第11話 飛び地への道中〜馬車を三馬鹿に奪われましたが行商人に助けられました〜
「やあ、アリーシャさん。お初お目にかかるよ」
「ええ、こちらこそ」
両親を脅した翌日、私は学園長室に呼ばれていた。というか学園長はこんな人だったか?
「あの、前の学園長は?」
「異動だよ。それで僕が学園長に据えられた。まぁ察しのいい君なら分かるだろうけど国王陛下のお達しさ」
「……なるほど」
そういうことか。学園にいる私と陛下をすぐに繋ぐための人間を学園長に持ってきたわけだ。何というか、手が早い。
「さて、早速だけれどお願いだ。ダグライル領の飛び地にあるダンジョンへあの3人組を連れて行ってレベリング指南をしてあげてほしい。まだレベル20以下でね。2週間くらいでいいから」
「なぜ、私がそこに行くと?」
「おや、確か飛び地の代官になったのではないかな? 視察は早い方がいい。そのついででいいんだ」
「……代官の話は昨日のことなんですが」
「うん、そうだね。伯爵の屋敷には密偵が入っているから知っているよ」
「ということはあの取引も筒抜け、と」
「ああ。伯爵はずいぶんと損な取引をしたものだ」
王国の手の早さがここまでとは。あの両親のやっていることが全て裏目に出ている。レベリング指南を隠れ蓑にして騎士団を派遣して調査するつもりだろう。
「でしたら、メイドのアヤとメアに給金を出してあげて下さい。雇うと啖呵を切りましたが私には収入がないので。この条件を飲んでいただけるならレベリング指南をお受けしましょう」
「なるほど。ならば王城のメイドとして雇い、君のところに派遣する形にしよう。今日中に手続きをしておく。そうだ、君もまだ学生、代官をするにしても代理が必要だろうし僕の部下でよければ使ってくれ」
「それは……ありがとうございます」
何とも太っ腹だ。それにレベリングに熱心なロイドも、本人が希望するなら連れて行っていいと言ってくれた。
と、なればレベリング指南用に少し物が必要だ。
「レベリング指南にあたって食料品が必要になります。6人が3食、かなりの長期間食べていける量です。後は低級のゴミのような物でも構わないのでポーションとマナポーションをとにかく大量に下さい」
「ポーションは分かるが……何故食料品を? 一体どんなレベリングをするつもりなんだ?」
「それはですね」
どんなレベリングかを話したところ学園長は物凄く顔を引きつらせた。これでも安全性を考えて効率を落としたのだが。そんな顔しなくてもいいだろう。
「分かった。まぁあの3人にはこれくらいの劇薬が必要だね。大容量のマジックバッグをつけておくよ。食事の楽しみくらいは提供してやってくれ」
なんと時空間魔法の魔導具であるマジックバッグ、しかも大容量な物をつけてもらった。荷物が減るのはありがたい。
――5日後
「魔力鋼弾の構築をこっちに応用すればこんなことも?」
「できそうね。流石はロイドよ」
飛び地へ向かう馬車の中、私とロイドは義肢や魔力回路のことで議論に熱中していた。
学園長との話の後についてくるかロイドに聞いたところ食い気味に答えてきたときは可笑しかった。
向かい側ではアヤがメアに屋敷の見取り図を使って色々教えている。
「ごめんなさいね、2人とも。あんなことの直後に落ち着く間もなく」
「い、いえいえ! 私たちはお嬢様、いえアリーシャ様に救われた身です。どこまでもお供しますよ。ね、メア?」
「はい! なんでもお申し付け下さいね、ご主人様?」
現状、2人は王城の王室付きメイドである。しかも腕章付きの。
学園長は本当に1日で手続きを終わらせてくれたし、これは少し盛りすぎだ。実家のメイド長より立場が上になってしまっている。
「あのね、2人とも、仮にも王室付きメイドなのだから私をご主人様と呼ぶのはやめなさい」
「それはそうですけど……でもすぐ本当のご主人様になられますよね?」
「ええ、まあ……頑張るわ」
雇うと言った手前、やるしかない。
と、何やら前の方が止まっている。何があった?
