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第96話 子ども世代

 朝の森は、静かだった。

 ――いや、正確には違う。

 賑やかさの質が変わっていた。

「待てー!」

「そっちはダメだって!」

 甲高い声が石畳に響く。

 胸の高さほどの石垣の内側、

 柵に囲われた安全な区画――

 そこが、いつの間にか“遊び場”になっていた。

 小さなゴブリンが二体、

 転びそうになりながら走り回っている。

 体はまだ幼いが、動きは素早い。

 判断も早く、無駄がない。

 追いかけているのは、コボルトの子だ。

 四足で地面を蹴り、時折二足で跳ねる。

「ずるいぞー! それ反則だろ!」

「へへーん!」

 言葉が、はっきりしている。

 拙いながらも、文として成立していた。

 ヒトシは、その様子を少し離れた場所から見ていた。

(……早いな)

 生まれて、まだ数週間。

 それでも彼らは、

 もう“子ども”として完成し始めている。

 身体の成長だけではない。

 理解力が、異常なほど高い。

「ヒトシさん」

 声をかけてきたのは、グルナだった。

「どうです? あの子たち」

「……正直、驚いてる」

 ヒトシは率直に答えた。

「覚えるのが早すぎる」

 グルナは苦笑する。

「私たちも、そうでした」

「生まれた時から、適応進化の影響下にありますから」

 その言葉に、ヒトシは目を細める。

(……そうか)

(俺たちとは、もう違うんだ)

 彼らは“進化の途中”に生まれた世代。

 危機も、再建も、

 すべてが前提条件として組み込まれている。

 少し離れた場所では、

 ロックオーガの子どもが石を積んでいた。

 遊び、というよりは――

 模倣だ。

 大人たちがやってきたことを、

 見て、覚えて、真似ている。

「それ、違う」

 ゴブリンの子が、口を出す。

「角度、もっとこう」

 小さな手で示す角度は、

 驚くほど合理的だった。

 ロックオーガの子は一瞬考え、頷く。

「……わかった」

 力任せに積み直すのではなく、

 配置を変える。

 石は、安定した。

「おお……!」

 周囲から小さな歓声が上がる。

(……教育、してないよな)

(勝手に、学んでる)

 ヒトシは、胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。

 公園の奥。

 ブランコに座る小さなゴブリンの子がいた。

 グルナが作ったというそれは、

 石と木を組み合わせた簡素なものだ。

「高くしてー!」

「順番だよ!」

 そのやり取りを、

 サラとアンが少し離れたところで見ていた。

「……ねえ」

 サラが呟く。

「この子たち、人間の子どもと変わらないわ」

 アンは、首を振る。

「違う」

「もっと、落ち着いてる」

 確かにそうだった。

 無駄に泣かない。

 無駄に争わない。

 何かあれば、話し合おうとする。

 それは教えられたものではない。

 環境が、そうさせている。

 ヨークが、腕を組んで眺めていた。

「なあ、ヒトシ」

「俺たち、ちゃんとやれてるか?」

 珍しく、軽口ではなかった。

「……ああ」

 ヒトシは、迷わず答えた。

「やれてる」

「少なくとも」

 子どもたちの方を見つめながら、続ける。

「“生き残るだけ”の世界じゃなくなった」

 ヨークは、ゆっくり息を吐いた。

「そりゃあ……」

「良いことだな」

 その時。

 小さなゴブリンの子が、ヒトシに気づいた。

「……おうさま?」

 呼び方はまだ定まっていない。

 だが、誰が中心なのかは理解している。

 ヒトシは、膝をついて目線を合わせた。

「どうした?」

「これ、できた!」

 差し出されたのは、

 木片を組み合わせた小さな箱だった。

 歪んでいる。

 粗い。

 だが。

(……工房の真似か)

 ヒトシは、笑った。

「すごいな」

「もう作れるのか」

 その言葉に、子どもは誇らしげに胸を張る。

 周囲の子どもたちも、

 「俺も!」「私も!」と集まってくる。

 ヒトシは、その光景を見ながら思った。

(……守るべきもの、か)

(もう、抽象じゃないな)

 ここにいる。

 声がある。

 未来が、動いている。

 ヒトシは立ち上がり、

 再建された村を見渡した。

 石造りの家々。

 整った道。

 遊ぶ子どもたち。

(……これなら)

(進化も、戦いも)

(意味がある)

 そう確信できる光景だった。

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