第9話 謁見と反王政派ついて〜王妃様、お菓子が多いです〜
「敵襲! 敵襲!」
「陛下、王妃様、お下がり下さい」
ダンジョン実習から3日後、国王との謁見に呼び出された私は敵襲に遭遇してしまった。
――――
「アリーシャ・ダグライル、よく来てくれた。面を上げなさい」
「はっ、国王陛下」
玉座に腰掛けるのはこの国、グランドルズ王国の国王、ゼオル・グランドルズ。その眼差しは柔らかでありながら鋭さも垣間見える偉丈夫である。
その隣には王妃のエルネ様。こちらは淑やかな慈母といった出で立ちだ。
ダンジョンでの騒動の後、教師陣から色々と聞かれ、あれよあれよと国王との謁見にまで発展してしまった。
「レベル255という伝説へ至ったことに賛辞を贈ろう」
「ありがたきお言葉でございます」
「ところでそのレベルに至る過程が気になる。差し支えなければ教えて欲しい」
「そうですね……」
別段隠し立てるものではないので全部話すことにした。義肢に関しては真似できるものではないが経験値を稼ぐというならば答えられることは多い。
防御系の装飾品は身につけず、経験値が上昇する物か攻撃力が上がる物、そして魔物を呼び寄せる物を身につける。
ダンジョンは迷宮系が良く、行き止まりを背にして細い道で次々に迫ってくる魔物を一撃で倒していくのが序盤の経験値効率としては良い。
より経験値が欲しいならボス部屋で連戦するのがよく、肌感で少し強いボス部屋に大量の復活石を持ち込んで倒したそばからボスを呼び出していくのが良い。
「おすすめはボス部屋ですね。効率を考え、パーティを組むよりは1人で。魔石も沢山採れますし。1日12時間を毎日続ければそれなりにレベルは上がるかと」
「お、おお……ルードヴィル大臣、貴殿も優秀な魔導士であるが同じ事ができるか?」
「例えレベル76のバーニキスやテオドリックと組んでいたとしても不可能ですな。命がいくつあっても足りませぬ」
「そうか。いや、とにかく凄まじいことは分かった。大変だったのだな、アリーシャ嬢」
何か憐れむような目で見られてしまった。私にとっては日課なだけなのだが。そういえばあの田舎のダンジョンが懐かしいな。
「して、その偉業に褒美を授けたいと思う。財貨や勲章、望むのならばそれなりの地位も与えよう」
なんとも太っ腹な提案だ。恐らくレベル255の私が国外に出ていったりするのを防ぎたいのだろう。
「大変ありがたいことですが、私は一介の学生です。食べるに困らず平和で穏やかな日々があればそれで十分でございます」
「なるほど、では王国としてその日々が壊れないよう尽力しよう。もし有事になれば王国の剣としてその力振るってもらいたい」
「はい。そのようなことがあれば堅固なる要塞として王国をお守りしましょう」
「はは、要塞か。よろしく頼むよ」
要塞と言い換えたのは他国の侵略に使われないようにするためだ。侵略戦争の兵器に使われるなど御免である。
「ああそうだ、無礼を承知でその義手を見せてもらえないか? 魔導具を奨励している身としては気になってね」
「ええ、構いませんが」
確かにこの国では魔導具の開発が国王主導で進められている。その本人が気になるのも当然というものだ。
しかし、構わないと言った反面、ロイドに言われたことを思い出すと少し妙な気持ちになる。
――ガシャン
義手を台に置き、陛下の前まで運んでもらう。自分から義手が離れていくのもやはり同じ気持ちだ。
「ほう、これは……なんと精緻な。本当に戦うための設計といったところか。魔力回路は……」
「陛下、それはお止めになられた方が」
「っと、そうだなエルネ。踏み入り過ぎてもいけない。さぁ返そう……」
――ドォォン!!
「な、なんだ、扉が!」
「敵襲だー!」
――パリィン!
「窓からも2人入ってきたぞ!」
「応戦しろー!」
「陛下、王妃様! お下がり下さい!」
「アリーシャ嬢! 戦うつもりか? しかし義手が……」
――ビリィ!
「お見苦しいものをお見せしますがお許し下さい」
服の肩口から袖を破いて義手を接続する。
「ぐっ……!」
「アリーシャ嬢、どうした!?」
「いえ、平気です。それより早く!」
「すまない、頼んだ!」
雑な接続をしたせいで一瞬めまいがした。くっ、こんな時に限って厄介な。
「敵は4人、衛兵は全滅ね」
陛下が逃げる時間を稼ごう。衛兵が落としていった剣を拾い、構える。レベル76が2人に60と55か。なんとかはなるだろうけど。
「なるほど、ただの賊じゃないようね」
長剣の敵が斬りかかってくる。かなり洗練された剣筋だ。レベル76というだけはあるが特段難しいことはない。
その打ち合いに文字通り横槍を入れてくるのが長槍の敵。レベル60だがいい動きをしている。
そして2人が離れたと思うと巨大な双剣の敵が凄まじいパワーを押し付けてくる。弾き返しがいのある攻撃だ。
「隙潰しがお上手よ」
何より厄介なのがクロスボウの敵だ。全員の攻撃の僅かな隙間にこれでもかと撃ち込んでくる。
とにかくまずはクロスボウを潰そう。撃てなくしてしまえばいい。
――バシュッ!
