か?
いや、しかし……うん、遅いな? あまりに遅いな? 止まっているくらいに遅いな?
「でりゃあああ!」
「はい」
――カッ
「ぬおっ!?」
――ズシャッ!
斬りかかりの剣を弾いて足を引っ掛けたら簡単に転んだ。正直この状態で体に直接一撃入れたら吹き飛ぶか骨が折れる。
え、バーニキスの剣術ってこんなものか? いやいや、そんなことはないだろう。大将軍の剣術なのだから。
「くっ、舐めたマネを!」
「まだやりますか?」
「当然だ!」
また斬りかかってくる。しかしあまりに遅い。これでは次が薙ぎ払いだと言っているようなものだ。しゃがんで避けて……
「よっ、と」
――ドガッ!
「うおわっ!?」
足払いで姿勢を崩すつもりが軽く吹き飛ばしてしまった。
「このっ! 避けてばかりで……!」
怒ったらしいグレイドが何回も斬りかかってくるが全てが止まって見える。これがレベルの差というものなのか?
正直これでは田舎のダンジョンのデスナイトを相手にしているほうがまだ骨がある。
いつまで続くんだろうか……?
――20分後
「はーっ……はーっ……!」
「あの、グレイドさん、そろそろ止めにした方が」
しばらく撃ち合って、結局グレイドはヘトヘトになってしまっている。もう動きといえば亀の方が速いだろう。そもそも撃ち合いというよりは私は避けているだけで一歩も動いてないのだが。
「うるせぇ! うおおおっ!」
――カツンッ
「ぐわぁっ!」
「はあ……」
もう何回もこの流れをやって飽きてきた。このまま続けても埒が明かないか。こういうのを止めるためには確か……
「俺はお前を認める訳にはいかねぇんだ! 日々鍛錬を重ねてきた俺がこんなところで負けたら騎士達にも家にも申し訳が立たねぇ!」
叫びと共に上段から斬りかかってくる。ちょうど都合がいい。
「柔花反閃」
――バキィン!
「なっ、剣が!?」
柔花反閃は受けた衝撃を返す技。返した衝撃で弾こうと思っていたが折れてしまった。
いや、どちらかというと砕け散ってしまった。そのまま衝撃を返すつもりが少し力を上乗せしてしまったようだ。
「貴方のご両親は立派ね。私は両親に殺されかけたけど。……これでグレイドさんの武器はなくなりました。もうよろしいですか?」
地面に尻もちをついたグレイドを見下ろし、剣を突きつけながら言う。
「まだやるというならもう少々剣に力を加えますが」
「ぐっ、これで勝ったと思うなよ!」
三人組が下がっていく。相変わらず化け物を見るような目をするのは何故だ?
ああ、また目立ってしまった。変な噂話が広まらないといいが。
とにかくもう寮に戻ろう。動いていないが疲れてしまった。
――――
「ただいま、アヤ」
「おかえりなさいませ、お嬢様。入学式はいかがでしたか?」
「そうね……色々あったわ。紅茶を淹れてくれるかしら。一息つきながら話すわ」
「はい。そう言われると思いましてご準備できております」
椅子に腰掛け、アヤの淹れてくれる紅茶を飲む。アヤは優秀なメイドだ。私にはもったいないくらいである。
とにかく今日あったことをアヤに話した。普段はあまりこんな話はしないのだが疲れていると口も緩むのだろう。
「なるほど、あの轟音はお嬢様の……」
「ええ、自分でも驚いたわ。レベル255なんてね」
「お嬢様がお強いことは薄々気づいておりましたがまさかそんなに高レベルだったのですね」
「そのせいでエリート3人組に絡まれていい迷惑よ」
「力がある、というのは色々なものを引き寄せるのかもしれませんね」
「それが良いものならいいんだけど」
「この事実は王城やご主人様にも伝わるでしょうから何か接触があるかもしれません」
「王城も嫌だけれど両親はもっと嫌ね」
私のレベルが255だと知った両親は何をしてくるだろう。手のひらを返してくるだろうか。
いずれにせよ、私の日常が脅かされるのに変わりはない。全く嫌な話だが現状は学園の生徒である以上、何か動けるわけでもない。
「はぁ〜、どうしたものかしらね」
紅茶を飲み干してため息をついた。
そういえば明日は魔法の実習があるらしい。また何か言いがかりをつけられそうだ。
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