第3話 義肢の手入れと王都到着〜道具はしっかり手入れしないと〜
「とりあえず応急処置はできた。しばらくすれば動けるようになるはずよ」
「ありがとうございます、アリーシャ様。希少なエクスポーションまで頂いてしまい……」
「100階層くらいに潜れば捨てるほど手に入るわ。それにかしこまらなくてもいいんだけど」
「いえ、先程はダグライル家の御令嬢と知らず無礼を」
「そう」
救護のためにダンジョンから50階層の脱出魔法陣で脱出した後、この騎士ライネスの話を聞くに怪しい魔力反応のあるダンジョンを調査すべくここに入ったらしい。
なんでもここのダンジョンはやはり放棄されていたものだったがここ数年活発な魔力反応を見せていたようだ。人数が少ないのは近隣住民を不安にさせないようにするためとのことで。
「しかし驚きました。ダグライル家の御令嬢は病弱でおられると聞いたので。あれほどまでにお強いのなら多少なりとも名が知られていてもおかしくないのですが」
「病弱っていうのは両親の作り話ね。私は両親に捨てられたようなものなの。あまり私の事は話して欲しくないけど上に報告しなければいけないんでしょう?」
「そうですね……先程の約束もありますし団長には上手く報告しておきます。私、これでも団長直属の精鋭部隊長ですから」
「そうなの。まあ隊長を名乗るならもっと強くなった方がいいんじゃないかしら。あの魔物を倒せるくらいにはね」
「い、いやぁ、そう言われると弱ります……私はレベル50ほどですが一体貴女は何レベルなんですか?」
「知らないわ。今度王立学園の入学式で分かるけどそんなものが何の役に立つのかしらね。じゃあ、私は行くから。夜の馬車に間に合わせないと」
「お、お気をつけて! あっ、ご入学おめでとうございます!」
去り際にライネスから祝いの言葉がかけられた。形だけだろうけどアヤ以外からこんな言葉をもらったのは初めてだ。いや、それにしても何故? 戦闘中に頭でも打ったのかしら。
まあいい、帰ろう、ダンジョンでの鍛錬は不完全燃焼だけど仕方ないわ。
――屋敷
「ふぅ、やっぱり義手の魔力鋼弾の出力と変換効率をもっと上げたいわね」
屋敷に帰ってから義肢の手入れをする。毎日の手入れも大切だがやはり戦闘後の手入れは格段に重要だ。
「ログによると魔力の鋼弾への変換効率は94%、発射時の出力効率は95%か」
専用のガラス板に表示された数値は決して悪くはない。でももっと上げられるはず。
六大属性の魔法を放つことが得意ではない私が遠距離で攻撃できる手段は限られてくる。だからこの魔力鋼弾を開発したのだ。
「純粋な魔力を鋼弾に変え、純粋な魔力の爆発によって発射する設計は私には間違いないはずよ」
かなり昔に開発した方式だがずっと使えている以上は合っていると思いたい。
「これ以上の効率化はより高品質な素材と魔力回路の改良が必要ね。どっちも時間がかかりそう」
ダンジョンで採れた素材を基本的には使っているがミスリル銀以上となれば最低でもハイミスリル銀やそれこそオリハルコンやアダマンタイトが必要になるだろう。
魔力回路の改良に関してもより強力なものを書き込もうとするなら書き込むための魔力インクに相当強力な魔物の魔石が必須だ。今日倒したような魔物の魔石では用をなさない。
「義足のブースターに不調はなかったけど反応速度と出力はもう少し上げたいわね」
ここにもやはり素材がいる。200階層より下に潜りたかったな、そこなら上質な素材も多少は手に入るんだけれど。
「ん? あら、もうこんな時間なのね。最後の準備をしないと」
学園に行けば寮生活だ。あまり多くの予備素材や手入れ道具を持っていけないのは心もとないが仕方ない。
ある程度前日までに準備しておいたトランクケースにメンテナンス用義手や予備の義肢などをしまい、予備素材のトランクケースの中身も再度確認する。