――コンコンコン
「ん? 窓の外に誰か……ライネスだわ」
――キィ
「どうしたの? 魔物でも出たのかしら?」
「いや、そうじゃないんですが……実は」
なんでも3人組が乗っている馬車が壊れ、走行不能になったらしい。騎士の馬車を空けるからそれに乗ってくれと言っても、荷馬車に乗れというのか! と言って聞かないようだ。
「すみません、アリーシャ様」
「貴方が謝ることじゃないわ、ライネス。それより戻ってあげて。1人で対応してるフィリーネが不憫だわ」
壊れた馬車の前でフィリーネに突っかかる3人組。もう少し上品にできないものか。
おや、グレイドとジェイスがこっちに向かってくる。
「おいアリーシャ、お前の馬車を貸せ」
「貸せと言われましても4人乗りなんですが」
「だからお前らが降りて歩いて来いって言ってんだ」
「ただでさえ僻地行きなんだ。多少は分かってくれよ」
何ともまあ横暴なことだ。ジェイスはどうやらあの土下座のくだりから持ち直したらしい。なんともエリートなことだ。こんな人間は説き伏せることも難しい。
「仕方ないですね。ロイド、アヤ、メア、申し訳ないけどそういうことでいいかしら」
「はーい」
「お待ち下さい! アリーシャ様が徒歩になるのでしたら騎士を半分とフィリーネをつけます!」
なんとライネス、私たちに護衛をつけると言い出した。そんなに残したらダメだろう。
「バカを言うな! 俺たちの護衛減らしたら意味ないだろ!」
「なんのための護衛かよく考えて下さい。行きましょう、ウィル」
「あ、ああ……すまない、アリーシャ嬢」
馬車に乗る間際、ウィル王子が私に謝るような言葉をつぶやいた。一体どうしたというのだろうか。乗り物酔いでもして体調が悪いのだろうか?
まあいい。歩いて進もう。
――30分後
「全く頭にくるよ! いくらエリートだからってあんなの酷いや!」
「同感です! あんな人たちに仕えたくありません!」
「メアに賛成です! なんですかあの人たちは!」
歩きながら各々が不満を口にする。気持ちは分からないでもないが怒っても仕方ない。
「はいはい、悪口はそこまでね。お菓子でも食べなさい」
出発前に王妃様がくれたお菓子をつまむ。こんな機会でもなければ歩いてお菓子を食べるなんてすることもないのだ。
しかし、何か移動手段が欲しいのは事実だ。馬車で後4日ほどの道と考えると日が暮れる前に民家のあるところまで行きたい。
だが通り過ぎる馬車には無視されるとなると、どうしたものか……
――ゴロゴロガラガラ
「やぁお嬢さん方。こんな田舎道でお散歩とは少々危険では?」
「あら、貴方は止まってくれるのね。ありがとう」
「いえいえ、少々気になりまして。で、どうされたので? 行商の途中ですがお力になれるかもしれません」
「そうね、話せば長いわ」
行商人らしいこの男に事情をややぼやかして話す。とてもじゃないが王子様に馬車を奪われたなどとは言えないのだ。
「ふーむ、なるほど。大体の事情は分かりました。行商しながらで良いのでしたらお乗り下さい」
「ありがとう、助かるわ。私はアリーシャ、貴方のお名前は?」
「リグといいます。しがない行商人ですよ。ああ、荷台は少し狭い。アリーシャさんは御者台だと助かります」
「分かったわ」
何とか移動手段が確保できた。荷のこともあって少しゆっくりしたペースだがこれくらいでいい。
しかし、このリグという行商人、どこまで私たちのことを察しているのだろうか。
――翌日
「いやぁすまない、アリーシャさん。行商の手伝いをしてもらって」
「いいのよ。タダで乗せてもらうわけにもいかないわ」
リグの行商先の村で一泊した後、私たちは荷下ろしや荷積みを手伝って次の町を目指していた。
「皆が皆、貴女みたいな人ばかりだといいんですが」
「正直、ダグライル領飛び地の様子はどうなの?」
「……酷いものでね。代官が横暴に振る舞うから税は異常に高いし、領地の整備も手抜き。魔物討伐も適当だから領民は常に危険に晒されてます」
「あの村でも飛び地のいい噂は聞かなかったわね。魔物の実験をしているとか、とんでもない化け物がいるとか」
魔物の実験はどうか知らないが、化け物に関しては私がいたから正解といえば正解だ。
「あくまで噂は噂ですよ。はぁ、代官が違えばマシになるんですかね。私もなるべく行商で食料なんかを届けているんですが」
「優しいのね」
「僕も寒村の出なので。苦しみも多少は分かります。それにがめついだけじゃあ商売はできない」
「……そういうものなのね」
リグのことがまだ完全に信用できるわけではないが嘘を言っているようにも見えない。代官として取引をするならこういう商人がいいだろうと思える。
私はもう少しこの行商人から知りたいことができた。飛び地に着くまで吸収できることは吸収しよう。
ある意味、馬車を取られたのは幸運だったかもしれない。
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