剣の打ち合いに意図的に作った隙間から特殊な魔力弾をクロスボウに向けて撃つ。
「!?」
「お生憎様、粘着弾よ。これで矢は撃てないし、動けないわ」
遠距離を封じた。後は3人だ。これは同時に処理する必要がある。
剣と槍の攻撃をステップで誘導し、あえて双剣から見た時に隙があるように見せる。
そしてそうなると……やはりきた、3人の同時攻撃だ。
ここで決めよう。
「柔花反閃・五倍付」
――バキャッ!!
――ドゴンッ! ドゴンッ! ドゴンッ!
受けた威力を5倍にして返す剣技をもろに食らい、3人の武器は砕けて本人たちは3方向に吹き飛ばされ壁に打ちつけられてしまった。
魔法強化された壁に大きな亀裂が走り、衝撃でシャンデリアがいくつか落ちて壊れている。
さあ、では話を聞こうか。
「クロスボウのお姉さん。貴女たちは何者なの?」
少し見上げながら剣を喉元に突き立てて問う。白昼堂々とよくやったものだ。
「……話には聞いていたけど、貴女には敵わないのね」
「え、その顔、確かあの時の……フィリーネさん、でした?」
仮面の下の顔は見たことのあるものだった。
一体何がどうなって?
「そこまで! 皆、剣を収めよ!」
疑問の中に響いたのは国王陛下の声だった。
――
「いや、本当に申し訳ない。試すようなことをしてしまって」
「い、いえいえ、頭を上げて下さい、陛下」
先程の戦闘の後、私は陛下と王妃様との非公式な会談に呼ばれていた。
どうやらあの敵襲は国王陛下の指示で行われたものらしく、私の本当の実力を少しでも知りたかったかららしい。
あと、危機的状況にあって私がどんな行動をするのか、というのも。
「陛下が義手に夢中になって返すタイミングが遅れて袖を破かせてしまったのは私からも謝るわ。ごめんなさいね」
「そんな、王妃様まで」
あれには2人も相当驚いたらしい。緊急時なら四の五の言っていられない以上、仕方のないことだとは思うが。
「アグラルもテオドリックもまた詳しく話したいと言っていたよ。ああ、アグラルというのはバーニキス大将軍のことだ」
「ええ、是非とも」
私を試すのに大将軍と騎士団大団長テオドリック、精鋭部隊の隊長ライネスと副隊長フィリーネを同時に投入するなんて贅沢なことだ。
「さて、本題に入ろう。今、この国には現王政をよく思わない反王政派が相当数いる」
「私たちとしては貴女が反王政派に引き込まれないか心配で早めに話そうと今回の謁見を用意したの」
「なるほど。確かにあの敵襲で私が動かなかったら私は反王政派かもしれませんからね。倒されても理由がつきますし」
「……貴女が反王政派でなくてよかったよ。もし反王政派から何か持ちかけられたらすぐに相談してほしい。反王政派が提示した以上の物を出すと約束しよう」
「ごめんなさい。学生の貴女を国のいざこざに巻き込んでしまって。貴女の望む平穏な生活のためにこちらもできる限りのことはするわ」
なんとも高待遇なことをしてくれる。よほど私が反王政派に行ってほしくないらしい。まあ行くつもりもないけど。
「ところで、私の実家のダグライル家はどちらなのですか?」
「えーっと……反王政派ね……」
「でしょうね。娘を悪魔召喚の生贄にするような両親ですし」
「え?」
不思議そうな顔をされたので私が過去に生贄にされて悪魔のお遊びで手足と目を奪われたこと、両親に捨てられ田舎に幽閉されたこと、生きて戦うために義肢の改造を続けたこと、生の実感が経験値だけだったことについて話してみた。
なにやら聞いている間に2人の顔から血の気が引いていっているような気がしたが……
「……ダグライル家には近い内に調査を入れる。あの伯爵め、そんなことを」
「辛かったでしょう? 泣きたいならいつだって私のところにきてもいいのよ?」
何やら陛下は怒気を含んで悔しそうにそんなことを言うし、王妃様には泣かれてしまった。
そんなところで会談が終わり帰路についたが帰り際に王妃様からお菓子を山盛り持たされてしまった。
帰りの馬車で少し食べたそれは何故かどこかが温まるような気がした。
甘い物なんてただの効率的なエネルギー補給の手段でしかなかったのだが。
でもこんなに食べられませんよ、王妃様……
そうだ、アヤにも食べてもらおう。いくつか包んでロイドにあげるのも悪くない。
――――
「隊長、敵いませんでしたね」
「ああ、全くな」
王城の救護室で反省会をする。やはりアリーシャ嬢は強すぎる。
「なーに、気にするなライネス! 俺も全く歯が立たんかった!」
「笑っている場合かアグラル。完敗だったんだぞ」
アグラル大将軍、テオドリック大団長、この国の最高戦力とも言える2人にここまで言わせるのだからアリーシャ嬢は底が見えない。
「いや、しかし見事に踊らされたな。陛下はアリーシャ嬢を踊っているようだと評したが……」
「私たちはその完璧なリードに身を任せるまま、ということですか」
「だな! この歳になってダンスをリードされるとは! はっはっはっ!」
「あの戦闘で彼女にほとんど義肢の機能を使わせられなかった。剣技だけで圧倒されたも同然か……」
あの時より私もフィリーネも格段にレベル上げた。それに最後は3人の全力を同時にぶつけたというのにそれもアリーシャ嬢の手のひらの上で、完璧に返されるどころか吹き飛ばされてしまった。
まだ、鍛錬が足りない、か。
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