「予備のミスリル銀インゴットが10、タイラントドラゴンの魔石とその他100階層以降の魔物の魔石が数種類、あとは魔力触媒と薬液、そんなところね」
持っていける量を考えればこんなところだろう。自室の横についている倉庫にはまだ大量の素材があるがとても持っていけない。
倉庫に鍵をかけ、本棚で隠す。この倉庫はアヤを含め、屋敷の人間は誰も知らない。
万一バレたときのことも考えて倉庫の壁は魔物の素材で強化してある。ある程度の魔法や物理攻撃には耐えられるはずだ。
――コンコンコン
「入って」
「お嬢様、そろそろ出発のお時間です」
「ええ。アヤ、一緒に来てくれるんでしょう?」
「はい。ご主人様からはそのように仰せつかっております」
両親はそれなりに地位のある伯爵で私の寮生活にメイドをつけている。まあ外聞や体裁の問題だろうし、私が何かしでかさないためのお目付け役といったところだろう。
「アヤには貧乏くじを引かせたわね。残りの使用人たちは王都の屋敷か領地の勤務になるのに」
「いえ、そんな。私が好きで立候補しただけですから」
「そう、ありがとう」
この屋敷は私の王立学園入学と同時に無人になる。隔離対象がいなくなった屋敷に人を置いておく必要もないというわけだ。
つまり、私の帰る場所を守ってくれる人などいないというわけである。
「お荷物、お持ちしますね」
「大きいケースは私が持つわ。アヤには重いから」
「大丈夫です! って、あれ? うーん! も、持ち上がらない!?」
「だから言ったでしょう? 無理しちゃダメよ」
義肢が手足2本分となれば重くなる。戦闘時に威力を増すため質量を確保している分も考えると見た目以上に重いのだ。軽量なものも作るべきだっただろうか。
「では、出発いたしましょうか」
「ええ、行きましょう」
王立学園。そこにいけば良い経験値があるといいのだけれど。
――1週間後
「ここが王都ね。なんとも賑やかなところだわ」
田舎の屋敷から宿場町をいくつか経て夕方の王都にたどり着いた。王都はきらびやかだ。私のいた田舎とは正反対に。人々が行き交い、活気がある。
私は、というと、つば広の帽子に長袖のロングスカートと手袋、ロングブーツで義肢を隠し、下ろした前髪で義眼を隠しながら王都を少し歩いて王立学園まで来た。
本当は馬車で近くまで来る予定だったが車輪が壊れてしまったため学園の閉門までの時間を考え、待つより歩くを選択した訳である。
「悪いわねアヤ、代車を引かせてしまって」
「いえいえ! お嬢様に引かせるわけにはいきませんから。それにお嬢様にかけて頂いた身体強化の魔法のおかげで楽々でしたよ」
「それならよかったわ。でも後から疲れの反動がくるから寮についたら今日は休みなさいね」
「そんな、お嬢様のお召し替えなどもありますのに」
「いいのよ、一人でできるから。それに倒れられても非効率なの。と、着いたわね」
目の前にあったのは寮、というよりは小さな家だった。どうやら伯爵家としての体裁でこんな住まいにしたのだろう。おそらく公爵家ともなればもっと大きい家になるはずだ。
そういえばこの王立学園は入り口から先の時空間が少し歪んでいると聞いた。たしかにそれならば生徒に寮として家を与えても土地的な問題はない。
「ん? それってこの学園自体がダンジョンみたいなものなのかしら……」
「お嬢様? お入りにならないのですか?」
「え、ええ、ごめんなさいね、ちょっと考え事を」
今は考えても仕方ない。少し馬車移動で疲れてしまったし、今日は私も早めに休もう。
明日は入学式だ。あの騎士はレベル50だと言っていたが、学生ではどれくらいになるのだろうか。レベル50で精鋭なら学生で30もあればエリートなのかしらね?




