第10話 久しぶりの両親〜父上、これは交渉じゃないですよ、一種の脅しです〜
「今日もいい天気ね」
「そうですね〜、日差しが暖かいです」
謁見の翌日、学園が休みの今日はロイドを家に招いてちょっとしたお茶会をしている。お菓子を消費するため、というのもあるがこうやってゆっくりするのもいいか、とも思えたからだ。
「すみません、私も席に座らせて頂いて」
「いいのよ、アヤ。ここなら誰も咎めやしないわ」
アヤにも席についてもらっている。彼女を立たせておくのも何か違うような気がしたのだ。
「このお菓子、王城のお菓子職人の作品ですよね。美味しい……」
「アヤは甘い物が好きなのね」
アヤが取っているお菓子は何種類かある中の特に甘そうなものばかりだ。メイドの仕事で疲れているのだろう。好きに食べて欲しい。
「王城でライネス兄さんとフィリーネさんの相手をしたんですよね? どうでしたか?」
「2人とも強くなっていたわ。ライネスはレベル60よ。随分短期間で鍛えたのね」
「おお〜、すごい! 僕もレベルを上げなくちゃ」
ロイドはレベル上げが楽しいのか放課後に別の初級ダンジョンへ潜っていたりもしていた。楽しみがあるのはいいことだ。
「あ、今朝お嬢様宛にご主人様から手紙が」
「え? 何かしら」
開いて読んでみる。だがその内容はあんまりなものだった。
「ご主人様はなんと?」
「話があるから王都の屋敷にすぐに来い、とだけ」
「えー! 何それ、そんな酷い言い方ってある!?」
ロイドの言い分はもっともだ。だが私の両親ならこんなものだろう。だが多少不快でもある。
「行ってあげる義理もないわね。どうしても来てほしいならまた手紙がくるでしょう」
無視してしまおう。わざわざ不快な気持ちになりにいく必要も……あら?
「何かあったの、アヤ?」
「どうしても行ってもらえませんか? でないと……」
アヤの肩が震えている。これは訳ありのようだ。
「話してみなさい。行くかどうかは聞いてから決めるわ」
「では、これを」
アヤが渡してきたのはアヤ宛の手紙。内容は……なんだこれは。
「汚いことするわね。人質だなんて」
両親はアヤの妹であるメアを人質にし、アヤに私が王都の屋敷に行くよう仕向けるようにしていたのだ。
恐らく、このやり取りがあることも折り込み済みで。
「行くわよ、アヤ。王都の貴族街の屋敷までなら馬ですぐよ。ロイド、悪いけどお茶会の続きはまた今度ね」
「うん! それより早く行ってあげて!」
「お嬢様、ロイド様、ありがとうございます!」
学園には正門近くには馬屋がある。一頭借りて貴族街まで駆け抜けよう。
――
「呼び出しておいて待たせる。両親のやりそうなことね」
借りた馬はなかなか優秀であっという間に屋敷へとたどり着いた。だか部屋に通されてからそれなりに待たされている。
それにしても悪趣味な部屋である。下品な金の調度品に魔物や獣の剥製、家具や照明も無駄に豪華だ。
そうだ、アヤはメアと合流できただろうか?
――ガチャッ
誰か入ってきた。特に私に声をかけるでもなく向こう側のソファに2人が腰掛ける。
「アリーシャか。10年ぶりだな」
「ええ。お久しゅうございます。父上、母上」
なるほど、どんな醜い人間が出てくるかと思ったが多少悪人面のどこにでもいそうな中肉中背の男女である。
「単刀直入に言う。お前がいた飛び地のダンジョンから魔力が漏れて周辺の魔物が活発化し被害が出ている。片付けてこい。他言無用だ」
「はぁ。そうですか」
「なんだ、不満か。多少なりとも家の役に立ってみせろ」
ああダメだ、この父親は。根から腐っている。腐った根では10年かけても何も変わらない。
「反王政派には近づくなと陛下から言われておりまして。ですが条件次第では受けましょう」
「条件……なんだ、言ってみろ」
ふむ、どうやら条件つきでもこの件を秘密裏に処理したいと見える。ならこういうのはどうだ?
「飛び地の税は1割以下、代官は私でその代理は私が選びます。ダンジョンは私の占有で物品も私が独占します。アヤとメアは私が雇います。そして今後一切において私に関わらないで下さい。以上が条件です。何かご不満が?」
かなり盛り込んだ条件だ。飲まないというなら受けないだけである。
「ふざけた条件を……生贄の失敗作如きがこの父ゴルス・ダグライルと対等に渡り合うつもりか」
「いいえ。対等だなんて思っていませんよ」
――ガッ……!
「な、何をする!? 肉親に刃を向けるなど……!」
テーブルから乗り出し、父親の襟を掴んで義手のブレードを突きつける。
「やめて! アリーシャ!」
「貴女は黙っていて。いいですか? これは対等な交渉などではありません。威力を伴う警告です。別に私は貴方を、そして貴女も殺したっていい。私のレベルが正しいなら誰も私を殺せないし裁けない」
まぁこれはハッタリだ。殺すつもりもないし、殺してお縄になるつもりもない。ただ、これくらいしなければこの父親は聞かないだろう。
「えいへ……ぐむッ!」
――ギラッ!
「どうしますか? 首を縦に振りますか? それとも首を落とされたいですか?」
義眼から威圧を込めた魔力を送り込み口を封じる。さあどう出る、この親は。
「はぁ、はぁ」
「承諾ということでよろしいですね。では失礼します」
「あ、悪魔め……」
「……」
――バタン
父親は気を失ってしまった。
「自己紹介ならさっき聞いたわ。いえ、悪魔に娘を売り渡すような人なんて悪魔ですらないわね」
帰ろう。趣味の悪い内装も相まって少し気分が悪い。
――――
ご主人様からのお手紙を見た時はあまりのことで背筋が凍りました。でもお嬢様が開いてくれたお茶会、楽しまないわけにもいかず何とか笑顔で頑張りました。
しかし、お嬢様をご主人様のところに行くよう説得する段になって私は感情が抑えられなくなり、私宛のお手紙をお嬢様に見せてしまいました。
それはお嬢様の優しさにつけ込むような気がして心苦しかった。でもお嬢様は何事もないように私もお屋敷へ連れて行ってくれました。
学園正門で借りた馬は暴れ馬で有名でしたがお嬢様が目を合わせた瞬間に大人しく言うことを聞いたのには驚きました。
なにより、私を後ろに乗せて馬を駆るお嬢様の背中はとても大きくて恐怖が消えていくようでした。
お屋敷ではすぐにメアに会うことができました。お嬢様がご主人様とお話をつけている間、私たちは身を寄せ合い、少し震えながら待っていました。
――キィ
「終わったわよ。アヤ、メア。貴重品だけ持ってついてきて。貴女たち2人は私が雇うことになったから」
「え、ええっ!」
「父親が気絶している間に窓から退散するわよ。馬は呼んであるから急いで……それは呪いの首輪? どこまでも悪趣味な」
お嬢様が首輪に触れると首輪は霧散してしまいました。そのまま私たちは窓から逃げ出し、メアがお嬢様の後ろに乗り、私は抱えられた状態で学園へと帰るのでした。
手綱を持たなくても馬って御せるんですね……
――――
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